第73話 並ぶ肉の列

「ドラゴンって強いけど隠密行動には向かない巨体だよね」


「普段はわざわざ隠れる必要など無いからな」


【オズ】に乗せてもらう形で海を渡った【新二】と【オズ】に平行する形で飛んでいた【ラオス】は、海岸に着陸すると直ぐに身体を隠しやすい人間に化け、例のドラゴンが潜むアジトへと向かっていたいたのだった。


「いつも通りパァーと行って、パァーと破壊しちゃえば良いじゃない」


【新二】と【オズ】の会話を聞いて【ラオス】がめんどくさそうに答える。


「我もその考えはあった、だが人間の中には【新二】殿のような存在もいる。下手に手を出して火傷したくは無いだろう?」


少し前に【新二】の蒼い炎に焼かれた拳を【ラオス】は見つめ、何かを諦めたような深いため息をつく。

 それから数十分走った所だろう。走ると言ってもその速さ高速道路の車並みに早いが・・・。


【(静か過ぎる・・・)】


【獣】や【魔物】がいないのだ。少なくとも【ファイゼ】村ではこの速さで移動すれば数十分でも何匹かとは出会うはず、【新二】は疑問に思い半径1キロメートルまで広がった【魔力感知】で周囲を捜索してみた。

 

【新二】の両隣には【オズ】と【ラオス】の馬鹿でかい魔力の塊が反応しており、【魔力感知】のギリギリでは米粒のように小さな魔力反応が散り散りとなって逃げていく。


「あっ、これ不味いやつじゃん」


【新二】は走る【オズ】と【ラオス】を止めると今自分が確認した事実を報告する。


「【オズ】さん【ラオス】さん。一度周囲に【魔力感知】をしてもらっても良いですか?。恐らく人化しても強さが変わらないせいか溢れでる魔力が人間じゃないです」


【新二】の言葉を聞いた【オズ】と【ラオス】は互いの顔を見合せながら【魔力感知】をする。すると互いに人間とは呼べない程の魔力を纏っており、姿だけは人間でも一発でドラゴンとばれる魔力量に額を押さえた。


「すまない【マエダ】殿、姿に関して注意していたのだが、魔力量に関してはそこまで気にしてはいなかった」


「そりゃ普段隠密とはかけ離れた生活をしているドラゴンにとっては盲点さ、だけどこのままじゃすぐにバレてしまう。魔力をどうにかして隠さないと・・・」


ドラゴン達の潜むアジト周辺の森。


「おい!!本当に怪しい魔力を感知したのだろうな!!」


「感知したから二人揃って調査してこいとあのクソドラゴンに命令されてんだろうが」


二人の小汚ない山賊は茂みに木の棒を差し込みながら松明の明かりで周囲の調査をする。


「なっ?!」


「グハッ!!」


二人の意識を最速で刈り取った【新二】は山賊の服装に着替える。


「ドラゴンの人化は服装まで魔力で変えれるとは便利だねぇ」


【新二】の背後には山賊の格好をした【オズ】と【ラオス】が立っている。


「しかし魔力を押さえ込むのはなかなか大変だぞ?、改めてこの山賊の魔力量を見たがまるで雨粒のような小ささ。魔力を押さえる為に身体を魔力の膜で覆っているのだが、分厚く硬い鱗に覆われているようで不快な上に動きづらいのだ」


【オズ】の言葉に【ラオス】は相槌を打っている。


「それは俺も一緒だよ、今までは魔力を増やす事ばかり考えていたけど。いざ押さえるとなると全身を通気性の悪い服を厚着したような感じでむさ苦しいんだ。さっさと任務を終えて帰ろう」


【新二】は山賊が騒がないように口を山賊が持っていた拘束用のロープを咥えさせ、身動き取れないようにぐるぐる巻きにすると、山賊達が来た方角へ向けて歩きだす。


「どうやらここで間違いないらしいな」


【オズ】の視線の先には巨大な魔獣の肉が幾つもドラゴンが入れそうな大きさの洞窟に運び込まれており。ドラゴンが潜んでいるのは丸わかりだった。


「どうする【オズ】、うちが行って暴れてこようか?」


「やめろ【ラオス】、そんな事すれば今までの潜伏の意味がない。ここはもう少し様子を見て潜入できる隙を伺おう」


ガラガラと音を立てながら洞窟の中へ入って行く【獣】や【魔獣】の肉と【巨大魚】達。どれもが人間一人を大きく上回るサイズであり、不審な人物が洞窟へ入らないように警備している。しかし山賊は生臭い匂いにやられたのか、マスク代わりにしている三角巾をさらに手で押さえ、嫌そうな顔をしていた。


ガラガラガラ。


そこにたった3人で血を滴らせる巨大牛の魔物を乗せた荷車を引く者達がやって来た。


「こらお前ら!!」


先頭で荷車を引く少年が身体をピクリと動かす。


「新鮮な魔獣の肉は確かにお喜びになられるがしっかり血抜きはしてから持ってこい!!。地面に落ちた血の臭いは結構残るんだぞ!!」


「申し訳ありません」


少年と後ろの二人が頭を下げて謝ると、怒鳴った為に生臭い臭いを大量に吸い込んで気持ち悪くなったのか、警備の山賊は少年達にさっさと行くように手振りで伝え、洞窟の中へ通した。


大量の肉を乗せた荷車の列は松明によって照らされる洞窟の中を進んでいく。

 途中ドラゴンの声らしき物が聞こえてくる度に荷車を押している山賊達は身体をピクつかせて怯えているようだった。

 やがて洞窟を抜けると山脈の中の盆地と言うべきだろうか、簡素だが【オズ】達の集落にも負けないほど広大な土地の中で百匹は優に越える程のドラゴン達が肉を貪り、宴のようにふるまっていた。

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