第30話 フィフス商会
「私・・・【メール】と言います」
「私は【ロモッコ】よ、隣のが【ケインズ】。浮気性のダメ男だけど仕事は真面目だわ」
「おい!!」
【ケインズ】が【ロモッコ】を睨み付けるが【ロモッコ】はなに食わぬ顔でスルーする。
「私の家は代々続く【フィフス商会】の家系だったのですが、ある日お父さんとお母さんが突然亡くなっちゃって・・・そしたら今まで仲良くしてくれた人皆居なくなっちゃって。何とかお父さんの【商会】を継いでいこうとしてるけど、何処も相手にしてくれなくて・・・、私どうしたらいいか分からないの!!」
泣き出した【メール】を【ロモッコ】は優しく抱き締め、【ケインズ】に視線で「向こう向け」と指示し、【ケインズ】は「分かってる」と不貞腐れながら振り返る。
「そうね、それは大変だったね・・・」
【ロモッコ】は【メール】の背中を優しく擦り、【メール】が落ち着くまでずっと続けた。
「ごっ・・・ごめんなさい・・・」
「大丈夫、気にしないで・・・辛かったら我慢せずに泣けばいいわ。涙女の武器なんだから」
「(お前には一生似合わねぇけどな)」
【ケインズ】の心の声が聞こえたのか【ロモッコ】は【ケインズ】の股関に拳を打ち込み、【ケインズ】は悶絶し、地面を転がる。
「コホン!!次は私の番ね」
【ロモッコ】は咳払いをして【メール】に向かい合う。
「私は【ファイゼ】村に駐在している【帝国兵士】なんだけど。その【ファイゼ】村はとても貧しく、何とか復興させたいと思っているわ。だけど地理的にも辺境にある村は【商会】にとって旨味がほとんどなく、ことごとく断られているって訳」
【ケインズ】が【ロモッコ】の言葉に腕を組相槌を強く打ってると【ロモッコ】がふざけてる疑いを眼差しに込めて【ケインズ】に向け、【ケインズ】は相槌をやめ、冷や汗が頬を伝う。
「あの!!」
【メール】が声を上げ、【ロモッコ】と【ケインズ】が【メール】に視線を向ける。
「もしよろしかったら私の商会と取引を・・・」
早口で声が小さくなりながらも言う【メール】を【ロモッコ】は力強く抱き締める。
「【メール】ありがとーーう。【ケインズ】とりあえず一つの【商会】を確保したわ!!【ファイゼ】に連れていくわよ!!」
「えっ?!今からですか!!」
「そうよ」
【ケインズ】は驚くが【ロモッコ】は本気のようでこうなったら止められないと悟った【ケインズ】は気持ちを切り替えた。
「分かりました、しかし【メール】さんも支度があるでしょう。それが終わってからですね」
「そうね、【メール】ちゃんはどうかしら?来てくれる?」
「はい!!行きます!!あっ!!ちょっと兄に話をしてからでもいいですか!!」
「ええ、構わないわよ」
【メール】は夜の町を走って家に向かい。【ロモッコ】と【ケインズ】も後を追った。
「お兄ちゃんただいま!!いいニュースがあるよ!!」
【メール】が入った建物は古く、とても商会の娘が住んでいるとは思えない外観ではあったが、玄関の外から見える部屋は掃除が行き届いており、【メール】の真面目な性格が見て取れた。
「これはどうも妹がお世話になります。兄の【カール】です」
「あっ「なっ」?!」
部屋の奥から現れた18歳ほどの白髪の青年は両面を包帯で覆い、太い枝の杖を使って【ロモッコ】と【ケインズ】の前に立った。
「ああ、驚かせてしまったかな?。この目はちょっとした病気でね。今は何も見えないんだ。まぁ、何もない家だが水位は出せるよ」
「いいえ、お気遣いなく・・・」
「そうかい?」
【カール】は少し残念そうな表情をするが直ぐに戻り、【メール】の説明と【ロモッコ】からの捕捉を相槌を打ちながら聴き、少し複雑な顔をする。
「【メール】の話は分かったけど、お兄ちゃんを余り心配させないでおくれ」
「ごめんなさい・・・」
うつむく【メール】の頭を【カール】は優しく撫でる。
「別に悪い事じゃない。だけどお兄ちゃんは今、いざと言う時に【メール】を守れないんだ。余り無茶な事はしないと約束してくれ」
「はい、お兄ちゃん・・・」
「分かったならいい、【ロモッコ】さん【ケインズ】さん。どうか【メール】を助けてやって下さい。今はお礼は出来ませんが、いずれお返しさせていただきます」
【カール】は二人に頭を深く下げる。
「【カール】さん勘違いしないでください。別に私達は【メール】さんを善意で助ける訳じゃありません。私達も【フィフス商会】を利用しようと協力する訳です。お互いに利益ある協力をしましょう」
【ロモッコ】は手を【カール】に差し出し、【カール】は数秒の沈黙のあと【ロモッコ】の手を取り、こうして【ファイゼ】村と【フィフス商会】の協力契約が成立した。
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