第29話 商会探し

時は少し遡り、【新二】と【サイモン】が洞窟内を探索していた頃。【ロモッコ】と【ケインズ】は【ファイゼ】村に商会を呼ぶため、【ベイル】町に来ていた。


「希望に添えず申し訳ありません」


「いいえ、こちらこそお忙しい中商談を聞いて頂きありがとうございます」


商会の使用人に【ロモッコ】は頭を下げ、【ケインズ】を連れて【ベロック商会】を出る。


「分かってはいたけど、ここまで足元見られるとなかなかキツイですね」


「商会は利益を重視しますし、【ファイゼ】村は悪い意味で有名ですからね」


「貧しく、危険で、川汚しの犯人ですか・・・石像も嗤いたくなるような状況ですね・・・?」


【ベロック商会】の中が騒がしく、【ロモッコ】と【ケインズ】商会内に振り返る。


「一度でもいいんです!!どうかよろしくお願いいたします!!」


何かを必死に叫ぶ茶髪の髪の少女が商会の使用人に追い出されるような形で商会から飛び出してきた。


「お願いです!!どうか!!どうか商品を・・・」


少女の必死の頼みと土下座にも使用人はなびかず、淡々と少女を商会から追い出すと出入口の扉を閉め鍵をかけた。


「どうか・・・どうか・・・」


少女は必死で涙をこらえているが石畳にポツポツと雫が落ち。【ロモッコ】と【ケインズ】の視線に気付くと何か気まずそうに軽く会釈して去っていった。


「あの子どうしたのかしら?」


「気になるなら追いかけるか?」


「いいえ、彼女を確実に助けられるなら別だけど。気安く触れていい事ではないわ」


「そうだな・・・」


【ロモッコ】と【ケインズ】は次の商会に向けて歩き出す。


「7・3なら引き受けましょう」


いかにも悪徳商人というような中肉中背の男性【ナリカネ】がきらびやかな指輪を着けた手を組、欲望の笑みを浮かべている。


「こちらが7とは行かないんですよね?」


「当たり前この事だろ?なにしに俺様の商会がわざわざ辺境の貧乏村を相手にしないかんのだ。相手にするならそれなりの利益を寄越すのは常識と言うものだぞ?。ケッこれだから平民上がり小娘は・・・」


【ケインズ】が青筋を浮かべ、今にも商人に襲いかかりそうだが、背後のゴツイボディーガードの威圧と氷の笑顔を張り付けた【ロモッコ】に太股をつねられ、辛うじて事件を起こす事なく商会を出た。


「ああムカつくあの豚め!!」


「少し黙りなさい」


「はい・・・」


怒りを露にする【ケインズ】とは対極に氷の笑顔の【ロモッコ】は一言で【ケインズ】を黙らすと何事も無かったように【ナリカネ商会】を出る。


「あの・・・どうか話だけでも・・・」


「何度来ようが同じだ、帰れ!!」


商会の受付から大きな声が聞こえ、気になって【ロモッコ】と【ケインズ】が振り返ると【ベロック商会】で見た少女が警備員に追い出される用にして【ナリカネ商会】から出てきた。


「あの・・・ごめんなさい!!」


「ちょっと・・・!?」


【ケインズ】のが話しかけるが少女は止まらずに走り去っていった。


「あの少女が気になるのかしら?」


「ああ」


「可愛かったもんね」


「そうだな・・・?!」


【ケインズ】がしまったと思った時には遅く、【ロモッコ】が黒い笑みで【ケインズ】の頬を両手で引っ張り伸ばした。


「そうですもんね、こんな暴力的な女より守りがいのある健気な女の子に引かれますよねぇ」


「【ロモッコ】ギブゥ~ギブゥ~。訂正、勘違い」


5分ほど【ケインズ】は【ロモッコ】に頬を引っ張られ、手を放された時は心なしか頬が4センチほど延ばされたように感じた。


「成る程、話は分かりましたが。正直難しいかと」


【プロバンス商会】に足運んだ【ロモッコ】と【ケインズ】は会長の【プロバンス】に渋い顔で言われた。


「やはり輸送の問題ですか?」


「ご希望に添えず申し訳ありません」


【プロバンス】は【ロモッコ】と【ケインズ】に頭をさげた。


過去、現在においても【ファイゼ】村の状況はあまりよろしくない。それには幾つか理由があるが、大きな物は二つある。

 一つ目が商品、現在【ファイゼ】村の出せる商品は【新二】が森で狩ってきた獣、魔物の部位しかない。獣も魔物も皮や骨を加工した品もあるが【ベイル】町で見れば質も値も量も稀少性も全て負けており商品価値はほぼ無い。農業はまだ畑を開拓中なので出荷には程遠い。

 二つ目は輸送ルート。【ファイゼ】村は帝国の中で一番端の辺境にあり、どこどこの村、町へ行くついでに寄ると言う事が出来ない。さらに魔物の多く住む森に近くで安全に行き来ができるとは言いがたかった。

 以上が大きな理由であり、わざわざ高いリスクを背負い、恩を売ってまで【ファイゼ】村と取引しようと言う商会は現れなかったのだ。


「なかなか辛いわね・・・」


【プロバンス商会】から外に出ると、日はすっかり傾き、冷たい風が【ロモッコ】の髪の毛を触り流す。


「やはりアレ鉄鋼石の存在を言うしか・・・」


「それはダメ!!、そんな事したら本末転倒じゃない」


「ですよねぇ~」


町の街灯に明かりが次々ついていき、【ロモッコ】と【ケインズ】は町の噴水の淵に腰をおろす。


【【はぁ・・・何処かに良い【商会】はいないかなぁー】】


「「?!」」


【ロモッコ】が呟くと同時に噴水の後ろで同じ言葉が聞こえ、【ロモッコ】と【ケインズ】は噴水の裏を覗くと【ベロック商会】【ナリカネ商会】にいた少女がこちらを覗いていた。


「あっ!!ごめんなさい!!」


「ちょっと待って!!」


逃げ出した少女の手を【ロモッコ】は掴み、少女は後ろに引っ張られた為、【ロモッコ】に覆い被さるように倒れる。


「ごめんなさい、ごめんなさい、出来損ないでごめんなさい!!」


「逃げないで!!私の話を聞いて!!」


【ロモッコ】は半ば力ずくで少女を止めると噴水の淵に座り少女と向かい合った。


「ここで会ったのも何かの縁、お互い良い【商会】を探して苦労してるのだから少し愚痴らない?」


【ロモッコ】が少女に笑顔で言うと少女は涙目になりながらも口を開いた。

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