第33話 【メール】と【サイモン】

カン!!カン!!カン!!カン!!


規則正しいリズムで鉄を叩く音が【サイモン】の【マイホーム】から聞こえてくる。

 【サイモン】は額の汗をタオルで拭い、真っ赤な鉄を木桶に入れ、水蒸気が音を立てて広がる。鉄が十分冷えると鉄ヤスリでナイフの形に整え、荒砥石、中砥石、仕上げ砥石と変え。【ベゼネッタ】さんから貰った魔物の廃材で試し切りをする。


「うん、やっぱダメだな・・・」


廃材は綺麗に切れたのに【サイモン】は納得いかなかった。


「やっぱり旦那の【千時】のような切れ味は難しいかぁ・・・」


【サイモン】は仕上がったナイフを作業台に乗せると。作業台に足を乗せて椅子にだらける。


「(ここ最近は森の奥にも入るようになってっから、今までの解体用のナイフじゃあ、切れねぇ獣や魔獣も増えてきた。もし解体用のナイフに【旦那】の【千時】並みの切れ味を出す事が出来りゃあ、これまで以上に仕事が楽になるだろうに・・・)」


【サイモン】はとりあえず仕上げたナイフを再び手に取り、改めて見定める。


「まぁ、材料は沢山あるし。ゆっくり研究してけばいいか」


【サイモン】は仕上げたナイフを【グランツ】【ベゼネッタ】夫妻に持っていくと。大変喜んだ夫妻にお礼で腹一杯晩ご飯を食べされされ、その後グロッキーになった。


翌朝早朝


「【メール】さんこれらもお願いいたします」


【サクマ】が野菜一杯の荷車を引きながら【メール】の元へやって来た。


「【サクマ】さん遂に収穫出来たんですね!!」


【石灰岩】を乗せた荷車の列で品物の確認をしていた【メール】は【サクマ】の野菜を見て少しジャンプをしながら近付き喜ぶ。


「【リンド】さんや村の人達の協力のお陰ですよ、見てください。【スナ】【リキュウ】【マトト】【レンホウ】どれも今までじゃ考えられないくらいの出来栄えです」


【サクマ】が優しく言うと隣にいた【リンド】も頬を赤らめて笑顔になっている。


「分かりました、ちょっと待っててくださいね!!」


【メール】は【サクマ】の荷車の野菜を幾つか手に取り、目利きをすると木板に何かを記入する。


「確か【サクマ】さんの畑は今年で一年目だそうですね」


「あっ、はい。2か月ほど前から土地を耕して育てました」


「個人としてはとても良い出来映えと言いたい所ですが。残念ながら市場としては中の下と言った所かも知れません・・・」


「【メール】ちゃん、全然気にしないで!!それくらいは私達も分かっているから」


「うん、来年には上の品質まで持っていくから心配しないで」


【リンド】【サクマ】の励ましに【メール】は少し申し訳無さそうな顔をするが、二人の笑顔に励まされ再び荷車の確認をする。


「ワイに護衛しろってか?」


「ええ、そうよ」


【サイモン】の【マイホーム】で眠そうにしている【サイモン】に【ロモッコ】は淡々と言った。


「護衛なら兵士の【ケインズ】さんと【旦那】【サクマ】さんに頼めばいいんやないか?」


「行きは【ケインズ】と私も同行するのだけど私達は【ベイル】町で色々調べる事があるから帰りの【メール】ちゃんの護衛は出来ないの。【マエダ】君は魔物狩りと【石灰岩】の採掘、運搬があるし。【サクマ】も畑の後は森で植物の調査をする予定で手が空かないの」


「何時もの傭兵はどうしたんだ?」


「それが行きはいいのだけど、帰りは何故か全員用事があって断られたわ」


「なんか事件が起こる匂いしかしねぇなオイ!!」


「だから【サイモン】君に頼んでいるのよ、【マエダ】君と【石灰魚】と戦った貴方なら。悪いけど村人よりは戦闘力になるわ」


「護衛の人材不足は結構大問題点だな」


「これでも移民や護衛を募集してるのよ」


「誰もわざわざ辺境に辛い思いをしに来たくないって訳な、分かった。引き受けりゃぁええんやろ?」


「ありがとう【サイモン】君」


【ロモッコ】は【サイモン】に頭を下げ、【サイモン】は面倒事に付き合わされたなとダルそうな顔をした。


「それでは出発します!!」


【メール】のかけ声で牛が荷車を引き、【石灰岩】と野菜を積んだ荷車が【ベイル】町へ向かって進み出す。


「雨が降りそうでしたけど、晴れてよかったですね」


「そうやなぁ・・・」


「鍛治は大変な重労働とお聞きしますが、【サイモン】さんは一人で村の鍛治を賄っていて凄いですね」


「そうやなぁ・・・」


「【サイモン】さん苦手な作業とかってあるんですか?」


「そうやなぁ・・・」


【メール】の気を使った会話をことごとく終わらせる【サイモン】。しかし【メール】は諦めずにひたすら話しかけ、最終的には「苦手な傷んだ食べ物を捨てようとしたが勿体無くて食べようと思った動機」という訳の分からない質問に行き着いた頃、【ベイル】町に到着して地獄のような質問が終わった。


「これが今日の分になります」


【メール】が【ベイル】駐屯地で資材置き場に【石灰岩】を積んだ荷車を並べると。資材管理の兵士が仲間の兵士達を呼び、集まってきた兵士達が【石灰岩】をバケツリレーのように手渡して荷車から下ろしていく。


「いつもご苦労様です。お代は今日も現金でよろしいですか?」


「はい!!」


「では何時もの事務所でお願いいたしますね」


「分かりました。ありがとうございます!!【サイモン】さん、少し牛をお願いしていいですか」


「ああ、ええよ」


【メール】は兵士に頭を下げてお礼を言うと、【サイモン】を牛の見張りにして事務所へ向けて歩き出した。

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