三章 金と失恋
第32話 欲に溺れる者
「うーん、思ってたより延びないわね」
【ベイル】町へ計画書を出して一月が立った。
【メール】と兄の【カール】の引っ越しも無事に終わり。【ファイゼ】村に【アルテナ】が訪問して【ケインズ】【サクマ】【新二】は全員【二等兵士】へ昇格し、お祭り騒ぎになったのは言うまでもないが、【フィフス商会】の商業圏がここ一月【ベイル】町のセメント輸出と、その他の小さな村への微量の取引に収まってしまっていたのだ。
「ごめんなさい・・・私なりに頑張っているのですが・・・」
「別に【メール】のせいだけじゃないわ。きっと何か裏がある。私なりに調べてみるから【メール】は気負わずに今はまで通り行ってらっしゃい」
「ごめんなさい・・・」
【メール】は【ロモッコ】に深々と頭を下げると駐在所から外に出ていった。
「【メール】はもう少し肩の力が抜けてくれるといいのだけど・・・」
【ロモッコ】が独り言を呟いて、木板の文字に向かい合っていると、【駐在所】のドアがノックされた。
「どうぞ」
使用人と見られる男性がドアを開けると【ナリカネ商会】の会長【ナリカネ】が満面の笑みで入ってきた。
「これはどうも【ロモッコ】さん【三等兵士】に昇格おめでとうございます」
やや大げさな手振りで誉める【ナリカネ】に【ロモッコ】の眉がつり上がる。
「こちらこそ、先日はどうも。所で今日はどう行ったご用件でしょうか」
「いやいや【ロモッコ】さんもお人が悪い。あの時【石灰岩】の話をしてくだされば惜しみなく協力させて頂きましたのに・・・」
「【石灰岩】の件でしたら【フィフス商会】と契約をしておりますので【ナリカネ商会】さんの方と新たに契約するのであればそれなりの譲歩がいりますが?」
「これは随分と大きく出ましたな。しかし【フィフス商会】はここ一月余り【商業圏】を広げられず。取引先も【ベイル】町の【駐屯地】のみとお聞きします。我々なら他の多くの町村、強いては帝都【ハイドラ】とすら貿易出来ると断言いたしましょう」
【ナリカネ】の顔が黒く笑い、【ロモッコ】は先ほど【メール】と話していたタイミングもあって【ナリカネ】に強い疑いを掛けた。
「それは大変魅力的な話ですが。利益の取り分はいかがなさいますか?」
「利益は7、3と言いたい所ですが。今回は特別に6、4でどうでしょうかな?」
「また随分と多く取るのですね」
「それは当然でしょう。【ベイル】町だけの取引先を我々のコネで倍以上に増やすのですから。相応の利益をもらって当然でしょう」
「分かりました。そう言う事でしたならお引き取り下さい」
「なっ?!私が直々に来てやったと言うのに手ぶらで帰らせると言うのか貴様!!」
【ロモッコ】に【ナリカネ】が詰め寄り、醜い巨体で【ロモッコ】を見下す。
「貴方と契約すれば確かに今より多くの利益があるでしょう。しかし将来を見れば村に取って大きな負債となります。お引き取りを」
【貴様!!】
【ナリカネ】が【ロモッコ】に向かって手を振り上げる。
【その手は何だ?】
【ナリカネ】の背中にゾワリと寒気が走り、振り返ると【ケインズ】が小型の木板を持って出入口に立っていた。
「チッ・・・」
【ナリカネ】は舌打ちすると【ケインズ】にわざと肩をぶつけながら外に出ていった。
「【ロモッコ】大丈夫か?!、もしアイツに何かされてたら・・・」
「大丈夫、貴方が止めてくれたから何もされてないわ」
「しかしあの豚、俺の【ロモッコ】に手を出そうとしやがって!!」
パシッ!!
乾いた音が響く、【ロモッコ】が【ケインズ】にビンタしたのだ。
「なんで?!」
「私はまだ貴方の物ではありません!!」
怒ってソッポを向いた【ロモッコ】は【ケインズ】から木板を奪い取り、【ケインズ】の背中をバシバシ叩きながら【駐在所】から追い出した。
「まったく・・・鈍感なバカなんだから」
【ロモッコ】はボソッと呟くと再び状況の整理をはじめた。
「これぞワイの【マイホーム】!!」
村の外壁の外に新しく作った丸太の外壁。その中に黄色のレンガで建築していた【サイモン】の鍛治場もとい【マイホーム】がようやく完成したのだ。
「ううっ・・・ここまで長かったなぁ・・・。場所を探して、村から出て新しく外壁を作り。【マイホーム】を建築するためのレンガを作る為の窯を作り、土を探し。セメントの原料となる【石灰岩】を手にいれる為に巨大魚に殺されかけ、長かったなぁ・・・」
【サイモン】は涙を流しながら【マイホーム】に抱きつき。そんな【サイモン】の近くにいた村人はその光景を見て全員一歩引いた。
「これで【石灰岩】を運ぶのも大分楽になるかな?」
【新二】は小川の流れる洞窟に入らなくても【石灰岩】を採掘出来るようにする為、洞窟の頭上の山を【石灰岩】の地層まで【千時】で削ったのだ。
「流石【マエダ】の兄ちゃんやな。村への道も綺麗に切り開いてくれたし。地上からでも【石灰岩】を採掘出来るようにしてくれるとは感謝しかないよ」
「ありがとうございます」
自分より年上のお兄さんや男性に誉められ、【新二】は顔を少し赤くし後頭部を掻いた。
「やっと収穫だ・・・」
「おめでとうございます【サクマ】様」
【サクマ】は最初に耕した畑に実った野菜の数々を収穫し、歓喜の涙を流す。【リンド】も【サクマ】につられて涙をながし、自分の事のように喜んだ。
【全く私の善意が伝わらんとは、これだから平民上がりは気に食わんのだ!!】
【ナリカネ】は帰りの馬車の中で怒りに任せ壁に拳をぶつける。
【言葉で伝わらん愚民には罰が必要だな】
【ナリカネ】の顔が黒い笑みを浮かべ。まるで狂ったように小さく笑い出した。
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