第7話 凡人と天才

「【ブラウン】教官、俺は何になりたいのでしょうか?」


早朝のグラウンド。【ブラウン】教官が今日の訓練を言う前に、【新二】は最近思い始めた疑問を投げ掛けてみた。


「そればどういう意味だ?」


「自分のこれから行く先が分からないんです。毎日【ブラウン】教官の訓練を受け、拳骨を食らいながらも少しずつ成長はしてると思いはします。だけど、この訓練を続けた先に何があるのだろうと最近疑問に思うようになって・・・自分でも分けがない分からないんです」


「つまり、自分の将来像が見えなくて迷ってるってことだな。まぁお前のような年のには良くある事だ」


【ブラウン】教官は妙に【新二】の質問に納得をし、腕を組んで相槌を打つ。


「【立派な兵士になる】と決めたもののそれは戦う兵士なのか、治療する兵士なのか、作戦や工作、支援をする兵士なのか。兵士の種類は用途によって数多くある」


「????」


【新二】は大きく外れた【ブラウン】教官の話に困惑するが【ブラウン】教官はそのまま話続ける。


「お前はハッキリ言って【戦闘兵士】には向いておらん。だが勿論お前の気持ちも分かっておる。【団長】や【つるぎ】【二つ名】に憧れておるのだろう?」


「はぁ・・・?」


「恥じる事はない。帝国民なら誰もが何万という兵士を束ね、陛下を支える6人の【団長】とその力の象徴である【剣】、そして多くの活躍をし、その功績を認めらた者に与えられる【二つ名】に憧れる」


「ほう・・・」


「だが【団長】や【剣】、【二つ名】を貰う人種と言うのは皆並外れた【天才】だ!!。お前のような凡人には無縁の領域」


自分の世界に入った【ブラウン】教官の話を適度にき流しながら【新二】は程々に相槌を打つ。


「だが、心配する事はない!!。ワシも凡人であったが【番人】と言う【二つ名】を付けられるまでになった!!、ワシがお前を【天才】達と並ぶまで連れていこう」


「おおおっおう?」


【新二】は【ブラウン】教官の力説に何と無く拍手したほうが良いと思い拍手を送る。


「と、言う訳でもう一辺死の淵へ降りてこい」


「えっ?!ええええええ!!」


【生物は命の危機にこそ己の限界を越え、更なる高みへと覚醒する】


裏山の一角に来た【ブラウン】教官と【新二】は明らかにヤバそうな洞窟の前に足を止めた。


「ここはある魔物の巣となっている。その魔物を倒してみせよ!!以上、始め!!」


【ブラウン】教官が洞窟の中に何かを投げ込み爆発、甘ったるい香りが洞窟の中より流されてきた。


「【ブラウン】教官!!俺まだ戦い方習ってないですが!!」


「自分で考えろ、そして実戦で検証し、体得せよ」


「そんな無茶苦茶な!!」


【百の訓練より一つ実践、両者の経験で得られる物に変わりわない!!】


地響きと共に高さ5メートルはある巨大な蜥蜴が現れ、舌をチロチロさせながら周囲を見渡し、【新二】の直線上で顔を止めた。


「【ゼンジィイイ!!】」


蜥蜴が一瞬で【新二】の前に迫り、大きな口を開けて食らいつく。【新二】は目前に迫る巨大蜥蜴の凶悪な歯並びと威圧の恐怖に思考が止まり、世界から音と色彩が消える。


【しっかりしなさい!!】


【千時】が勝手に宙を扇ぎ、【新二】は【千時】から放たれた突風の反動で吹き飛ばされ、地面を転がる。蜥蜴の口は地面を大きくえぐり、鋭い眼光を【新二】に向け、【新二】は蛇に睨まれた蛙のように身体が硬直し、動かない。


【やってくれましたね。あの鬼教官】


【千時】の不機嫌な声が【新二】の頭の中に聞こえる。


【シッュ!!】


蜥蜴の尻尾がしなり音速を超える速さで【新二】の首めがけて迫る。【千時】が【新二】と尻尾の間に入り込み尻尾を受けるが、軽々弾き飛ばされ【新二】は再び地面を転がる。


【新二、命を捨てなさい】


「【千時】今はふざけてる場合じゃないぞ!!」


【勿論真剣です。命を捨て、恐怖を捨て、そして死の淵から命を拾いなさい、更なる力と共に】


「何を意味不明な事を・・・」


口元の血を袖でぬぐい、巨大蜥蜴が【新二】めがけて迫る。

 

「【命を捨てろか・・・】」


巨大蜥蜴が一歩前進する度に巨大蜥蜴の歩みが遅くなり、景色から色が抜けていく。

 

(命を捨て、恐怖を捨て、死の淵に・・・)


蜥蜴一歩近付く度に【新二】の感覚が研ぎ澄まされていく。

 

人は交通事故にあった時、その瞬間時間が伸びたように長く感じると言う。巨大蜥蜴の食らい付きは人を丸飲みにし、死は免れ無い。

 【新二】の目前にある絶対的な死、それが【新二】に極限の集中力と思考速度、反射速度を与え巨大蜥蜴の食らい付きから辛うじて逃れる。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


【【新二】、今の感覚を覚えなさい。この感覚をコントロールするのです】


大蜥蜴が【新二】の変わりに食われた大木をバキバキ音を立てて噛み砕くと獲物を見下す眼差しで【新二】に悠々と近付く。


「【千時】・・・アイツの首、切れるか?」


【貧弱な今の貴方の力じゃ無理ですね】


「【千時】の力なら切れるのか?」


【フフフッ・・・】


【千時】の笑う声を肯定と捕らえ、【新二】は迫り来る巨大蜥蜴の尻尾を地面スレスレで回避し、巨大蜥蜴の首の下に潜り込む。


【うぉリャアアアア!!】


【千時】は巨大蜥蜴の鱗を僅かに切り裂いただけだが、【千時】の軌道をなぞるように緑色の光が輝き。巨大蜥蜴の首が下からギロチンされたように切れ飛ぶ。


【(まだまだ私のには程遠いですね)】


【千時】は巨大蜥蜴の血の雨が降る中、力を使い果たし立ち尽くす【新二】に、心の中でそう言った。

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