第44話 新たなる道

「夜中に申し訳ありません・・・私達は・・・」


女性の顔が明らかになった瞬間、【バウンズ】兵士長の顔が青くなり。凄まじい速さで地面に頭を垂れる。


「遠路遥々ようこそ・・・」


【【団長】が話してる途中です、言葉を慎みなさい】


少女が冷たく言い放つ、と今まで経験したこと無い重圧が【バウンズ】兵士長と【新二】にのし掛かり。【新二】は一瞬気を失いかけ地面に両手を付く。


【止めなさい【ナタリー】!!】


女性の声に少女は一瞬肩をビクつかせ、【バウンズ】兵士長と【新二】に重圧をかけるのを止めた。


「申し訳ありません・・・」


「良いですか【ナタリー】、【《封印》】をしているとは言え【七等兵士】である貴方が【《格付け》】をすれば【辺境】の兵士には耐えられないでしょう!!もう少し場所を考えなさい!!」


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・(何者だこの人達は?!。【バウンズ】兵士長ですら比べ物にならない程の圧力、本当に人間かこの人は?!)」


【新二】は少女の放った謎の重圧により、体力を著しく消耗し、全身から冷や汗が止まらない。

 【新二】が肩で息をし、地面に両手をついてる間も女性と少女は何かを話し。やがて女性が【新二】に声をかけた。


「【ナタリー】が【格付け】をしてしまいごめんなさい。私は【サオリ・アルフレイン】【黒鉄帝国本部第六兵士団団長】を務めている者です」


「先程は失礼しました。私は【ナタリー】七等兵士、【団長】の秘書を務めている者です」


「俺は【ゾリアス・セスタ】!!八等兵士で【団長】の補佐を務めている」


「(帝国の【団長】とその付き人かよ・・・ハハハ・・・桁違い過ぎて笑えるぜ・・・)」


【新二】は何とか呼吸を整えると立ち上がり【アルフレイン】団長と向かい合う。


「それで、そんな偉い人が何故ここに来たんですか?」


「それは・・・」


「コラ!!【マエダ】!!言葉を慎みなさい!!【帝国本部】の【団長】は辺境の兵士を独自に采配する権限が・・・グハッ!!」


【バウンズ】兵士長は【ナタリー】が放つ重圧に耐えきれず、カエルのように地面に押し付けられる。


「【団長】の言葉を遮るとは何様のつもりですか貴方は・・・」


「お許しを・・・私はただ・・・」


【ナタリー】が【バウンズ】兵士長に更なる圧力を掛けようとしたとき。【ナタリー】の圧力も動きも止まり、静寂が場を支配した。


【止めなさい・・・】


【アルフレイン】団長が呟いた一言。その言葉に物理的や魔法的な力は無い。ただその言葉には有無を言わさない圧倒的強者の圧力があった。


「だ・・・【団長】・・・」


「【ナタリー】・・・貴方の忠誠心は立派な物です。しかしなんでもかんでも【格付け】による圧力で従わせようとするのはあまり誉められた物ではありません。特にの多い辺境の地ではね・・・」


「しかしこの男は・・・」


【グラウス】は【アルフレイン】団長の瞳から有無を言わせない圧力を感じ、直ぐに視線を下げる、


「申し訳ありません・・・」


【グラウス】が謝ると【アルフレイン】団長は【バウンズ】兵士長の元へ歩み寄り、手を差し出して立つ手助けをする。


「【ナタリー】がご迷惑おかけしました」


「いえ・・・こちらそこ不要な発言を失礼致しました・・・」


【アルフレイン】団長は【バウンズ】兵士長の手を取り手助けをして立ち上がらせると【新二】に向かって歩き、前に立つ。


「回りくどい言い方は好きではないので、単刀直入に言います


優しい女神様のような微笑みで【アルフレイン】団長は両手を少し広げる。


【貴方、私達第六兵士団に入団しませんか?】


「・・・・はい?」


【新二】が【アルフレイン】団長の言葉を理解出来ずに呆然としていると。【グラウス】は苛立ちに顔を歪ませ、【セスタ】は陽気にニコニコしている。


「【マエダ】君!!これはとんでもない事になったぞ!!」


【バウンズ】兵士長が興奮気味に【新二】に話しかけるが、事の重大性が理解出来ない【新二】はポケーとしている。


「いいかい【マエダ】君!!【黒鉄帝国】の兵士は数十万を越える程いるが。その中でも【皇帝陛下】に次ぐ権力を持ち、陛下を支え。国の剣となり盾となる六つの兵士団がある。

 我々市町村を守る【辺境の兵士】はいつかその兵士団に入り、出世する事を夢見るものなんだぞ!!」


【新二】は【バウンズ】兵士長に両肩を捕まれて前後に揺さぶられる中、脳裏には【ファイぜ】村で苦しいながらも活気に溢れてた生活。

 徹夜は美容の敵と知りながら、全員が寝静待った夜中でも机に向かう【ロモッコ】の姿。

 少しでも村を良くするために情報を集めて町村を走り回る【ケインズ】。

 村の食を豊かにするために畑と森に向き合う【サクマ】と【リンド】。

 村の事情の為にわざわざ来てくれた【サイモン】【メール】【カール】。

 他にも村のまとめ役だった【ロゼッタ】門番の【ジーンズ】魔物の解体を生業とする【グランツ】【ベゼネッタ】夫妻。それ以外にもお世話になった村人立ちの顔が浮かんでは消えていく。

 そして今現在、【ナリカネ】の傭兵によって焼かれた村と怪我を負った人達の姿が大きく浮かび上がる。


「分かりました」


【新二】は【バウンズ】兵士長に揺さぶられながら答えると、【バウンズ】兵士長は妙にご機嫌な顔で頷いて【新二】を解放し、【新二】は【アルフレイン】団長に向かって立つと大きく頭を下げる。


【大変光栄な事と思いますが、俺は【ファイぜ】村でまだやらなければならない事があります!!だからこの話はお断りさせて頂きたいです!!】


次の瞬間【ナタリー】の瞳に青白い眼光が宿り、まるで【新二】の身体の上にとてつもなく大きな鉄球を乗せられたような圧力が掛かり、【新二】は耐えきれずに片膝を地面に付く。


【負けるかァアアアアア!!】


【新二】は己の体内にある全魔力を解放させ、【グラウス】の圧力に対抗する。


【この恩知らずめが!!潰れて消え去れ!】」


【グラウス】が【新二】に更なる圧力をかけ、【新二】の足元の地面が大きくひび割れ、すり鉢状に陥没する。


【俺の道は俺が決める!!勝手にキレるなこの【クソアマ】がァアアアアア!!】


【新二】は【グラウス】の圧力をはね除け、両者は互いに敵と認識し睨み合う。


「【団長】の優しき心を踏みにじる男など野獣以下。覚悟しなさい【羽虫】!!」


「勝手にキレて勝手に人を【羽虫】呼ばわりとは余程頭が湿気腐ってるんだな【青カビ】」


「何ですって?!もう容赦しないわ【封印・・・】」


【グラウス】が左手の薬指にはめてる指輪を外そうとすると【アルフレイン】団長が【グラウス】の右手に触れて指輪をはめ戻す。


「【ナタリー】【封印解放】はいくら腹が立ったとしても【辺境の兵士】対して使うのは止めなさい。貴方は私の言葉が理解出来ないほど愚かでは無いでしょう?」


「しかし・・・・はい・・・・申し訳ありません・・・・」


【グラウス】は不満な顔しながらも謝り、【アルフレイン】団長は【新二】と向き合う。


「一様聞き間違えじゃないと確認する為に問うけど、私達の元に来る気は無いのね?」


「申し訳ありませんが俺にはまだやらなければならない事が沢山ありますので・・・」


「分かったわ、なら仕方ないわね・・・」


【グラウス】が今にも【新二】に襲い掛かりそうなのを【セスタ】が必死に止め、【バウンズ】兵士長は先程の【新二】と【グラウス】の争いで気を失い、地面に延びている。


「でも私は貴方が気に入ったわ、だからこの懐中時計を渡します」


【アルフレイン】団長が【新二】に渡した懐中時計には細かい細工がされており、帝国の紋章に六の文字が刻まれていた。


「これは?」


「私がスカウトした証拠です。これを持って帝都【ハイドラ】にある【第六兵士団本部】。【朧屋敷おぼろやしき】に来て下されば何時でも歓迎いたします。では【ナタリー】【セスタ】。【本部】へ帰還しましょう」


【アルフレイン】団長は【ナタリー】【セスタ】を連れて去り。その場に残された【新二】と【バウンズ】兵士長は緊張感から解放されてしばらく呆然とすると、【バウンズ】兵士長を心配してきた兵士達に声をかけられ、二人は【駐屯地】へと足を運んだ。

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