第31話 スタート地点

「まったくとんでもない目にあったぜよぉお!!」


【新二】の肩を借りながら【サイモン】は森の中を歩く。


「でも【石灰岩】の炭鉱が見つかったのは結構大きな功績じゃないですか?」


「お陰で左半身セメント漬けにあったけどな!!」


「あははは」


【新二】が乾いた笑いをすると【サイモン】は不貞腐れながらも何処か清々しい気持ちで見えた村の灯りを眺める。


「帰ってきたんだなぁ」


「ああ、俺達の村だ」


「まったく一時はどうなるかと思ったぜ!!」


【石灰魚】を湖に沈めた後、セメントに覆われた【サイモン】の左半身を【新二】は慎重に【千時】で削り取り、最後は【サイモン】自身が左半身に槌を振るってセメントを砕いた。その影響で【サイモン】は一時的に支え無しでは歩けなくなったのだ。


「まあ、それでも結果は良い方に向いている」


【新二】は【サイモン】を支えながら村に向かって歩いて行った。


「ただいま戻りました」


「戻ったでぇ~」


「お帰りなさい、ってどうしたの【サイモン】さん?!」


「なぁに、ちと【石灰岩】の地層を見つけてな、その奥の地底湖に住む怪物と殺りあっただけやい」


【ロモッコ】が疑いの眼差して【新二】に事実確認し、【新二】が「本当です」と答えると【ロモッコ】は偏頭痛に襲われた。


「状況を説明してちょうだい」


【新二】がこうなった経緯。森で地質の調査中に小川で【石灰】を発見、上流に昇ると洞窟があり、さらにその奥に広大な【石灰岩】のドームと地底胡が広がっていた。だがその地底胡には巨大な【石灰魚】生息しており辛うじて討伐できたが【サイモン】は戦闘で左半身をセメント漬けにされ、その後遺症で一時的に自力で歩けなくなったと説明し、【ロモッコ】【ケインズ】と謎の少女は口をポカーンと開けている。


「良く生きて戻ってこれたなお前ら」


「そりゃ必死だったので」


【ケインズ】の半ば呆れた声に【新二】は苦笑し、【ロモッコ】は額を片手で押さえた。


「まぁ、経緯はともかく結果だけでいえば大きな収穫だわ。それでこっちだけど」


【ロモッコ】は【メール】の顔に視線を送り、【新二】【サイモン】も少女の顔を見る。


「【フィフス商会】の【メール】です!!宜しくお願い致します!!」


「鍛治屋見習いの【サイモン】だ」


「【前田新二】一等兵だ」


緊張で震えながら頭を下げる【メール】に【サイモン】と【新二】は挨拶する。


「まぁ、と言う訳で【商会】もなんとかなったわ。これで計画に必要なパーツは揃いました。明日から本格的に動くからそのつもりで」


「はい「了解「うっす」」!!」


翌朝。


「【千時】」


【新二】が【千時】を振い、深緑の斬擊が森の木々を瞬く間に伐採し【石灰岩】の洞窟へ降りる道を切り開く。伐採された木々は村の男総出で村へ運び、炭や乾燥させて木材になる。

 

「兄ちゃん相変わらずスゲー力だなぁ」


「色々鍛えられましたから」


村人が5人集まって一本持つ丸太を【新二】は軽々担ぎ上げ、山道をダッシュで往復する。


「まぁこんなもんやろな」


【サイモン】は【ホーム】に使うレンガを作る為に泥の登り窯と炭を作る窯を作り。中で焚き火をして乾燥させてる間に、良くも悪くもない土を取りに山へ向かった。


「ほう、これは思い切った行動に出たな」


【ベイル】町の【駐屯地】にある執務室で【バウンズ】兵士長は【ロモッコ】から受け取った計画書を見てニヤリと笑う。


「【ファイゼ】村にまさか【石灰岩】が取れる場所があるとは驚いたな。しかもに優先的に流し、取引を【フィフス商会】に委託する事で【フィフス商会】の信頼を獲得し、次に村の特産品も流せるようにする。そしてより広範囲に取引出来るようにし、更なる信頼と金銭を得て村の復興と税金に当てる。新しい商会の参戦で多少不利益もあるが、総合的に見れば【ベイル】町にも利益があり【ファイゼ】村にも利益があるいい計画だ」


【バウンズ】は計画書を机に置くと手を組、両肘を机に立てる。


「ありがとうございます。【ファイゼ】村近郊の森にはまだまだ未調査の部分もあり、より森の深くには更なる資源が眠っている可能性もあります。【ファイゼ】村の復興と発展は必ずや【ベイル】町にとっても将来有益になるでしょう」


堂々とした【ロモッコ】の主張に【バウンズ】は相槌を打つと視線で隣にいた【アルテナ】副兵士長に合図を送り【アルテナ】は【ロモッコ】に新しいバッチを渡す。


「【ロモッコ】二等兵士、【ファイゼ】村復興の功績により。本日付で【三等兵士】に昇格するものとする」


「えっ?!ありがとうございます!!」


【ロモッコ】は【バウンズ】兵士長に深々と頭を下げる。


「【ケインズ】【サクマ】【マエダ】の三名も同功績により全員【二等兵士】に昇格するものとする。バッチはこの後【アルテナ】が届けるので待つように」


「はい!!」


【ファイゼ】村郊外【サクマ】はボロのクワを振り土を耕す。


「【サクマ】様お疲れ様です」


「ありがとう【リンド】」


【サクマ】は【リンドウ】から水をもらい竹筒を逆さまにして竹筒の水を一気に飲み干すと自身が耕した畑の大きさに目を細め、再び【リンド】と一緒に土を耕しはじめた。


【ファイゼ】村駐屯所で【ケインズ】は【ロモッコ】の代わりに村の状況、報告を木板に炭を使って書き纏めていた。


「これはここで良くて、アレは解決したけど。あの問題が出てきて・・・」


木板に所狭しと並べられた文字と簡易的な地図と図形。【ケインズ】は一人言をぶつぶつ言いながら木板の文字を白い砂を擦って消しながらまた炭で文字を書く。


「まだまだ課題や問題だらけだけど、ようやく【スタート地点】に立てたな」


【ロモッコ】【ケインズ】【サクマ】が【ファイゼ】村に来て一月、ようやく【ファイゼ】村は動き始めた。

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