第72話 荒療治
「えっとつまり?、【マエダ】君は今後の戦いでも【千時】を砕かれる事があると思うから。そんな時に気を失って殺されるようなヘマをしたくない、だからうちとの戦いのついでに【千時】を砕かれても耐えうる稽古もしたいって事かな?」
「そう言う事ですね【ラオス】さん、俺はまだまだ強くなりたい・・・」
【新二】は【千時】を強く握りしめ、その真剣な眼差しに【ラオス】と【オズ】は【新二】の覚悟を尊重し、【シュー】ちゃんほわほわした表情で【新二】の横顔を見つめていた。
【新二】の魔力関連の麻痺が取れたのは思いその他早く、次の朝の事だった。
【新二】と【ラオス】は訓練場で稽古をし、その余波は近隣の海や尖った山のふもとにまで影響を与え、気が付けば【新二】を【ラオス】や【オズ】と堂々の存在としてドラゴン達にも認められるようになった。
「はぁ・・・やっぱり【ラオス】さんは硬いし強いや・・・」
【新二】は地面に倒れ、手元に真っ二つに割られた【千時】を見ながら。その向こうにある青空に浮かぶ雲を眺める。
「何いってるの【マエダ】君、あれから【千時】を翌日に砕き、一晩で麻痺を回復させて次の日にまた割り、今度は4時間で回復して、次の日の朝一番の稽古で割ったら1時間で回復し、今日は意識すら落ちない。たったの一週間で凄まじい伸び代よ、こんなのドラゴンでも見たことがないわ」
【千時】を霧散させた【新二】は直ぐに【千時】を具現化させるとそこには綺麗に元通りになった【千時】がある。
「でも俺は一切、手加減もしてないし油断もしていない。なのに【ラオス】さんには【千時】を壊されている、まだまだ未熟者だよ」
「どうだか・・・うちはもう手加減する余裕も無いし、正直壊れる度に【千時】は硬く鋭くなって行くから。今日壊すのだってもう限界ギリギリなのよ」
「そうか、ならゴールは無事見えそうだ」
「失礼を承知で聞くけど【マエダ】君は本当に人間かしら?。千百年は生きているうちですらこんなに異常な伸び代を持つ人間には出会った事がないわ」
「悪いけど俺は純粋の混じりっ毛無しの人間さ。強いて言うなら死にかければかけるほど強くなる【窮鼠】と言う体質かも知れないと言う事だがー」
それは【変異種】の一件の後、【シリウス】【ワイド】【レモネーゼ】の4人で才能の話をしていた時だった。
人は生まれながら大なり小なり、何かしらの才能を持って生まれて来ると言う話しで【ワイド】は超人を越えた天性の【魔力感知】能力と【風の魔法】の才能。【レモネーゼ】は【武術全般】を体得し安い才能。【シリウス】は【風の魔法】の才能と【剣】の才能だった。
そんな中【新二】の才能とは何かで、【心器】や【風の魔法】、【武術】【魔力感知】などと言う項目が出てきたが、全てが【新二】の死に直面した状況下で開花している事から【窮鼠】と言う死に直面した環境でしか成長しない、別名【死にたがり】の才能に行き着いたのだった。
「まぁ、今の所は自身の成長を楽しめてるから何でもいいや」
【新二】は地面から起き上がると再び【ラオス】との稽古を始める、そしてこの日は【ラオス】に【千時】を壊される事もなく、むしろ【ラオス】の腹に重い斬擊を入れ。訓練場から海の中へ吹き飛ばしてやったのだった。
「それで向こうの数と戦力は?」
それは【ラオス】との稽古を終えて城に戻った時の事だった。
普段は稽古を最後まで見届けいる【オズ】は途中で【オズ】を呼びに来たドラゴンによって離脱しており、【新二】達がやけに騒がしい謁見の間が気になって【ラオス】の「行ってみれば?」という助言に従い入って見ると色んな色のドラゴンが謁見の間を出たり入ったりしており、なにか重大な事が起きているのは確実だった。
「【シュー】ちゃん様はこちらに・・・」
【きゅー?!】
【新二】達の背後に幽霊の如く現れたメイド?のようなドラゴンに【シュー】ちゃんはなすすべもなく連れていかれると、ドラゴンの間を縫うようにドラゴン化した【オズ】が現れた。
「丁度良かった、今大体の状況と作戦がたてられた所だ。そなた達の力を貸して欲しい」
竜王の国【レムホワール】より海を越え南西に500キロ程行った所、【黒鉄帝国】と海側を分けるように巨大な山脈が連なっている。
その場所に、若いドラゴンの集団潜んでおり、厄介な事に一部の人間達と取引もしているようだった。
「発見できたの非常に幸運だった、だが激しい追撃を受けて偵察をしていたドラゴンのうち帰ってこれたのはたったの一匹。その一匹も先程殉職した・・・」
無意識に【オズ】から刺々しい魔力が発せられ、力の弱いドラゴンは萎縮する。
「我々はなんとしてもこの拠点が移動する前に素早く殲滅せねばならん。さらに厄介なのは人間との取引が少なくとも確認されており、下手に人間に被害を出せば今後数千万の軍勢を引き連れて戦争になりかねん事だ」
【オズ】は知ってる、過去にたかが人間相手と調子に乗り、手を出したドラゴンが国に攻めてきた人間の防具となっていた事を。
【オズ】は知ってる。人間の中には【新二】のように規格外の怪物がいる事を。
「つまり、今回の任務は少数精鋭で我々の大事な仲間を殺した若造ドラゴンどもに代償を支払わせ、更に取引相手の人間に危害を加えないと言う高度な任務だ、メンバーは【我】【マエダ】殿【ラオス】殿で行こうと思っている」
【ギャアアア!!】
【グワワワワ!!】
【キシャァアア!!】
恐らく人間は信用出来ないとか、俺も行くとか言っているのだろう。見るからに若そうなドラゴン達だけが騒いでいる。
「【オズ】さん、俺が黙らせようか?」
「ああ、頼む・・・」
【新二】から膨大な量の魔力が溢れ出し、騒いでいたドラゴン達の意識を次々刈り取る。
「今の【格付け】ですら耐えられないドラゴンじゃ足手まといだ。国でお留守番していてくれ」
それは巨大な謁見の間ではクリップが床に落ちた時のような小さな声、だが【新二】の【格付け】により竜王を含める全てのドラゴンが【新二】に注目しており、竜王や護衛のドラゴンと一部の強者だけは【新二】の力を認めたような表情をし、半端な実力のドラゴンや若手のドラゴンは【新二】に恐怖を覚えた。
「では異論はありませんかな?」
【オズ】は竜王の顔色を伺うと、竜王は静かに頷き、竜王の承認を得た【オズ】は【新二】と【ラオス】を連れて謁見の間から出ていき、尖った山の中腹に空いた大きい滝から飛び立って行った。
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