第28話 光の塊

「アホ、避けろ!!」


【わぁ!!】


【サイモン】の声に【新二】は咄嗟に右へ転がり、セメントの塊が立っていた壁にえぐり込む。


「あっぶねぇ・・・」


「何やってんだこのアホ!!敵から目離すなんて死にてぇのか!!」


【サイモン】の怒号が【新二】の背中にぶち当たる。


「【魔力感知】」


「アア゛?」


水面下から次々セメントの塊と液体が撃ち出され、【新二】は反射的に回避しながら【サイモン】に話す。


「【石灰魚】は、水面下を不規則に泳いでる。【魔力感知】でとらえなければ、勝ち目は無い!!」


次の瞬間、セメントが【新二】の左足に付着し【新二】の動きが止まる。


「しまった!!」


【石灰魚】がこの隙を逃すはずもなく。動けない【新二】に液体のセメントを撃ち込み、【新二】を石像に変えた。


「【マエダ】の旦那!!」


【サイモン】が叫ぶが石像はピクリとも動かず、まるではじめからそこにあったかのようにたたずんでいる。

 【石灰魚】は湖を優雅に泳いで周回し、次の標的を【サイモン】に定め、セメント攻撃を始める。


「旦那!!今助けるで!!」


【サイモン】が穴から飛び降りると【石灰魚】のセメント攻撃が【サイモン】のいた穴を塞ぎ、湖の淵に着水した【サイモン】は【新二】の石像に向かって走る。


ザザザザァ!!


【石灰魚】は【新二】の元へ向かう【サイモン】の邪魔をするために、尾びれで巨大波を起こす。


「舐めんな!!」


【サイモン】は壁の凹凸に足を掛けて飛び上がると壁に採掘用のたがねを撃ち込み巨大波から逃れる。


「旦那!!絶対助けるからもう少し耐えてくれ!!」


ぽあ・・・ぽあぽあ・・・


一面に広がる真っ暗な世界。【石灰魚】のセメント攻撃に被弾した【新二】は熱と呼吸困難の苦しみの末に、この真っ暗な世界にやって来た。


【*#&$¶@】


何かの声が聞こえる。


【℃ωの¥∂†】


「誰だ?」


【新二】は聞こえる雑音の声の主に向かって問うが、謎の声は繰り返し何かを【新二】に伝えようとする。


【$え†の@#な】


雑音が徐々に人の声に近付き、小さな光の粒子が纏まり、小さな1つの塊と2つの大きな塊になる。


【まえ%のだ※な】


大きな光の塊から細い光が小さな塊へ伸びる。


【マエダの旦那ぁアア゛!!】


「【千時】!!」


【サイモン】の声がハッキリ聞こえ、全身を覆っていたセメントを吹き飛ばす。



【マエダの旦那ぁアア゛!!】


【サイモン】は左半身をセメントに固められながらも繰り返し叫び、【新二】が埋まるセメントに槌を振るう。


「旦那!!こんなところで!!くたばる!!タマじゃ!!ねぇだろ!!」


【サイモン】の身体は一秒事に動ける範囲が狭まり、死への秒読みが始まる。


「帰ってこい旦那!!あのクソ魚をぶったぎるんだろ!!」


【新二】を覆うセメントは槌で少しずつ剥がれていき、【新二】の左顔が穴から除かせる。


「目を覚ませ!!【マエダの旦那ぁアア゛!!】」


【サイモン】と【新二】を狙うセメントの泥が発射され、水面を切り裂き、二人に向かって一直線に走る。

 確定された死の未来、だが【サイモン】は諦めずに【新二】の胸を覆うセメントに最後の一撃を撃ち込んだ。


「【千時】!!」


 突如【新二】の目が開き、凄まじい魔力で身体を覆っていたセメントを吹き飛ばし、【石灰魚】のセメントビームを真っ二つに切り裂く。

 左右に別れたセメントは背後の壁に轟音を立てて爆発し、壁の欠片が【新二】と【サイモン】に降りかかった。


「遅いぞ旦那ぁ・・・」


左半身をセメントで固められた【サイモン】は爆風で壁に棒のように立て掛けられ、【サイモン】を庇うように【石灰魚】に向かって立つ【新二】に安堵の表情を浮かべた。


「ごめん、少し【魔力感知】を体得するのに時間がかってた。だけどもう大丈夫【石灰魚】の居場所は手に取るように分かるから」


【新二】の視界には水面下にいる【石灰魚】の大きな魔力の塊がハッキリと見え、背後にいる【サイモン】の魔力もまるで天井から見下ろしてるように認識出来る。


「分かってるぞ」


【新二】が呟くと水面下からセメントの弾丸がマシンガンのように乱れ撃ちされ、【新二】は【サイモン】と自分に被弾しそうな弾だけを切り落とす。


「アァアアア゛!!」


固まった左半身のせいでうつ伏せることも出来ない【サイモン】は【新二】の切った弾丸が顔や身体の近くを通り、壁に次々めり込み、土煙を上げる様子に絶叫する。


【ギャアアア!!】


「次はこっちの番だな」


【新二】は【千時】を閉じ【千時】を矢に見立てて弓を引くように腕を引き絞る。

 【千時】に深緑の魔力がドリルのような螺旋を描きながら纏わりつき。水面下の【石灰魚】が2匹重なった瞬間、深緑の閃光が【石灰魚】を貫き、湖の底へ2匹の【石灰魚】は沈んでいった。


「これでいいのか?【千時】」


【はい、良くできました。しかしまだまだ改善の余地がありますね】


まるで小学校の教師のような言い方に【新二】は少しイライラするが。今回、水面下の【石灰魚】を仕留める為に高速の斬擊を【千時】が扇の特性である折り畳みを使って刃の長さを短くし、矢を模した一点突破の斬擊にする事を教えてくれた為、【新二】は不満を言う気にはなれず、喉に出かかった言葉を飲み込んだ。


「なにがともあれ助かった、ありがとう」


【どういたしまして】

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