ドラゴンと右腕

第65話 ドラゴンは弱い

【俺も随分人外になってきたなぁ】


【ファイゼ】村を出てから2日。体長7メートルはある岩のような鱗に覆われた【岩石ウサギ】の突進を身体強化させた両腕で正面から止め、【新二】は左足を強く踏み込み、右足を振り上げ。岩石ウサギ】を10メートル上空に打ち上げる。


【なんか違うんだよなぁ、俺が想像しているのと・・・】


白目を剥いて気絶している【岩石ウサギ】を素通りし、背後や地中から奇襲してくる巨大昆虫は【正炎】で容赦なく焼き払う。

 一見油断しているようにも見える【新二】は【魔力感知】の範囲を半径500メートルまで広げており、余程でなければ擬態した【魔物】の攻撃すら食らう事はない。

 それはRPGゲームでラスボスを倒したメンバーで一般の洞窟に潜っても全然ワクワクしない感情にも似ている。


【退屈・・・】


ファンタジーの世界ならダンジョンに入って【魔物】を倒し、宝箱やボス戦なんかでワクワクするものだろう。

 だがこの世界は少し違う。魔力と言うファンタジー感満載の物はあるが、敵となる相手がどうしても現実よりなのだ。殺せば死体は残るし、魔石らしき物の話は余り聞かない。

 魔法も想像すれば何でも出来るって訳じゃなく、一部の人種が天から授かってくる才能のような物であまり夢は無い。

 今までは日々生きるのに精一杯で忘れていた【新二】の中二心が呼び覚まされ、今更ありとあらゆるこの世界に関する不満が溢れて出てくる。


「かといって、いくら愚痴っても何も変わらないがね・・・」


もう、小一時間は一人愚痴を溢しながら森の中を歩く【新二】。これからどうするのか?、何をしようか、なかなか見つからない答えを探して森を進んで行く。


【え?!ドラゴン!!】


【新二】の目の前にはボロボロの姿で息絶えた体長20メートル程の赤いドラゴンと、その子供なのか「キューキュー」と泣く体長60センチ程の黒い子ドラゴンがいた。


【(なんかいきなりファンタジー感溢れてキター!!)】


【新二】は茂みから子ドラゴンの前に出ると子ドラゴンは【新二】にむかって「シューシュー」と可愛く威嚇している。


「(やべぇー、凄く可愛い!!。連れて帰りてぇなぁ」


【新二】が「怖くないよ」と言いながらゆっくり近づこうとするが、子ドラゴンは怯える瞳で【新二】を見つめ、必死に動かなくなった親ドラゴンにせがむ。


「(そう言えば子猫は下手に触ると懐かないと聞いた事がある。ここは一つ、子ドラゴンが俺に慣れるまで我慢といこうじゃないか)」


【新二】はあえて子ドラゴンの半径10メートル以内には近付こうとせず、子ドラゴンから真っ直ぐ見える位置に腰を下ろした。


「俺は【マエダ】、君は何て言うんだい?」


【新二】は勿論子ドラゴンが名乗る訳は無いと思っている、しかしこう言う相手を思う気持ちは言葉は分からなくとも少しは伝わるものと思い、一様やって見たのだ。


【シューシュー!!】


【新二】はドラゴンの言葉が分からなかった。


「そうか【シュー】ちゃんって言うだね、俺はこの先の森を抜けた所にある【ファイゼ】村から来たんだ。【シュー】ちゃんは何処から来たの?」


「シューシュー!!」


それは第3者からみたら非常に滑稽に見えただろう。言葉の分からない子ドラゴンにひたすらナンパするように名前や出身、好きな食べ物や花なのどの質問をする【新二】。最終的には互いに疲れ、無言でニラメッコのように見つめ会う始末。


「(全くと言って良いほど馴染めた気がしない)」


子ドラゴンは相変わらず「シューシュー!!」と【新二】に向かって威嚇している。


【ガァーガァー!!】


上空から聞いたことの無い鳴き声が聞こえ、大きな炎の塊が【新二】達目掛けて落ちてくる。


【正炎!!】


【新二】は子ドラゴンを抱き抱えて庇いながら頭上に炎の暴風を吹き上げさせ、炎の塊と相殺させる。


【イテッ!!】


脇に抱えた子ドラゴンが【新二】の左肩に噛みついたのだ。


「大丈夫・・・俺は君に危害を加えない。だけど今は少しおとなしくしていてくれ・・・」


肩から血を流しながらも【新二】の意識は上空から炎の塊を落とした人物の魔力反応に向ける。


【誰だ!!いきなり炎なんか落として来やがって!!】


衝突した炎に覆われていた視界が晴れ、上空には無数に飛び回る灰色や赤茶、紫のドラゴンらしき生物が旋回していた。


【キュー!!】


子ドラゴンは彼らの姿を見ると見て分かるぐらいに身体を震わせて怯える。


「よく分かんないけどコイツらが【シュー】ちゃんの敵で俺に炎を落としてきた犯人なのは分かった。なら必然的に俺の敵だ!!」


【新二】は次々ドラゴンの口から落とされる炎の塊を【正炎】で相殺していく。


「(思ったより切れてない・・・【正炎】は炎を纏う分だけノーマルな【千時】に比べて切断能力が低くなっているのか?)」


【新二】は【正炎】を霧散させ、通常の【千時】返還させ、深緑の斬擊をドラゴンに向け放つ。

 ドラゴンは【新二】の斬擊を口から吐くの炎の塊で相殺しようとするが、深緑の斬擊は炎の塊を真っ二つに切断し、ドラゴンの片方の翼を切り飛ばした。


「成る程、やはり切断能力ではノーマルな【千時】のほうが上、しかし【正炎】のように炎は相殺出来ないから、切り方には注意がいるな」


【新二】に切られたドラゴンは不規則に回転しながら遠くの森の中へ墜落し、切った炎の片割れは森に落下して黒い煙を上げている。


【ギャアアア!!】

【ガァアアア!!】


ドラゴン達は本格的に【新二】を邪魔する者と認めたのか【新二】に向かって幾つもの炎の塊を吐き落として来る。


「遠距離からチマチマと鬱陶しい・・・」


【新二】は炎の塊を全てぶった切ると深緑の巨大竜巻を起こし、ドラゴンの一味をかき回す。


【石灰魚以来だなこの技は】


【新二】は【千時】を閉じると弓のように引き絞り、竜巻に巻き込まれてぐるぐる回るドラゴン達に標的を定める。

 【千時】から放たれた深緑の光は標的のドラゴンを見事に貫通し、その後もドラゴン一匹一匹に狙いを定めた光はドラゴンを容易く貫通させ、上空に飛び回る奴は誰もいなくなった。

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