第66話 油断の代償
「さて、どうしようかな?」
ドラゴン達を墜落させた後、【シュー】は【新二】の左足を抱えるように抱きついている。
それは警戒心が少なくなって良かったかと言えばはそうではない。何故なら足から引き放そうとすると手を噛んで来るのだ。
かと言ってこのままじゃ移動するにも支障が出るし、【新二】的にはそろそろ【シュー】を守って亡くなったであろう親ドラゴンを埋葬してやりたい気持ちだった。
【イデデデデッ!!】
【新二】は子ドラゴンに噛みつかれながらもなんとか足から引き放し、地面にしゃがんで視線を子ドラゴンに合わせる。
「このドラゴンが【シュー】にとって大事な家族なのは何となく分かる。だけど彼はもうこの世にはいない。このままじゃ彼は自然の定めで他の動物に喰われて行くだろう。それは俺は嫌だし【シュー】も嫌じゃないのかな?」
【キューキュー!!】
【シュー】のそれは悲しい鳴き声であり、言葉の意味は理解出来なくとも。この【シュー】を守ってきたドラゴンに対して別れを告げようと言う【新二】の気持ちは何となくだが伝わったような気がした。
【新二】は【正炎】に魔力を込め、【正炎】が赤い魔力を纏って凄まじい熱気が発せられる。
【キューキュー!!】
子ドラゴンは【新二】の足を鼻で小付き、何かを訴えている。
【新二】が気になって子ドラゴンに向かってしゃがむと子ドラゴンは【正炎】に噛みついた。
【ちょ?!まって!?これは食べ物じゃないよ!!】
【新二】は【正炎】を上下、左右に揺さぶり。【シュー】ちゃんから【正炎】を吐き出させようとするが、【シュー】ちゃんは必死で食らい付いたまま抵抗している。
そして【新二】は【正炎】から魔力が抜き取られ、【シュー】ちゃんに移動していくのが感覚的に分かる。
「【シュー】ちゃんはもしかして・・・」
【新二】は【正炎】を引き抜くのを辞め、魔力を【シュー】ちゃんに吸わせ続けていると、もう十分と【シュー】ちゃんは【正炎】に噛みつくのを辞め、【シュー】ちゃんを守ってきたであろうドラゴンを焼失させる程の炎を吐き出す。
【ギキキュウウウウー!!】
【シュー】ちゃんのその声はドラゴンに対する謝罪、感謝、悲しみ、他にも言い表されない感情が込められており、【シュー】ちゃんは【新二】の手出はなく、最後は自身の手でお別れしたかったのだろうと感じた。
【シュー】ちゃんと出会って3日がたった。
【シュー】ちゃんの歩行の仕方は人間と同じように二足だが、足は小型犬のように高速回転させて歩幅の大きな【新二】に付いてくる。
正直凄く可愛い、このまま村にお持ち帰りしたい所だが、【シュー】ちゃんを連れて帰るともれなくいらないクソドラゴンがおまけとして付いてくるのである。
【ガァアアア!!】
「はぁ・・・またか・・・」
この3日間、不規則でドラゴンが【シュー】ちゃんを狙ってやって来るのだ。
初めは【新二】の足に怯えるように捕まり、酷いと噛みついて来たのだが、追っ手のドラゴンを何事もなく墜落させる【新二】に今となっては上着の端を三本の指で摘まむくらいになっている。
【さっさと失せろ!!】
【新二】は【千時】を振るい、何時ものように深緑の斬擊が炎の塊ごとドラゴンを切り裂き、森の中へ墜落させた。
これは余談ではあるが定期的に襲ってくるドラゴンを相手に【正炎】を何度か試し、【正炎】のもつ特性が少し分かってきた。
それは【正炎】はノーマルな【千時】に比べて切断性能、飛距離、貫通能力、が劣り魔力消費が上がっていると言う事。しかしその代わりに炎を使った範囲攻撃の火力と相手からの攻撃を防ぐ防衛力、はノーマルの【千時】を越えており、これまでは吹き飛ばすだけの突風も【正炎】で行えば焼き尽くす業火に変わる、まさしく一長一短と言えるだろう。
「しっかしコイツらしつこいなぁ・・・たかが子ドラゴン相手に送り込んで来る戦力じゃないぞ?」
ドラゴンは本来、その強靭的な鱗に覆われた身体は鉄製の剣すら刃こぼれをさせ。魔法による攻撃も軽減させると聞く。その為ドラゴンの鱗などは価値が高く。【ベイル】町への賠償問題で一騒動となったのだが、【新二】が強くなったのか。たまたま鱗の柔らかいドラゴンが運良く相手なのか。特に苦労する事なく【新二】は【シュー】ちゃんを守りながら森の中を進んで行く。
ゾワッ・・・ゾワゾワ・・・
それは余りも大きく、速く、力強く、まさしく地上最強の生物なのは疑う余地の無いほど完璧な赤黒いドラゴンだった。
「【シュー】ちゃんは殺らせねぇ!!」
【新二】は反射的に【シュー】ちゃんを庇うように【千時】を構え、赤黒いドラゴンの間に入るが。ドラゴンは深緑の魔力を纏う【千時】の刃に憶する事なく指の爪を振り抜き、【新二】はボールの様に弾みながら森の木々を押し倒して行く。
「ペッ!!(少し衝撃波で内臓がやられたか?)」
【新二】は血を地面に吐き捨て、上空を旋回する赤黒いドラゴンを見つめる。
「雑魚ドラゴンを何体も葬った【千時】ですら奴の爪には無傷か・・・」
ピシッ!!
【なっ?!】
【千時】の扇の刃先にヒビが入り、小さな欠片がポロポロと落ちる。
「これは短期で決めないと不味そうだ」
【新二】は【千時】を霧散させ、【正炎】に切り替える。すると赤黒いドラゴンが大きく口を開け、今でのドラゴンの炎が線香花火のようにも見える程巨大で熱い炎を吐き出した。
【そいつは反則だぜ!!】
【新二】の全魔力を込めた炎の壁が立ち上がり、ドラゴンの炎を止める。
【ぐおおおお!!】
【新二】を守る炎はドラゴンの炎に焼かれると言う現実ではあり得ない現象により、炎の壁は瞬く間に薄くなっていく。
【嘘だろ・・・】
ドラゴンの炎は【新二】の炎の壁を焼き尽くし、大きな炎の柱を立ち上げる。
【グルルル・・・】
赤黒いドラゴンは眼下の人間に警戒をしていた。それは彼が【竜王の国】でも上位に入る程の実力者であったのと、ここ数百年。人間が相手で自慢の爪で切り裂けなかった者も、自身のブレスによる炎で焼き尽くせなかった者もいなかったからである。
「全く・・・たった一度の攻撃で【千時】にヒビを入れられ。たった一度の炎で右腕を犠牲にしなけりゃ生き残れないとは・・・ドラゴンっていう生物はドチートの塊かなにかか?」
【新二】の右腕は灰になっており、辛うじて持っていた【正炎】は霧散していき、灰になった右腕は肩の根元までポロポロ崩れ落ちていく。
「【千時】・・・力を限界まで貸せ・・・」
それは誰かに者を頼むようでなはなく、弱い者から金を巻き上げる不良のように威圧的な言い方だった。
【千時】からの返答はない、だが【新二】の左手に具現化した【千時】は何時の深緑ではなく、更に色の濃い。黒い風を纏わせ、周囲の木々が勝手に斬り倒されて行く。
赤黒いドラゴンは嫌な予感が確信に変わり、より一層人間に対して警戒をする。
シュッ・・・
それは赤黒いドラゴンですら回避出来るのがやっとの黒い斬擊だった。
【ほら・・・かかって来いよクソドラゴン。お前を真っ二つにぶったぎってやるからよ!!】
【新二】の挑発が赤黒いドラゴンにも伝わり、ドラゴンは大きく口を開けて前回の比ではないほどの魔力を口元に集め出す。
【ハァアアアア!!】
【新二】もそれに対抗して黒い風を周囲に吹き散らかせ、【新二】の周囲の木々は円系状に切り開かれる。
両者の魔力が限界まで高まり、互いにぶつけようとした瞬間、【シュー】ちゃんの鳴き声が聞こえる。
【きゆゅゅううううう!!】
その鳴き声を聞いた赤黒いドラゴンは口元に集めた魔力を霧散させ、【シュー】ちゃんに向かって降りてくる。
【新二】もその姿見て黒い風を霧散させると遠くに見える【シュー】ちゃんに向かって歩いていった。
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