第19話 報告書

「やっぱり鍛治屋の問題は大きいなあ」


解体場で作業し終わった晩、【駐在所】で木板に何かを書く【ロモッコ】の背に向けて【新二】は愚痴を溢す。


「そうは言っても、現状どうしようも無いわよ」


「そうだよなぁ、流石に商人から買ってくるのは・・・」


「そんなお金はございません!!、【ファイゼ】村が今まで滞納していた税金の徴収が始まりましたからね。全く!!こんなんになるまでほったらかしにしといて税金が少しでも取れるとふむと徴収しにくるなんて腹立たしい!!」


【ロモッコ】の木板に書く音が強くなり【新二】も虫のいい帝国に苛立つ。


「所で【ケインズ】さんはまだ【ベイル】町に?」


「ええ、今夜当たり帰ってくるんじゃないかしら。そう言えば【サクマ】君が最近何者かが冊を壊して畑に踏み入ったって報告してきてたから明日その近辺の森の調査お願いね」


「分かりました、俺はそろそろ寝るけど【ロモッコ】さんも早めに休んでくださいね」


「そんなの分かってるわよ」


【ロモッコ】は腰に片手を添えて【新二】が仮眠室へ入るのを見送った。


【ベイル】町【帝国兵士駐屯地】の執務室。【バウンズ】兵士長は【ケインズ】の報告を受けて頭を悩ませていた。


「随分悩んでいるようですね」


【アルテナ】は机に肘を付き、手組む【バウンズ】兵士長に声をかける。


「ああ、思ってたより状況が良くなくてな」


当初の考えでは【ファイゼ】村に20人程の兵士を送り、村の再建と周囲の開発、調査を行う予定だったが、大量の魔物が襲って来た事に加え。未開発で保証のない土地、更に商人も余り行かない辺境で何時【ベイル】に戻ってこれるかも分からない転任に、大半の兵士が行くことを拒否したのだった。

 これが戦争で帝国の為なら兵士達の考えも違ったようだが。もし強制的に転任したところでも一等兵士の【新二】や村人達ともめ事を起こし、軋轢が生まれてしまっては本末転倒になってしまう。そこで等級も年も近く、転任出来そうな兵士を探した所。生真面目な性格と女性故にちょくちょく先輩兵士とぶつかっていた【ロモッコ】とその幼馴染みの【ケインズ】。植物の知識はあるが戦闘力は低い為、からかわれていた【サクマ】の三人になったのだ。


「本当はもっと手助けしてやりたいのだが、兵士達がああではな・・・」


「基本下等級の兵士は忠義なんてものは無いですからね、いかに楽して仕事をするしか考えていない。まぁそんなんだから下等級なんですけどね」


【アルテナ】の毒舌に【バウンズ】兵士長は何とも言えない表情をする。


「まぁな、兵士の仕事は命懸けの事も多い。慎重なのは悪くないがね」


「慎重と臆病と生皮は意味が違いますよ?、前者は戦う意思がありますが後者は無い。保身に走って逃げる兵士は戦争で肉壁にもならないゴミですよ」


「兵士の話はここまでにしよう。色々と情けなくなってくる」


「はい、後で訓練メニューを増やしておきましょう」


【アルテナ】の笑顔を【バウンズ】兵士長は少し怖く思えた。


「まぁ、程ほどにな。それと商人の問題だな、【ファイゼ】村では魔物の素材が沢山取れてるらしいが大分買い叩かれているようだ」


【ケインズ】が渡してきた報告書を見ながら【バウンズ】兵士長は言う。


「商人は良くも悪くも現金な人達ですからね。近場で手に入る商品を値段以外でわざわざ出向くメリットが無かったのでしょう」


「そうだな、そこら辺はこちらの口を挟める所ではないから【マエダ】君達個人で有用な商人を見つけるか、交渉してもらうしかないな。確か心当たりある【ベイル】町の商人には声を掛けたのだろう?」


「はい、大半が渋ってましたが何人かは【ケインズ】連れられて向かってましたね」


「そうか・・・」


【バウンズ】兵士長は報告書ペラペラめくって行くとある数字をみて思わず口元が緩む。


「ほう、やっぱりそうか」


【バウンズ】兵士長は【アルテナ】に報告書に書かれている数字を見せると【アルテナ】も口元が緩む。


「これはまた近い内に合う事になりそうですね」


日もすっかり落ち、飲食店に活気が、路地裏で薄着のお姉さんが客引きをする頃。【ケインズ】は半ば追い出されるようにして商会から閉め出された。


「ここもダメだったか・・・」


【ケインズ】は【バウンズ】兵士長に【ファイゼ】村の報告にくる度に、各商会と鍛治屋を【ファイゼ】村へ勧誘をしていた。

 【ケインズ】はメモ用紙に書かれた最後の商会に棒千を引く。今日で【ベイル】町にある全ての商会、鍛治屋に声をかけたが全て満足のいく返答はもらえなかった。


「こんなんじゃ【ロモッコ】に合わせる顔がねぇなぁ・・・」


【ファイゼ】村に戻る時間は特に過ぎており。不貞腐れているだろう幼馴染みの彼女を想像し、気が重いながらも夜の【ベイル】町を歩く。

 別に何かを期待していた訳ではない、それは疲労が溜まり何となく外を散歩したくなるのと同様な気持ち。

 

「門限はとっくに過ぎている。門が開くのは明日の朝だし、それまで流されていようか・・・」


一人言を呟きながらも【ケインズ】は町を散歩する。


じゃれ合うカップル、勤務終わりで酒を飲み交わす兵士、次の日に向けて在庫の補充をする商会。【ファイゼ】村とは徒歩で半日もかからない距離にも変わらず【ベイル】の町は賑やかだ。

 それもそのはず、【ベイル】町は強固なレンガ造りの高い外壁に囲まれており。【ファイゼ】村のように簡単に外壁を壊して町へ侵入は出来ない、さらにここには先人達が作った周りを気にせず全力で訓練できる施設がある。

 安全で強い兵士に守られる町は魔物という外敵のいる世界で人が集まるのは当然の事だった。


「嫌になるな・・・こんなに近くにあるのに。俺達には届かないのが・・・」


【ケインズ】も少し前までは【ベイル】に在席していたのに、思考は【ファイゼ】村の考え方をしてる自分に自嘲する。


カン!!カン!!カン!!


風に流されて何処かから槌を叩く音が聞こえてくる。


カン!!カン!!カン!!


ずっと鍛治屋を探していたせいだろう。無意識に【ケインズ】は音が聞こえる場所へ誘われるように歩いていき。やがて古びた鍛治場にたどり着く。

 【ケインズ】は悪い事と理解していながら鍛治場の中を覗き込むと、一人の赤髪の少年が汗を流し、真っ赤に燃える鉄を打っていた。


「まぁ、こんなもんやろ」


少年は木桶の水槽に真っ赤な変わった形の鉄の棒を沈め、煮立った水面から黒くなった鉄の棒が出てくる。


「フフフ・・・研ぐのが楽しみだな。【キラニックスエレフタシィー】」


少年が黒い笑みで出来た鉄の棒を見ていると、奥から赤黒い髪のゴツい中年の男性が出てきて少年の頭に拳骨を落とした。

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