第18話 解体の問題

「ハァアア!!」


【新二】が【千時】を振るい、全長30メートルはありそうな巨大蛇の首を切り飛ばす。


【地竜】の背中に傷を付けた個体を探して4日がたった。【ロゼッテ】と【ロモッコ】の指示により【ファイゼ】村は以前とは考えられない程の活気がついている。ボロボロで廃屋のような家も【新二】が魔物を殲滅しているお蔭で安全に木を村へ運べるようになった為に新しくなり。【ベイル】町へ状況報告している【ケインズ】の呼び掛けで商人も少しだが【ファイゼ】村に立ち寄るようになったのだ。他にも【サクマ】指導の元で畑も順次拡大されたり。【新二】が間引きや調査ついでに刈る魔物を解体し、素材や肉にする事で村に貿易の商品が新しくできたことも大きいだろう。

 まだまだ人手は足りなく、忙しいが以前の死に行く村に比べて全然マシだろう。


「只今戻りました」


夕焼け空の下。村の新しく、まだ新木の香りがする門の前に血生臭い巨大蛇を引きずりながら戻った【新二】に中年の門番の男性。【ジーンズ】は何時もの事ながら苦笑いし。【新二】も何時もの事ながら「また狩っちゃいました」と苦笑しながら会釈して【駐在所】へ向かう。


「【マエダ】君、またとんでもない物狩ってきたらしいね。新たに解体担当にった【ベゼネッタ】さんや【グランツ】さんが愚痴ってましたよ」


【駐在所】の会議室。【ロモッコ】が木板に墨で村の状況報告をまとめながら、水浴びから戻った【新二】に報告する。


「探索中に襲われたんだ、その場に放置するよりは持って帰って素材にし。貿易の交渉材料にしたほうが良いだろ?」


【ロモッコ】は墨を木板に強く打ち付けて鳴らすと墨を側の小箱に入れて振り向く。


「そう言っても、もう解体場はパンク状態よ、確かに【マエダ】君が狩ってきた魔物は【ファイゼ】村にとって貴重な貿易品にはなるけど、最近の魔物は鱗も皮も骨もかなり硬く。【ファイゼ】村にある刃物じゃ裁き切れない物も出始めてる。一旦森の探索はやめて解体の手伝いをしてください」


【新二】は【千時】を使ってサクサク切っていたので気付かなかったが、【新二】の野獣狩りが思わぬ所で問題を起こしていたのである。


「分かった、明日は【ベゼネッタ】さんと【グランツ】さんの手伝いをするよ。所で【ケインズ】さんと【サクマ】さんの姿が見えないけど?」


「【ケインズ】君は今【ベイル】町に状況報告しに行ってるわ、【サクマ】は仮眠室で寝てる」


「そうか・・・」


【新二】はふと【ロモッコ】の書いた木板の文字や図形を見ていると【新二】が狩ってきた野獣の素材が量の割には値が安い事に気付く。


「【ロモッコ】さん、俺は獣や魔物の素材の値段については無知なのだが。牙ウサギや大鹿、灰色熊の素材ってもしかしてあんまり金にならないのか?」


【新二】は木板の一角に書いてある貿易の収支表を指差して言うと、【ロモッコ】は不機嫌そうな顔をする。


「それなんだけど、【ケインズ】君が頑張って連れてきてくれた商人達がね、こっちの足元を見て買い叩いてきてるの。現状商人は彼らしかいないから多少安くても売るしかないのよ」


「どうにかならないかな?」


「ならないわ、こっちが売る素材が【地竜】のような希少ある物ならいいけど。牙ウサギや大鹿程度じゃ他でも狩れる。多々でさえ帝都から真逆の端に位置するのに、わざわざ足を運んでも。ある商品がありふれた獣や魔物の素材じゃ安さ以外出向く意味がないもの、それこそ商人の端くれで【ファイゼ】村を拠点としてくれるようなバカでもいない限りわね」


「そうですかぁ・・・」


【新二】はため息をつくように言うと仮眠室に行き、眠りについた。


「やっと来たか馬鹿者!!」


解体場に来て早々、大阪のオバチャン並みにパワフルな紫髪の女性【ベゼネッタ】さんに【新二】は拳骨をもらった。


「いってぇ!!(一般人なのに【ブラウン】教官のようにいってぇ!!)」


「あんたは獲物を狩るだけだからいいけど解体するこっちの身にもなってみな!!」


「まぁまぁ【ベゼ】落ち着いて、【マエダ】君がいるから僕達は危険な外に出なくても食っていける訳だし・・・」


もやしと表現するのが似合ってそうな灰色の髪の男性、【グランツ】が妻の【ベゼネッタ】を諭す。


「アンタは力が無くて解体出来ないのだから黙ってなさい!!」


「はい・・・すみません」


「(完全に尻に敷かれてるなこの人・・・)」


現場に入って数秒で【新二】は【ベゼネッタ】と【グランツ】の関係性を理解したのだった。


「しっかしその【千時】とやらは便利だねぇー、刃物には全然見えないのに」


【新二】は昨日狩ってきた巨大蛇の鱗を【千時】で剥がしとり。腹を切り裂いて内臓を出すと【グランツ】さんの指示にしたがって巨大蛇を解体していく。


「【千時】は【心器】ですから・・・、それに【グランツ】さんの指示が的確なお陰です」


「アタイの旦那は力は無い癖に魔物を解体するセンスは高いからねぇ」


「【ベゼ】が力任せに乱暴なだけだよ」


「アンタがもたもたしてるからだよ!!」


【新二】は二人の痴話喧嘩のようなやり取りと聞き流しながら、溜まっていた魔物を次々解体し。取れた肉や素材は燻製や鞣しの工程へ順次運ばれていった。


「お疲れ様、アンタヒョロっちい身体しながらなかなか力あるねぇ」


「訓練してますから」


「【マエダ】くんが手伝ってくれて助かったよ。出来たら定期的にこっちに顔を出してくれると更に助かる」


「はい、分かりました」


丸一掛けて解体場の魔物を捌ききった【新二】達は水の入ったコップを片手に休憩していた。


「ねぇ、アタイもその【心器】っての使えるようにならないかねぇ?」


「そうだね【ベゼ】僕達のナイフより全然切れるし良かった教えてくれないかな?」


二人の頼みに【新二】は難しい顔をする。


「教えるのは良いけど、実際俺も実は良く分かってないんだ。【千時】を具現化出来たのも、【ブラウン】教官の訓練で8日間断食して死にかけた時だし余りオススメ出来ないかな?」


「断食・・・ですか?」


【グランツ】の言葉に【新二】は頷く。


「うん、石の上に座禅を組んで10日間断食するんだ。極限の状態まで自身を追い詰める事で新しい力。俺は8日目で【千時】を具現化する事が出来たけど、一歩間違えれば死ぬし。苦しい思いだけして無駄に終わるかもしれない。だから余りオススメはしないよ」


「そうか・・・」


「そうかねぇ・・・」


【新二】の言葉に二人はため息をつき、【ベゼネッタ】は渋々使い古したナイフを見て何かを思い、鞘に戻した。

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