第55話 標敵の正体

山籠りを初めて8日がたった。謎の魔力の正体は未だに掴めていない。だが、この8日で幾つかの事が分かった。それはー


奴らが一つの大きな生物で無いと言うこと。


分離すれば【ワイド】ですら感知困難なほど多く、薄い魔力の欠片になること。


何かしらの理由で自分達から逃げていると言うこと


移動速度は自分達より早く、地形に左右されない事。


奴らが森の生物を食らっている犯人であること。


こちらが攻撃しても水を切るように何事もなく元通りになること。


感知能力は半径8キロメートルの範囲までおよび時よりこちらの様子を伺うような接近の仕方をしてくる事。


「と、こんな所で間違いない?」


【新二】はもう何十回と言う確認を【ワイド】に向かってすると、流石の【ワイド】も返答がかなり雑になってきた。


「ああ」


「【ワイド】!!集中力が散漫担ってきてるよ!!、何度も確認して来てうんざりしているんだろうけど。私達はワイドと違って【魔力感知】の範囲はそんなに広くないの!!私は何があってもワイドを信じてるから自信を持って感知に集中して!!」


「ああ、悪かったよ・・・ごめん・・・」


これは最近になって知った事だが、【ワイド】と【レモネーゼ】は同じ町の生まれだそうだ。

 元々両親が傭兵で幼い頃から腕っぷしが強く、町のガキ大将だった【レモネーゼ】が。引きこもりがちと噂の猟師の息子である【ワイド】を無理やり外に連れだそうとしたのが出会いの始まりだったとかー。


「それでどう?奴らは感知出来る?」


「なんとかね。北西と東に6キロ、南西と南に5キロ程の地点に要るよ」


【新二】はメモ帳に新しく謎の魔力が現れた場所を記入し、パラパラと巡りながら8日の進歩を確認する。


「(初日は逃げられて、2日目は西の感知エリアギリギリに一つ、3日目は北と東の感知エリアギリギリで、4日目は南東と北東の9キロ地点で・・・)」


【新二】は記入されたメモを参考書に8日間での出現場所を地面に書いて行くと。日に日に個数と距離が近づき、更に逃げられないように包囲をしているような不気味さを感じる。

 そして脳裏に巨大生物出なく、分裂ができ、自分よりも速く。地形に左右されない生物、そして森の生物を跡形もなく食らい付くし、攻撃が聞かない相手。最後の感知範囲を除けば当てはまりそうな生物が一種電撃のように閃いた。


「【シリウス】さん、確か地域の生物が一匹残らず居なくなる時は【スタンビート】か【変異種】が現れた場合があるんでしたよね?」


「そうだが」


「もしかした今俺達が探しているのは【シーアント】の【変異種】かもしれません・・・」


「【シーアント】?!ハッハッハ!!いくら何でもそれはあり得ないよ【マエダ】君。【シーアント】は少し大きな蟻で魔物を襲い、さらに地域の魔物を食らい付く程の存在などあり得ない!!」


「その通り!!。普通ならあり得ない、しかしこの森の場合はそのあり得ないがあり得る事だってあるんですよ・・・」


【新二】の本気の表情に先程笑った【シリウス】の顔が真剣なものに変わる。そしてその場を沈黙が包み、それは何となくだが【新二】にとって警鐘が鳴る前の静寂に聞こえてきたのだった。


「ごめんなさい【ワイド】さん。一度村に戻ろう。なんか嫌な予感がする・・・」


「【マエダ】さんの勘は凄いね。今八方向を謎の魔力に囲まれた。全方位から奴らが来るぞ!!」


【全員俺に付いてきて!!】


【新二】は南西の方角に向けて身体を強化し、巨木の上に飛び上がって木の上を飛び移りながら移動する。


「目標間での距離300メートル!!来るよ!!」


「ああ、こっちも感知した。やっぱりあいつらの【変異種】だよ!!」


【新二】達の目の前には赤と黒、そして新たに黄色の入った三色のシマシマ模様の巨大羽蟻が歯をカチカチならして飛んでくる。


「【千時】!!」


【新二】は羽蟻の群れに深緑色の斬擊を放つが群れは瞬く間に亀裂を修正し元通りに戻る。


「やはり斬擊は効かないか・・・」


【新二】は【千時】を大きく振りかぶり、前方に横たわるような竜巻をお越し、【変異種】の壁を無理やりぶち抜いて竜巻の中を駆け抜け抜ける。


「【マエダ】君、君は一体何者なんだ?。ただの村の兵士にしては強すぎる!!」


「【シリウス】さん、俺は何処までいってもただの村の兵士ですよ。ただ潜ってきた修羅場の数が若干多いだけの」


「【マエダ】さん、少し時間を貰ってもいいですか?」


後ろから【ワイド】が【新二】に声をかけ、【新二】が視線を向けると若干不貞腐れ気味の【ワイド】が両手に掌サイズのクロスボウを二対持っていた。


「このまま逃げるのは負けた気分になって嫌なので、少し本気であいつら全部撃ち落としにいきます」


「あいつら全部って、最低でも何万匹は軽くいるぞ!!」


「ええ、だけど射ち抜きます」


力強い【ワイド】の言葉に【新二】に迷いが生じる。折角【変異種】の包囲網を抜けて逃げているのに立ち止まって戦い、再び包囲網される危険。しかしなにかしら強力な魔法や技術を【ワイド】が持っている可能性もある。

 こそっと【シリウス】を見ると【シリウス】は任せて大丈夫と頷いた。それを見た【ワイド】は巨木の上に立ち止まり、背後から迫り来る【変異種】に向けて両手のクロスボウを構える。


五月雨さみだれ(繭式まゆしき)】


それは広大な感知力と風の魔力の才を持っ【ワイド】しか出来ない技。両手のクロスボウに緑色の魔力で出来た小さな矢が、マシンガンのように連謝され。一本一本の矢が後方にいる複数の【変異種】をも貫き、緑色の細い光が繭のように【ワイド】の正面を覆い隠す。


「凄い・・・」


【新二】は真似できない光景に思わずそう呟いた。


「そうでしょ!!これが【ワイド】が【魔手】と呼ばれる理由の一つなのよ。広大な範囲を感知し、一ミリの狂いもなく標的を矢で射抜く。さらに射程は半径10キロ圏内の全てでありその範囲の大きさは帝国史上でもトップクラスなのよ!!」


「あっはい・・・」


かなり食い付き気味に話してくる【レモネーゼ】に【新二】は若干引くが、それだけ自慢の幼馴染みなのだろうと、すこし心暖まる気がした。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


その時は唐突に訪れた、【ワイド】の前に広がっていた繭のように細い矢の痕跡が。急速に無くなっていったのだ。

 それも少し考えれば当然の事、広大な感知範囲、巨大羽蟻とは言え。体長5センチほどの蟻を複数一本で撃ち抜くルートを狙っている。

 そしてこの数分で撃った魔力の矢は数万じゃ効かないはず、当然全ての矢が【ワイド】の魔力を消費して作られて要るのだから魔力が底をつきかけていても不思議ではない。


「悔しいなぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・こいら倒しても倒してもどんどん沸き上がって来る・・・まるで浸水する船の水を汲み出している気分だ・・・」


「【ワイド】ご苦労様・・・これより先は私が相手をする。【封印解除】」


【シリウス】は謎の紋章が掘られた腕輪を外し、【シリウス】の身体を膨大な量の魔力が覆う。その魔力は【シリウス】を中心として回転を始め、やがて【シリウス】が抜いた剣に纏わり付く。


【風払い】


【ワイド】の【五月雨】が一匹一匹仕留める繊細な技術技だとすれば【シリウス】の攻撃は範囲を丸ごと削り上げる力技。【変異種】の大半は吹き飛ばされただけで無傷だが、集団が乱された為か不規則に飛び周り、混乱している様に見える。


「【変異種】となるとやはり硬いな・・・(殲滅は厳しいか?)今のうちに一時撤退するよ!!」


【シリウス】は【ワイド】を背負って走り【新二】と【レモネーゼ】は【シリウス】の後を追うように【ファイゼ】村へ向けて走り出したのだった。

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