第5話 断食の果てに・・・
断食8日目
数百人いた【訓練兵】は凄まじい勢いで減っていき、今は【新二】ただ一人となった。
うーーんーー駄目だ!!まったく分からない!!
【新二】は試行錯誤し、様々な力を感じる為に努力したが結論は何も得られなかった。
そしてミイラのようになりつつある本体にもそろそろ休ませてあげたいと思うようになり。
【新二】は戻れるか分からないが本体に戻ろうと座禅を組む自身の身体に重なる。
【それでいいの?】
自身の身体に精神体が重なり、忘れていた乾き、飢え、痛みが戻っていく中。何処からともなく声が聞こえた。
【ダレ・・・ダ・・・】
凄まじい乾きと痛みで上手く声が出せない、だが謎の声はハッキリと聞こえてくる。
【【前田新二】貴方はまだ自身をしらない、知る事を恐れている】
【ナニ・・・ヲ・・・】
【貴方自身の眠る力についてよ】
【ソンナノ・・・シラナイ・・・】
【いや、知っている。むしろあって当然と思っている】
【ナン・・・デ・・・ワカル・・・】
【私は貴方よって作られたから】
【ドウ・・・シテ・・・】
【アホな人、今度は私から質問します】
耐え難い乾きと痛みに精神が塗りつぶされそうになったとき、一滴の雫が鏡面の水面に落ちたような錯覚を【新二】は覚える。
【貴方はいつまで、地球に居る気なのですか?】
謎の声の問が聞こえた瞬間、【新二】の脳裏に中二病として黒歴史になった数々の行動が蘇る。
ぼくのほのおはすべてをけしさるじごくのほのおだぁ!!
俺の左眼は過去を、右眼は未来を見通す魔眼なり!!
僕を本気にさせないでよ。地図を書き換えなきゃならないだろ?
たかが時間を止めた、過去を改変したくらいで頭に乗るなよ!!
「なぁ【新二】、もしファンタジーの世界に行ったらどんな武器で戦う?」
新しい演劇の項目を考えているとき、誰かがそんな話題を言い出した。大半の人が魔法、刀剣、銃や弓を選択する中、【新二】はまったく違う武器を言った。
【俺は【扇】だな、先端が刃物になってて切り合いもできるし。集団戦になれば周囲を風で吹き飛ばせる】
【まさか君なのか・・・
【
果てしなく続く鏡面の
【やっと会えましたね】
水面に足跡で波紋を広げながら【新二】は扇に近付き、扇から声が聞こえる。
「本当に君なのか【千時】・・・」
「私が貴方の中二病で考えられた【千時】意外のなにがあるんですか?」
扇はぐるりと柄を見せるように回ると【新二】が好きな風車の花が大小2輪描かれており、それは昔オリジナル武器としてノートに書いた【千時】と全く同じだった。
「その絵柄・・・間違いない!!」
「だから言ったでしょ?私は【千時】」
【新二】は感動のあまり涙をながして【千時】を手にすると淡い紫の空がガラスのように割れ始める。
「【新二】!!貴方の身体がもう限界をむかえているわ。このままじゃ貴方は死ぬ」
「えっ?!そんなどうすれば!!」
「私を使って外の魔力を吸収しなさい」
「魔力を吸収って・・・いきなり無理だよ!!第一に俺は魔力が何か分からないよ!!」
「そんなのは分かっています!!だから今回は私がやるので目で見て、感じなさい!!」
「すみません!!」
【新二】が謝ると【千時】から何かが身体の中に入ってくるのを感じた。それは点滴を受けた時のような感覚でハッキリと体内に伝わり、崩壊していく世界が緩やかになる。
「今の私じゃ完全には止められないわね」
「そんな?!じゃどうすれば!!」
「あそこにいる人が助けてくれるでしょう」
【千時】は川の景色を映し出し、岩の上で座禅を組む【新二】の背中を見守る【ブラウン】教官の姿が移った。
外が明るくなりはじめている。もう9日目の朝なんだ。
「では少しお別れですね【新二】、命が危なくなったらすぐに私を呼びなさい。具現化しなければ貴方を守れません・・・私は何時でも貴方の側に・・・」
【千時】が淡い紫の光になって消えると【新二】の意識は岩の上の本体に戻り、鉛のように重たい瞼をあける。
「オ・・・ワッ・・・タ・・・」
錆び付いたブリキのような身体を動かし、僅かな声で【ブラウン】教官に言うと【新二】の視界は暗転した。
3日後・・・【新二】は無骨なベッドの上で点滴を受けていた。
8日間に及ぶ断食による極度の脱水、栄養失調。並びにそれ以前の訓練による身体の傷や疲労を回復させる為に【帝国兵士団】が共同で管理する、訓練学校の治療室で安静にしていたのである。
「調子はどうだい?」
治療室の責任者【アライ・マーティ】が【新二】に訪ねる。
「まだ気だるさがありますが大分良くなりました」
「それは良かったね。しかし相変わらず【訓練兵】潰しの【ブラウン】はやることが酷いな」
「やっぱり【ブラウン】教官ってかなり厳しいんですか?」
「厳しいもなにも【訓練兵】潰しとしては有名な話さ、軟弱な若者を兵士にしないためと言っているがその実態は代わり映えのない老後の人生に刺激を求めてとの噂だって話だよ」
「それは心外だな」
治療室のドアが開き【ブラウン】教官が入ってくる。
「「【ブラウン】教官!!」」
「確かにワシは担当した【訓練兵】のほぼ全員は不合格としている。だがそれは魔法も武術も使えぬ凡人が犬死にするのを防ぐためだ」
「だから【訓練兵】を訓練という名で拷問し、瀕死にして良いって?」
「拷問ではないし、そうは言っとらん。ただ死淵を歩く事で凡人も秀才、天才と渡り合える力が開花する可能性が出てくる。生涯努力ではたどり着けない力を掴むチャンスが出てくるのだ。その為ならワシは鬼だろうが悪魔だろうが喜んで言われよう」
「なら少しは治療する側の事も考えてください。【ブラウン】教官が指導すると毎日何十人の【訓練兵】が治療室に来るんです。身体的な傷、精神的な傷。症状は十人十色で大変なんですよ!!」
「それはすまん」
「いいえ、全然分かってないですね。コレ一体何回目だと思っているんですか?、去年も言いましたよね?。今年は【訓練兵】の訓練に参加しないはずが【番人】という異名まで使って無理矢理参加した挙げ句、担当した458人の【訓練兵】のうち一月立たずに【マエダ】君しか残って無いとか頭狂ってるですか?」
「すまん・・・」
親子ほど歳の差がある【マーティ】先生に怒られる【ブラウン】教官はまるでイタズラをした子供のように大人しくしており、不思議と【新二】は笑みが溢れた。
【フフフッ・・・来い【千時】】
【新二】の右手に風車の花が大小2輪描かれた扇が出現した。
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