白黒のコイン

木登りブタ

プロローグ

第1話 白き正義と黒き正義

あの日、もし別の衣装を選んでいたらと・・・ふと思う時がある。

 でも、そしたら今の自分には成れなかったし、バカで間抜けでうるさい奴らだけど。嫌いじゃないアイツらと、殺し合いもしていたと・・・思う。


公立桜川中学校演劇部、国語の教科書に乗るような文学作品ではなく。ラノベを題材にした演劇が特徴で、一部の生徒から【オタク部】など揶揄されている部活があった。


「ねぇ・・・それで白と黒どっちにするの?」


姿鏡の前で白がメインの衣装と黒がメインの衣装を並べて悩む黒髪の男子生徒に、呆れた表情の女子生徒が壁を背に、長い茶髪を指で絡めながら問いかける。


「いや~~仮縫いとは言え両方とも出来が良いからね。今度の主人公にはどちらを着てもらうか迷っちゃうよ!!」


桜川中学2年【前田新二まえだしんじ】はファンタジーが好きなオタクである。しかし【新二】の両親は典型的なゲーム禁止、漫画禁止、アニメ禁止の三禁親で。勉強や塾を【新二】に強制していた為に、心の癒しを求めて【新二】がよりファンタジーの世界の虜となった事は皮肉と言えよう。


「ファンタジーが好き過ぎて自作の衣装まで作るとか、相変わらずとんでもない変態さんなんですけど」


伊東春菜いとうはるな】【新二】の同級生で隣の家に住んでいる幼なじみ。【新二】がオタクの道へ進まないように監視を【新二】の母親からお願いされているが。すでに【新二】は沼にハマるどころかダイビングしていたため。形だけの監視となっている。


【ありがとう!!】


「げっ!!」


【新二】が振り向き様に渾身のキメ顔を披露をし、【春菜】は顔をしかめ、汚物を見るような表情をする。

 だが【新二】は【春菜】の引き顔を気にする素振りもせず、再び姿鏡の前で衣装を片手に迷い初め、春菜は深い溜め息をついてその場を後にした。


キーン、コーン、カーン、コーン♪


「しまった。迷い過ぎた!!」


下校のチャイムが鳴り、慌てて衣装を片付けようと手を伸ばすが。ここで神様の気紛れか、【新二】自身の中二病が発症したのかは分からない。

 【新二】は直感的に黒がメインの衣装を着ると姿鏡の前に堂々と立ち。右手を付きだしてキメ顔をする。


【我、命を懸け和平を築かんとする者なり!!】


カァーー、カァーー、アホカァーーー、


【新二】をバカにするようなカラスの鳴き声が一人きりの部室に響き渡り、徐々に気恥ずかしさが【新二】を襲う。


「今のは無しだな・・・」


【新二】に新たな黒歴史が刻まれた時、姿鏡に暗く不気味な渦が現れる。


【その覚悟本物と見ました。貴方の力を貸しなさい】


「え?」


謎の腕が【新二】の肩を掴み、鏡の中へ【新二】を引きずり込んだのだ。


【ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァ!!】


 悲鳴を上げながら薄暗い渦の空間を【新二】は落ちていく。上下、左右の方向感覚すら分からなく成る程不規則に身体が回転し、プールに飛び込み、水面を腹打ちしたときの何倍の衝撃を受けたと思うと。目の前には青々とした雑草が映った。


「ここは?」


車酔いしたときのような気持ち悪さを抑えながら立ち上がると、そこは白と黒の兵士達が血で血を洗う戦場だった。


「その首もらっタァアア!!」


【新二】の背後から声が聞こえ、白い兵士が【新二】の首目掛けて剣を振るう。


【伏せろ!!】


【新二】は反射的に声に従い、地面に這いつくばるように伏せると。【新二】の真上で剣が交差し、白い兵士が血を吹き出しながら倒れる。


【ここは戦場だ!!お前のような子供が来る所では無い、何故来た!!】


「えっと、それは・・・」


二十歳ほど見られる黒い兵士が鬼のような形相で【新二】を睨み付け、【新二】は頭が真っ白になる。


「役立たずはさっさと失せ・・・」


【新二】は黒い兵士の背後に、こちらに向けて手をかざす白い兵士を見つけ、咄嗟に黒い兵士に飛び付く。

 

【危ない!!がぁぁァアアア゛!!】


背全体を針で突き刺したような痛みが【新二】を襲い、爆風に飛ばされて地面に転がる。そして後頭部を石に強く打ち付け【新二】の視界は暗転した。


【容態はどうだ?】


「頭を強く打ち付けた見たいですが、命に別状はありません、背中の火傷も【治癒魔法】で完治済みです」


「それでこいつのは分かったか?」


「身元につながるような持ち物はありませんでしたが、随分といい。大方に憧れて戦地まで来たバカな子供といった所でしょ」


「そうだな。この顔に覚えは無いが、町や村で【兵士団】に入りたいと言う子供を適当にあしらってきた。大人の戦争に巻き込まない為でもあったが、逆に意地にさせてしまったのかもしれない」


「ここは?」


「気付いたかね君」


【新二】が目を覚ますとテントの中の簡易ベッドの上におり、黒色の白衣を着た男性とさっき戦場で助けてくれた兵士がそこにいた。


「まずは彼、【ライモンド】に礼をいいな。魔法で傷付いた君をここまで運んで来てくれたんだ」


「いや、それを言うなら【レイブン】にだろう。【治癒魔法】で治療したのは彼だ」


【新二】は状況が把握出来ずにオドオドしながらも二人に礼を言うと。【ライモンド】の表情が強張り、【新二】は少し怯える。


【さて、単刀直入に話そう。お前は誰で何故あの戦場にいた?】


「それは・・・うっ・・・」


【新二】の後頭部がズキズキと痛み、顔をしかめる。


「【レイブン】」


「ああ、恐らく頭を強く打ち付けた衝撃で記憶が少し混乱しているようだね」


「直ぐに戻るか?」


「それは分からない、だがあんまり時間はかけられないよ。ここは戦場・・・僕自身余り時間をかけてはいられない」


「そうだな、ではもう少し簡単な内用にしよう」


【ライモンド】は【レイブン】と会話をし再び【新二】の方に向く。


「まず、お前の名前はなんだ?」


「まえだ・・・しんじ・・・」


「では、お前はこの後どうしたい?」


「どうしたい・・・ですか?」


「そうだ、今後お前には三通りの道がある。


一つ、戦場から離れた所の町で解放される、その後は自由だ。


二つ、今後の進路が決まるまで戦争孤児が集められられている施設に入る。


三つ、帝国の【訓練兵】として地獄に落ちる。


さぁ選べ、チャンスは一度きりだ」


【新二】はまだズキズキする頭の中で三つの選択肢をかんがえる。


「まず、一つ目の選択肢は無いな。解放された所で行く宛てもない。三つ目も無いな」


【新二】の脳裏には白い兵士に殺されかけた出来事が蘇り、帝国の兵士として戦争することは避けたかった。


【戦争孤児の施設に入りたいと思います】


「そうか・・・(やはり戦場を知って兵士になるのを諦めたか)では補給部隊がそろそろ到着するからその部隊と一緒に去るがいい、ついてこい」


【ライモンド】はそう言うと無愛想にテントを出て行き、新二も【ライモンド】後に続く。出口で【レイブン】に軽く頭を下げると【レイブン】は笑顔で右手を軽く振った。

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