第53話 ワイドとレモネーゼ

緑色の髪の少年は【新二】の質問を聞くとまるで当然の事のように答える。


【何も無いと分かっている所にわざわざいく必要は無いですよ】


「何故何も無いって言い切れるんだ?、ここはまだ東の森の入り口出すらないし、森は広い。実際に入ってみなければ分からない事もあるんじゃないのかな?」


少年は【新二】の言葉にため息を付くと隣の栗色の髪の少女に助けを求める視線を送る。


「誰だって始めは貴方の規格外を信じられないわ。実際に見せて納得させたほうが早いわよ」


少年は【シリウス】の方にも助け舟を求めるが【シリウス】は栗色の髪の少女に賛同するよう頷いており、少年は再びため息を付くと。足元に転がっている適当な石を【新二】に渡しす。


「とりあえずこの石に印を付けてできる限りの遠くに投げてもらえませんか?。僕は目を閉じているので」


少年は目を閉じて【新二】に背中を向ける。


【新二】は訳が変わらず【シリウス】の方をみるが【シリウス】は【新二】に全力で投げるように促す。

 【新二】は石に指先に集めた風の魔力でバツ印を堀り、若干不信に思いながらも身体を活性化させ、全力で石を天高く投げ飛ばす、石は高速で回転しながらしばらく飛行を続けたあと、森の中へ吸い込まれて行った。


「どう【ワイド】?。感知範囲外まで飛ばされた?」


「いや、完全に範囲内だよ【レモネーゼ】」


緑色の髪の少年は振り返ると迷う事なく【新二】の投げた石に向かって歩きはじめる。


「そう言えば二人はまだ【マエダ】君に自己紹介はしていなかったよね。石にたどり着くまでの間にしてはどうかな?」


黙々と歩いていた少年は【シリウス】の言葉を聞いて若干面倒臭く思いながらも自己紹介をする。


「僕は【ワイド】」


「・・・・・?」


本当に名前を言っただけ【ワイド】の自己紹介は終わり、続いて呆れ半分の少女が自己紹介をする。


「私は【レモネーゼ】、素手による接近戦を得意とする体術派よ」


「改めて俺は【マエダ】、【心器】による斬擊と風による戦闘を得意としている」


「えっ?!貴方【心器】が使えるの!!」


【レモネーゼ】の声に【ワイド】の肩が一瞬ピクリと動き、余りにも食い付きがいい【レモネーゼ】に【新二】は若干引き気味になる。


「あっ・・・はい・・・」


「その年で【心器】が使えるのは珍しいですね。よっぽど死線を潜ってきた猛者か、ただの死にたがりかの二択ですよ」


「【訓練兵】時代の教官が【死線を潜れば潜る程強くなる】とうい思考の方でしたので・・・」


「成る程・・・」


【シリウス】は【訓練兵】潰しとして有名なあの方の姿を思い浮かべ、此処でその数少ない卒業生に出会った事に何か運命を感じた。


「【マエダ】君、もしよろしければー」


「あったぞ、コレだろ?」


【ワイド】が拾った石を【新二】に投げ渡すと、それは間違いなく【新二】が先程掘ったバツ印の付いた石だった。


「マジかよ・・・かなり飛ばしたし、見えてない筈なのに何故・・・」


「【ワイド】は生まれつき【魔力感知】の範囲が異常に広いのよ」


【新二】の疑問に答えたのは【レモネーゼ】で【ワイド】は何故か不貞腐れた顔をしている。


「今では半径10キロメートルのー」


「10キロだって?!」


【新二】は自分の感知範囲がおおよそ半径300メートル程なのに対し、倍所か30倍も越える範囲の広さに思わず声が出る。


「ええ、半径10キロメートルの範囲に存在する全ての魔力を感知する事が出来るの、だからさっき【マエダ】さんが石を掘った時に付いた魔力の残滓を感知して追い、見つけたって訳」


【新二】が【ワイド】を尊敬の眼差しで見るが、【ワイド】は鬱陶しそうにそっぽを向いて歩き始める。


の魔力を感知した。とりあえず行こう」


【ワイド】に先導されながら【新二】【レモネーゼ】【シリウス】は森を駆け抜ける。


どれくらい走った所だろうか、走るスピードは全員身体強化をしている。事もあり自動車並みのスピードが出ている。しかしそれでも【ワイド】が感知したと言う魔力反応にはたどり着かない。


「逃げられた・・・」


【ワイド】が突然そう言うとゆっくり減速し、立ち止まる。


「それはどういう事?」


「謎の生物の足が僕達よりも早いと言う事。僕の感知範囲から逃れられたから追う事ができない。そして、逆に言えば追われたら逃げられない。フフフ此処は退屈しなさそうだ、引き上げよう、続きは明日」


【ワイド】はそう言うと来た道に振り返り、歩きだす。そして【新二】【レモネーゼ】【シリウス】も【ワイド】の後を追って【ファイゼ】村へ戻る事になったのだった。


【新二】達が【ファイゼ】村に戻ったのは昼を少し回った時間帯だった。【演習】中は基本的に朝食と夕食のみが食堂で昼食は弁当となるのだが、早めに戻って来た【新二】達は食堂で弁当を食べる事にしたのである。


「それでこのあとはどうするつもりなの【ワイド】?」


弁当を食べながら【レモネーゼ】が質問する。


「村で保存食を大量に買って今日から10日程森に籠る」


【えっ?!】


【新二】は【ワイド】の飛んでも発言に手に持っていた弁当のサンドイッチからベーコンが抜け、器に落ちる。


「相手はどういう訳か僕達を感知していた。恐らく範囲的には僕と同等レベルの感知できる何かを持っているんだと思う。そして逃げ足の速さから追われれば間違いなく戦闘になる。さらに感知出来なくなったエリアはこの村からかなり距離があり、必然的に彼らの生息域はあの場所よりも深い所にある予測出来る」


【ワイド】はサンドイッチを一気に食べてお茶で無理やり流し込む。


「分かるかい【レモネーゼ】、僕は今物凄くワクワクしてるんだ!!。今までのようにただありふれた畜生達を一方的に攻撃するのではなく、お互いに戦える相手がこの森にいると言う事実が堪らなく嬉しくて嬉しくて仕方がないんだ!!」


「だが、【ワイド】君忘れぬなよ。君は我が【第五兵士団】の未来を背負う重要な人物だ。好奇心で格上を相手にして再起不能になれば君だけの責任では済まされないのだぞ?」


はしゃぐ【ワイド】に【シリウス】が釘を刺す。


「ええわかっていますよ【シリウス】教官。しかしそうならない為に貴方が僕の監視役になっているのでしょ?」


「そうは言っても限度はある」


「まぁとりあえずは全員昼食を終わらせて明日の準備をしましょう」


【レモネーゼ】が手を叩いて話を終わらせると。【新二】達は村の物資を担当する【メール】の【フィフス】商会の元へ足を運んだのだった。

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