第38話 経験の差
【ベイル】町郊外にある古びた倉庫、いつもは釘一本でも落ちれば倉庫内の何処にいても聞こえそうなほど静かな場所だが、今夜は至るところから爆発と炎が上がり、古びた倉庫は蜂の巣のように大きな穴が空いていく。
【いいぞいいぞ!!もっと俺を本気にさせてくれ!!】
「グッ!!」
木の棒超しに【ザック】の爆発するガントレットをくらい、【カール】は倉庫の地面に小さなすり鉢状の凹みを作る。
【カール】は木の棒を杖変わりに支えて立ち、周囲の魔力を捜索する。
「(正直多少の傭兵なら僕一人でもどうにか出来る自信はあったけど、この人は荷が重いですね・・・)」
【カール】は【ザック】の拳を紙一重で回避し、木の棒を【ザック】の首に絡ませて床に引き倒す。
「クッ!!悪くない動きだぞ!!」
【ザック】の蹴りを腕で防ぎ、【カール】は一歩下がると。ザックが起き上がった瞬間に木の棒を中国武術のような華麗な動きで攻め立てる。
「技のキレ、魔力、俺の敵として申し分ない。だが!!」
【ザック】は【カール】の木の棒を両手で受け止めると。【カール】の顔面に頭突きをくり出す。
「がぁあああ!!」
【カール】の額から血が流れ、【カール】はヨロヨロと後退りする。
【実戦経験が足りん】
【ザック】はよろめく【カール】に容赦なく燃えるガントレットを次々撃ち込み、大きく後ろに右腕を引いて爆発する一撃を【カール】に撃ち込む。【カール】は木箱の山へ向かって吹き飛び、木っ端が【ザック】の足元まで転がってくる。
「もしお前の目が見えており、兵士になって実戦を積んでいればもっと楽しめたが。残念だ」
「【メール】・・・」
【カール】はボロボロの身体で辛うじて木箱の残骸から立ち上がると【メール】に向かってふらつきながら歩き、【メール】の一歩手前で地面に伏っした。
【お兄ちゃん!!】
「まったく余計な手前を掛けさせやがって!!」
【ナリカネ】は倒れた【カール】の頭を踏みつけ、唾を吐きつける。
「やめて!!何でも言うこと聞ききますから!!辛い事も耐えますから!!お兄ちゃんを痛め付けないで!!」
懇願する【メール】の姿に【ナリカネ】は自身の欲望が満たされていく快楽を感じる。
【ほれ、もっと懇願しろ!!命乞いをしろ!!もっと悲しみ絶望に歪んだ顔を俺様に見せろ!!】
【メール】の泣く声に【ナリカネ】は歓喜し【カール】の頭を踏みにじる。
「お願いやめてぇえええ!!」
【ペッ!!】
【あ?】
【ナリカネ】の頬に何かがかかり、手で触ると真っ赤な唾が手に付着しており、【ナリカネ】の額に青筋の血管が浮き上がる。
「【メール】を泣かせんじゃねぇよ豚ヤロー、ケッ・・・」
「【サイモン】さんやめて・・・これ以上怒らせたら本当に殺されちゃう・・・」
「いいか【メール】、男にはな・・・悔いを残さない為に。死ぬと分かっててもやらなきゃならネェー時があるんだよ・・・」
【ナリカネ】は無言で【サイモン】の前に立ち、短剣を振り下ろした。
「【サイモン】さぁぁああああんんんん!!」
【サイモン】は確定した死を前に嗤った。それは世界一気にくわない豚野郎に【サイモン】自身が唯一出来る抵抗だったのと、【メール】が【サイモン】を思い出すときに命乞いする無様な姿ではなく。最後まで不敵に豚野郎を嘲笑ったバカの方が良いと思ったからでもあった。
怒り狂う豚野郎の短剣が【サイモン】の目前に迫る。今迄【サイモン】が過ごしてきた日々が走馬灯のように駆け巡る。
「【師匠】!!【師匠】は【黒鉄】を打った事があるって本当か!!」
「【師匠】と呼ぶな小僧!!【黒鉄】は昔打ったことはあるが、つまらんから興味持つのは止めとけ」
幼い【サイモン】に白髭の老人は最初怒鳴るが、次第に興味無さそうに答える。
「だって、【鍛治師】なら誰もが夢見る【黒鉄】だよ!!」
「いいか【小僧】、【黒鉄】と【灰鉄】の違いは鉄に含まれる【魔力】の多さじゃ。鉄を打ちながら抜ける魔力を押させえるのが【黒鉄】の打ち方。そんな守りに走る打ち方などワイの打ち方などではない!!」
【いってぇええ】
老人は【サイモン】に拳骨を落とし、【サイモン】は頭を抱えてしゃがみこむ。
「いいか【小僧】どんな鉄も打ち方次第で黒鉄になる。それは魔力が鍵だ。鉄を見極め、鉄にあった魔力を均等に打つのだ。そうすれば屑鉄からも国宝級の武器を作れるじゃろう」
【師匠・・・】
懐かしい【師匠】との記憶が甦り、【サイモン】の両面に涙が溢れる。
【俺の仲間に何しやがる・・・】
人影が【ナリカネ】の短剣を素手で止め、もう片方の手の棒に結ばれた。巨木に剣とクワの紋章の旗がひらめく。
「【マエダ】の旦那・・・」
「【マエダ】さん!!
【新二】は短剣の刃を素手止められた事に驚く【ナリカネ】の顔面に拳をめり込ませ、【ナリカネ】は数十メートル先の倉庫の壁に激突し砂埃が舞う。
「遅くなってごめん、なかなか正解にたどり着かなくて、幾つかハズレの拠点を潰してたら遅くなった」
【新二】は吊るされたロープを切り【サイモン】【メール】を解放すると、ボロボロの【サイモン】【カール】に【リンド】から貰った【治癒薬】を飲ませる。二人の傷はゆっくりだが確実に回復し何とか動けるようにまでなった。
「待たせたな、俺は【ファイゼ】村所属、【前田新二】二等兵士だ」
「【二等兵士?】ハッハッハ!!面白い事を言うなお前は・・・。その魔力、その風格、その眼光で二等兵士は無理があるぞ?。だが、俺はお前が何等兵士だろうが強けりゃ問題ない!!さぁ始めよう【マエダ】!!。楽しい楽しい【殺し合い】をよ!!」
【ザック】と【新二】は同時に床を蹴り、【ザック】の【ガントレット】。【新二】の【千時】がぶつかり、倉庫の天井を突き破る赤と深緑の魔力の柱が螺旋状に渦巻き、天に登った。
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