第54話 スカウトされた意味

「えっと、保存食の燻製ジャーキーが40キロですか?」


「そうだ、本当なら森で調達したいのだけど何故か獣一匹すら見つけられない状況で食料の確保が難しいんだ」


「そう言うことなら仕方ありませんね」


つい最近完成した【フィフス】商会の倉庫で品物の品質を確認していた【メール】に【保存食】の燻製ジャーキーを早急に手配してもらえるように【新二】はお願いしに来ていた。


「【ファルコム】!!【マエダ】さんに燻製ジャーキー40キロ分分けてあげて!!」


「かしこまりました!!」


【メール】が声を上げるとムキムキの暑苦しおっさんがドデカイ肉の塊を二つ背負って持ってくる。

 【新二】はそれを受け取り、【ファルコム】と【メール】にお礼を言うと請求書をもらって【ワイド】達の元へ向かった。


「随分お早いのですね」


肉を背負って戻って来た【新二】に【レモネーゼ】が驚きの声をあげる。

 【新二】は商会に付くなり従業員に【メール】の場所を聞き、倉庫へ向かい燻製ジャーキーを買って来るまで僅か5分。その速さには【ワイド】も【シリウス】も少し驚いた顔をしていた。


「ここの商会には色々融通がきくからね、それに場合によっては村の危機成りかねない案件だから早いほうがいいと思っただけさ、それにお代はきっちり請求するしね」


【新二】は【シリウス】に請求書を渡す。


「ん?!これは少し高くないか!?」


「今森に獣や魔物がいない事で肉の値段が上がってるんだ。それにその状況は【スタンビート】や【変異種】などの災害の前触れの可能性もあるとなれば、保存食の値段が上がるのは当然の事らしいですね」


まるで誰かに入れ知恵されたような【新二】の発言に【シリウス】はこの払おうと思えるギリギリの値段を攻めてきた【メール】という商会の会長を少し高く評価したのだった。


「ああ疲れだぁああメシーー!!」


【ジルコニア】率いる8人は日が落ちる前に村に戻り、食堂で悪態をつきながら夕食を請求する。


【随分偉くなったものだな【ジルコニア】】


【ジルコニア】の視線の先には一足早く夕食のスパゲティーを食べ終えた、緑の刺繍が袖に施された【兵士服】を着る、焦げ茶色で長髪の男性が座っていた。


「【カーネル】副団長がどうして・・・」


「ご馳走さま、決して上等とは言えない食材だが、手間を惜しまず少しでも美味しくしようとす心意気を味から感じた。貴方は料理人として誇りを持って大丈夫。私【黒鉄帝国第五兵士団】副団長【ルシウス・カーネル】が保証しよう」


【カーネル】副団長の言葉に【タブラス】【イオン】夫婦はハンカチを取り出して涙を拭う。


「さて、私が何故来たかについては言うまでもないだろうが、改めて一つ君達に教えなければならない」


【カーネル】副団長は【ジルコニア】達に椅子に座るよう促し、全員が椅子に座るのを待ってから話を切り出す。


「なぜ君達の【訓練服】が兵士服に赤い布が足されたデザインになっているか覚えている者はいるか?」


【カーネル】副団長の質問は至ってシンプル。それは【帝都ハイドラ兵士訓練学校】に入学出来た生来有望な生徒のみが着る事が出来る制服だからだ。

 しかし、誰もがそれを分かっていながら誰もその質問に答えようとはしない。


「誰もおらんのか?、では質問を変えよう。君達の袖に緑色の刺繍が施されている理由は分かるよな!!」


バシッ!!


【カーネル】副団長が机を軽く叩き音で【訓練兵】達は肩をピクつかせる。


「【ジルコニア】答えてみろ」


「えっ・・・はい!!。袖の刺繍は帝国を支える六つの兵士団のシンボルカラーであり所属している事を示す物であります」


「その通りだ、第一兵士団は金、第二兵士団は赤、第三兵士団は茶、第四兵士団は銀、第六兵士団は紫、そして我々第五兵士団は緑となる。各兵士団は【帝都ハイドラ兵士訓練学校】の【訓練兵】をスカウトする権限があり、両者が承諾すれば。スカウトされた兵士団のシンボルカラーの刺繍を襟と袖にする決まりとなっている。   

 つまり君達は【訓練兵】でありながら【第五兵士団】の一般兵士とと言う事になる。そうなれば当然【第五兵士団】として恥じぬ振る舞いをしなければならないのに昨日の振る舞いはなんだ?!」


【カーネル】副団長から【格付け】による威圧が放たれ、【訓練兵】達は萎縮し肩を震わせる。


「今までは仮にも【第五兵士団】の管理下だったから気を使ってたのかはしらないが、いざ辺境へ来たとたんに気が大きくなりやがって。特に【ジルコニア】お前だ!!。今度【第五兵士団】の旗に泥を塗る事になれば【特進生】の取り消し所かスカウトの取り消しも覚悟しろ!!」


「しかし【カーネル】副団長!!そんなことをすれば俺の親父や叔父さんが黙って無いですよ!!」


「別に黙ってなくても構わん。私は【第五兵士団】の副団長。たかが【帝国貴族】の一つである【ジルコニア】家と争う事など恐るに足らぬ!!」


【グウウウウ!!】


【ジルコニア】は悔しさと怒りで拳を強く握りしめ、震わせる。


「そう言えば君達に【ワイド】達の動向を伝えて置こう。彼らは昼過ぎに村へ戻って来た後、保存食を大量に買って暫く山籠りするそうだ。これを聞いてどう行動するかは君達次第だがね」


【カーネル】副団長はそう言い残すとさっさと食堂を出ていった。


「【ジルコニア】・・・どうする・・・」


「行くに決まってるだろ!!今すぐ準備して俺達も山籠りするぞ!!」


【【【【オオオオオ!!】】】】


【ジルコニア】達は食堂を勢いよく飛び出していき、食堂にはお【訓練兵】達に振る舞う夕食が残された。


「こりゃ随分余っちまったなぁ・・・」


【タブラス】は大量のスパゲティーを前にため息をつく。すると厨房の窓からこちらを覗く視線と目があった。


【【ワァァアアア!!】】


お互い叫び合い、改めて恐る恐る覗くと鉱山から仕事を終えて帰ってきた傭兵と目があった。


「あのーー、その料理余ってるなら少し分けて貰えませんか?凄くいい匂いに釣られて来ちゃってへへ」


【タブラス】は元々廃棄になるかもしれない料理、ならせめて誰かに食べて貰ったほうが言いと思い傭兵の提案を受け入れる。


「やったぁあああ!!みんな食べていいってよおおお!!」


【【【【イェーーイーー!!】】】】


傭兵達が男の言葉を聞くなり食堂へ雪崩込、食堂はたちまち満員になる。


【イオン】はスパゲティーを皿に盛り付け次々傭兵達に運ぶと傭兵達はスパゲティーのソースを飛び散らせながらも心から「旨い、最高、天才」と【タブラス】のスパゲティーを褒め称える。【タブラス】は目頭が熱くなりつい頼まれてもいないのに新たに色々な料理を作って振る舞い、傭兵達もそれを食べてさらに【タブラス】を褒め称えるという料理人として至高の循環が生まれたのだった。



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