第34話 覆面集団

「思ったより野菜売れて良かったですね」


も売れてねぇーけどな」


昼過ぎから夕方まで市場で野菜を売っていたが、一般のお客さんは【メール】を見てヒソヒソと話しながら通りすぎ。明らかに孤児や浮浪者と言った貧しい人達が、なけなしの金で野菜を買うと、【メール】がやり過ぎなほどサービスすると言うのが市場での流れだった。


「しかしええのか?勝手にサービスしとるけど売上微々たるもんとちゃうか?」


「損して得取れですよ。あのままじゃ【サクマ】さんと【リンド】さんが手塩にかけて育てた野菜がほとんど残ってしまいます。利益が少なくとも多く売れて欲しかったんです」


「変わったやつだなテメェは・・・」


【サイモン】は今日1日の出来事を振り返った。

 初めは【ロモッコ】に外れクジ引かされたと思い。ふて腐れて【メール】に生返事しかしなかった。しかし【メール】はそんな【サイモン】の態度にも気にせず話かけてきてくれた。野菜を売ってる時も町人にヒソヒソと陰口を言われようが明くる振る舞い、スラムの子がお腹を空かせて覗いて来た時は。皆には内緒と指を口に立ててこっそりあげていた。

 【サイモン】は気が付けばふて腐れていた事も忘れ、【ファイゼ】村を目指して牛を引きながら二人で歩いている。


「【フィフス商会】の【メール】だな?悪いが一緒に来てもらおう」


覆面を被った人物達が木陰と茂みから続々と現れ、【メール】と【サイモン】を取り囲む。


「とうとうお出でなさったか・・・」


【サイモン】が腰の槌を引き抜き、【メール】の前に出る。


「行かねぇと言ったら?」


「返答は【行く】しか聞き受けない」


リーダーと見られる覆面の人物が答え、【サイモン】の握る槌に力が入る。

 覆面と【サイモン】の間に緊張が走り、嫌な冷や汗が【サイモン】の額から顎にかけて伝い落ちた時だった。


【人違いです!!積み荷は全て譲りますから勘弁してくだせぇ!!】


【サイモン】は覆面集団にジャンプ土下座。声高らかに勘違いがいを宣言したのだった。


「オイオイ話と違うぞ?!」


「本当にコイツらであってるんだろうな?」


「いや間違いない、今日のこ時間に荷車を引いた【メール】という【少女】が【護衛】無しで通ると聞いてるから間違いない」


「とりあえず拐ってくか?」


「人違いだったらどうするんだよ!!」


覆面集団はヒソヒソと集まり、想定外の事態に会談する。


【少ない額ですがこれをお納め下さい!!】


【サイモン】は【メール】から今日の売上げを受け取り、覆面達が冷静になる前にリーダーと見られる人物に差し出す。


「まぁ、なんだ・・・人違いのようだな・・・悪かった。気付けて帰れよ」


覆面集団は木陰と茂みに隠れていき。【サイモン】【メール】は無事に覆面集団から逃れられた。


「ふぅ~、どうにか上手く行っなぁ・・・」


覆面集団が隠れた木々や茂みがすっかり見えなくなり、【ファイゼ】村の門が見えると【サイモン】は胸を撫で下ろして肩の力を抜いた。


「本当ですね・・・だけどどうして【サイモン】さんはあの時【戦う】のでもなく【逃げる】でもなく【騙す】を選択したのですか?。もし騙せなかったら怒りを買って殺されてたかも知れませんよ?」


【メール】の質問に【サイモン】は得意気な顔をして鼻で笑った。


「そりゃあ、テメェがいたからだよ」


「え?!」


【サイモン】の言葉に【メール】の頬が赤みを帯びる。


「トロくせぇテメェが居たんじゃ戦っても人質に取られてダメ。逃げてもおっつかれてダメ。素直に付いてくなんて話は論外。なら上手く騙して逃げるしきゃネェーだろ・・・ってちょっと待て!!」


【サイモン】の刺のある言い方に、少しでもカッコいいと思った自分が馬鹿馬鹿しくなり。【メール】は地面を強く踏みしめながら早歩きで道を進んで行った。


同時刻、【ベイル】町


「それは確かな情報なのか?」


「ああ、その筋じゃ有名な話だからな」


路地裏の居酒屋で情報屋の男と【ケインズ】は話す。


【愛する幼馴染みを嫁に取られた復讐か・・・】


「ああ、【メール】の両親が健在の時はコソコソしてたが。亡くなったの機会に露骨になってったからなぁ・・・アレじゃあ素人でもまるわかりだ」


「何とか悪い情報ながして失脚させれねえか?」


「無理無理!!、アイツ色んな所に金を流して情報を操作してやがる。さらに、抗う者には容赦なく傭兵をぶつけて行くから今の【ベイル】町で【ナリカネ】に逆らう度胸のある奴はいないよ」


情報屋の男は【ケインズ】にさらりと手を出し、情報料金の追加を請求し。【ケインズ】は渋々自身の財布から銀貨を1枚出した。


「じゃぁまた情報が欲けりゃ言いな。相応の額は頂くがね」


上機嫌で店を出る男に【ケインズ】は寂しくなった財布をパタンと閉じた。


「っと言う訳で売上は申し訳ネェー・・・」


翌日、【ベイル】町から戻った【ロモッコ】と【ケインズ】に頭を下げる【サイモン】と【メール】。【ロモッコ】は少し複雑そうな顔をしながらも、取り敢えず二人が無事に【ファイゼ】村へ戻って来たことに安心した。


「売上を無くしたのは残念だけど。二人の安全を買えたと思えば必要な経費よ」


「しかし【ロモッコ】どうする?、【ナリカネ】の野郎確実に潰しに来てるぞコレ」


「ええそうね」


【ケインズ】の言葉に【ロモッコ】は淡白に返事をし、思考を巡らせた。

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