第59話 戦友

【【【【ガチガチガチガチ!!】】】】


攻防は完全に逆転した。【変異種】の親玉を守るように幾つもの塊が【新二】達の進行を遮ろうし、さらに親玉の姿を隠そうと【変異種】達が親玉の身体に群がる。


「逃がさないよ!!」


【ワイド】は親玉の羽、足の付け根を大弓で狙撃し、親玉から移動能力を奪う。


【邪魔だぁ!!】

【吹き飛べ!!】


【新二】の【千時】による斬擊と【シリウス】の剣による斬擊で【変異種】の壁を蹴散らしながら二人は親玉の元へ突き進む。


「これで終わりだ!!」


【新二】は【千時】に残りの全魔力を込めて深緑の斬擊を飛ばし、【新二】にあわせて【シリウス】も緑の斬擊を飛ばす。

 二人の斬擊は互いに絡み合うように螺旋を描きながら【変異種】を切り飛ばしながら進み。【変異種】の親玉をバラバラに切り裂いて絶命させる。


【【【【ガチガチガチガチ!!】】】】


親玉を失った【変異種】は統率力を失い。不規則に周囲を飛び回り始める。


【五月雨(繭式)】


【ワイド】の両手からマシンガンのように放たれるクロスボウの矢が飛び回っていた【変異種】を片っ端から撃ち落とし、数秒後には飛び回る【変異種】は一匹たりともいなかった。


「やっと終わったのか・・・」


【新二】は糸が切れた操り人形のように崩れ落ち、【シリウス】が【新二】の肩を手で軽く叩いて「お疲れ様」と労う。

 【ワイド】も【新二】同様に体力の限界間近であり。【新二】の隣に倒れるように座った。


「もうクタクタで動きたくないよ」


「俺もだ」


「【新二】さんはずっとこんな森の敵を相手に戦ってきたんですか?」


「いや、【変異種】と戦うのは二度目だ」


「二度目と言う事は前に戦った相手はどんな奴だったんですか?」


「通常の何十倍にも巨大化した【石灰魚】だったよ」


【新二】は石灰岩を探して洞窟に入り、その奥の湖で戦った二匹の巨大な【石灰魚】について話した。


「他にも此処では他の地域に比べて獣も魔物も強い個体や変わった生態の奴も多いらしくてね。図鑑を取り寄せて調べてはいるけどほとんど当てにならなかったよ」


「そうなんですか・・・」


【新二】と【シリウス】は同じ木に背中を預けながら満天の星空を互いに眺めおり、【シリウス】は二人に気を使ってか一人周囲の警戒にあたる。


「【新二】さん、僕達【第五兵士団】に来ませんか?」


「それは随分唐突な話しだな」


「先程の戦いで僕思ったんです、僕の力は敵をピンポイントで仕留めるのに特化し過ぎていると。今回の【変異種】のように数十万を越える数の敵が相手なら僕の弓術はあまり期待出来ないと。

 だから【マエダ】さんのうな範囲攻撃を持つ上に周囲の攻撃から守ってくれる人が来てくれればこの先の戦いでもかなり助かると思ったんです・・・」


「成る程ね・・・」


「だから僕と一緒に【第五兵士団】に入りませんか!!」


【ワイド】による真っ直ぐな誘い。それは【新二】にとっても実力を認めてくれた上で更に必要としてくれる嬉しい物だった。

 だがこの手の誘いに対する返事は既に一月以上前から決めている。


「【ワイド】の気持ちは分かったし、正直嬉しい。だけど俺はまだ【ファイゼ】村を離れる訳には行かないんだ」


「それは何故!!」


「一月以上前の事になる。俺が仲間と一緒に森で調査をしている間に村が傭兵に襲われ、二人の大事な仲間連れ去られた上に村が燃やされると言う事件があったんだ」


「そんな・・・」


「幸いな事に仲間は無事に救出出来たし、村も無事に復興したから良かったんだけど。今でもたまに自分がいない時に「村が何者かに襲われて要るんじゃないか?」って心配になることがある。

 もちろんあれら村の防壁も強化したし、傭兵や自警団も新しく村の警備に入って、強化もしてるから心配のし過ぎと言えばそうかも知れない。だけど今日のような【変異種】が相手なら村の守りなんか無いのと同じだろう・・・」


【新二】の言葉に【ワイド】は何も言えず、気まずい沈黙の時間が流れる。


「【ワイド】さん、誘いは素直に嬉しいよ。だけど俺はまだこの村を離れる訳には行かないんだごめん」


「そう・・・分かったよ、こちらこそ無理言ってごめんなさい」


それから二人は特に話す事もなく夜空の星母子を眺め続け、【シリウス】がそろそろ休憩を終わりにして帰ろうか言おうとした時だった。


【この反応!!まさかあり得ない】


「【ワイド】さん何を感知したんですか?!」


【新二】の問いの答えは周囲の上空を見れば直ぐに分かった、一つの塊でさえ【ファイゼ】村より大きく、【新二】【シリウス】【ワイド】が全力を出してやっと倒したのに。その塊が八つも【新二】達を包囲するように八方の空で君臨していたのだった。


「全く・・・この村に来てから退屈しないなぁ・・・」


「同感だぜ・・・」


【ワイド】と【新二】は互いに不適に笑ながら立ち上がり、【シリウス】に背中を預けるような形でそれぞれの方角に向けて大弓、扇、そして剣を構えたのだった。


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