第64話 思ってたのと違う
「それで二人仲良く魔力切れでやっと終わった訳か。ハッハッハ!!」
【黒鉄帝国第五兵士団本部】ジュラの塔で【シリウス】から【新二】と【ワイド】の思い出作りという名前の模擬試合について報告を受けた【チェイン・リザード】団長は、【ファイゼ】村から不機嫌になって帰ってきた【ウィーク】の理由も知り、爽快に笑った。
「そりゃ不機嫌になるわなぁ、近、中距離とはいえ【魔手】と呼ばれる射撃の天才。【ワイド】と正面からやりあえる奴など【訓練兵】じゃ例の4人くらいだ。【アルフレイン】もよく見つけたものだ」
【リザード】団長は後ろの窓から外を眺め、いつも澄ました顔をしている【アルフレイン】が【ウィーク】にしてやったりと言う顔をしているのを想像して更に高らかに笑う。
【黒鉄帝国第六兵士団本部】朧屋敷、そこ平安時代の貴族のような建物であり、中庭には美しい日本庭園と三日月池があり、池の中腹には朱色の柱が綺麗な小さな釣り小屋が立っている。
【はぁあああ!!見つからない!!】
【リザード】団長の読みと反対に【アルフレイン】団長はいまだに【剣】候補となる有望株を見つけられずにいた。
「そりゃ10年に一度と言うような天才ですよ?たった数ヵ月で見つかるほうがおかしいですよ」
「【セスタ】は気楽で良いわね」
「気楽にやらないと団長見たいに気力が持ちませんて!!」
【セスタ】は現役の兵士から【訓練兵】、【訓練兵候補】に至るまで視野を広げて【剣】となりえそうな人物を探しているが、イマイチピンと来るような人物がおらずもう何周目というほど名簿を繰り返し見ていた。
「そういえば彼うちに来ないかしら・・・」
「団長がお気に入りの懐中時計をその場の雰囲気で渡しちゃったっていう【マエダ】君ですか?」
「コラ余計な事言わない!!」
こんな光景をみたら【ウィーク】は発狂しそうだが、当然【ウィーク】はそんな事知るよしもなく一方的に【アルフレイン】に対して恨みを募らせていった。
【平和だねぇ・・・】
体長15メートルはある赤毛の大鹿を狩猟した【新二】は鹿の首から血抜きが終わるまでの間空を流れる雲を見ていた。
「体長15メートルの化物鹿が突撃してきても平和って先輩感覚おかしくないですか?」
ボケーとしている【新二】に対して【ダース】は冷静にツッコミを入れる。
「だってこいつ弱いじゃん。子鹿と一緒じゃん!!【ワイド】達がいた頃に比べるとどうしても退屈でねぇ・・・」
「先輩、【ワイド】さん達が本部に戻ったのはまだ昨日の事ですよ。そんなんじゃ【ロモッコ】さんに「確りしろ」ってド付かれますよ」
「そうは言ってもねぇ・・・はぁ・・・」
【新二】は渋々立ち上がると大鹿を軽々担ぎ上げ、一旦【ファイゼ】村へ戻る事にした。
何時も通りの帰り道。何時も通りの【ジーンズさん】、何時も通りに視線を集める巨大な獲物。何時も通りに【グランツ】【ベゼネッタ】夫妻に解体を頼み、何時も通りに【駐在所】で森の報告書をまとめ。何時も通りに夕食を食べて寝る。
それは余りにも平和で、退屈であった。勿論そうなったのにはいくつか理由があるが、やはり最大の理由は本格的に【第五兵士団】の演習が始まったからだろう。今までは【新二】が毎日森を走り回って【獣】や【魔獣】を狩猟しないと森から溢れて村を襲う場合が少なからずあったが、【変異種】に大きく減らされて以降、【第五兵士団】の演習でほぼほぼ狩れてしまうのだ。
村も新たな取引先に【第五兵士団】が加わり売り上げは右肩上がり、このままでは本格的に自身の存在価値が無くなり兼ねない状況に【新二】は少し焦り出していた。
「まさか【ウィーク】さん、俺の役割が無くなる事を予見して引き抜こうとしてた訳じゃないよなぁ・・・」
【新二】は【夜の間】のベッドの上で今後の方針について考えた。
【【ロモッコ】さん、しばらく俺は森の更に奥を調査する為に旅に出る事にした】
翌朝久しぶりにベッドで寝て気分よく起きてきた【ロモッコ】は【寝ずの間】で山籠りのフル装備をした【新二】に出会い。
一言目にそれを聞いた【ロモッコ】は何時も通りに「行ってらっしゃい」と特に気にする事もなく【新二】を送り出す。
そして【リンド】特性の【メリーブ】のお茶を飲み、意識が鮮明になると【新二】がある種の家出をした事に気付き、思わず叫んだ。
【旅だって!?】
【ファイゼ】村は南と西以外は森に囲まれている。
南には言わずと知れた村で唯一他の町村につながる砂利道があり、ずっと先に進んで行けば【ベイル】町へ向かう道と帝都方面へ向かう道が見えてくる。
西は【ファイゼ】村着任当初に地竜と凄まじい数の獣を狩った為に川を血で染めてしまった苦い過去のある草原があり、その奥には森が広がり、その更に奥には高い山脈が何処までも続いている。
東の森には【鉄喰らい】と戦った今の【鉄鋼石】の採掘場があり、その奥は高い山脈が何処までも連なっている。
北には【石灰魚】と戦った【石灰岩】の採掘場があり、その奥も東から回り込むように高い山脈が連なっている。
北西には【シーアント】の【変異種】と戦って焼け野原になった森があり、その奥は唯一北の山脈と西の山脈の切れ端があり、徒歩でも山を越えれそうなルートになり得そうな場所だった。
「俺はあの向こうにある何かを求めて旅に出るぞ!!」
【新二】は自身たっぷりに村の北門を出て歩き、未知なる出会いを想像しながらあの山脈の向こへむけて出発したのだった。
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