第63話 アルフレイン団長の置き土産
【黒鉄帝国第六兵士団団長】【サオリ・アルフレイン】の懐中時計。それは【アルフレイン】団長が【新二】を直接スカウトした証拠であり、立場上【剣】より【団長】の方が立場が上になる為、この場において【剣】である【ウィーク】を唯一上回るお方の物だった。
【【新二】君そんなものいつの間に?!】
驚く【ロモッコ】に【新二】淡々と答える。
「一月以上前に【メール】と【サイモン】が誘拐される事件があっただろう?。その時の俺の戦闘を見てスカウトに来ていたんだ。まぁその時は断ったけどね」
【【【【断った?!】】】】
その場にいた全員が【新二】の言葉を思わず復唱した。
「ああ、だが【ウィーク】さんが俺の嫌うやり方でスカウトとしようと言うのなら俺は【第六兵士団】に行く」
【ウィーク】は思わぬ反撃を受け、額に手を添える。
「まさかあの小娘が此処まで手を伸ばして来ていたとわね・・・恐ろしい執着心よ・・・」
【ウィーク】は必然的に【新二】を諦めなければならない事に歯を噛み締める。
何故なら此処で無理に誘って【新二】が【第六兵士団】に入れば【ウィーク】はまんまとスカウトを失敗しただけでなく横取りまでされた前代未聞の大失態を晒すはめになってしまうからだ。
【第五兵士団】の権力を使い、【新二】の要求を飲まずに【協定書】にサインを書かせる事も無理ではないが、もしこのまま【協定書】に無理してサインを書かせても、【新二】が【第六兵士団】に入れば【ウィーク】はスカウトに失敗した上に横取りされたと言う事実は変わらずに広まるだろう。
よって【ウィーク】は【新二】に【アルフレイン】団長の懐中時計を出された時点で既に【新二】の要求を飲み、手を引くしか選択権が無くなっていたのだ。
【何十年ぶりにだ、こんな屈辱を味合わされたのは・・・】
「【ウィーク】さんが俺を人質にするような事を言わなければ、俺もこの切り札を使う気は無かったんですよ・・・」
「一気に興ざめしたわ、さっさと【マエダ】君の言う項目に変更して【協定】を結び。帰るよ」
「それで本当によろしいのですか?!」
兵士の一人が【ウィーク】に質問する。
「よろしい、よろしくないの話ではない。既に私には【協定】の項目を変えて承認するしか道は無いのだ、そうと分れば長居は無用」
【ウィーク】はそう言うとさっさと【空の間】から出ていき、部下の兵士達も後を追うように出ていった。
「ふぅ・・・何とか無事に終わったかな」
「何が無事ですか?!私達は【マエダ】君がそんな事になっているなんて一切聞いて無かったわよ!!」
「ひはい・・ひはい・・・」
【ロモッコ】は【新二】の頬をつねって引き延ばし、【新二】は【ロモッコ】の両手を軽く叩いて抵抗する。
やがて十分引っ張ったのか【新二】の頬は解放され、真っ赤になった頬を【新二】さ両手で擦っている。
「しかし【新二】が【第六兵士団】に入るんじゃ、この先の森の調査を誰が担当すればいいんですか?」
それは【サクマ】による発現、現在【ファイゼ】村の中で森の魔獣に対しても遅れを取らずに対処出来るのは【新二】しかいなかったのだ。
「その事なら当分俺がまだやるから大丈夫だよ」
「えっ?、それじゃあ【第六兵士団】へはどうするの?」
「行かない」
【【【【はぁあああ?!】】】】
【ロモッコ】達は本日2度目となる驚きの声をあげる。
「現状俺が抜けたらこの村終わりじゃないか。それに今入れば今度こそ【ウィーク】さんが俺を恨んで襲って来るかもしれないからね。「この卑怯者!!」って。
さぁ、たまった書類や必要な【薬草】、【魔草】をまとめて明日から頑張ろうぜ!!」
この帝国のなかでも上位に入る人物と対峙したのにもかかわらず。【新二】はいつも通りの様子で【ロモッコ】達は呆れていいのかバカなのか、それとも用意周到なのか訳がわからずに深いため息をついた。
【変異種】との戦いから18日がたった。森は少しずつだが【獣】も【魔獣】も虫達も帰って来ており。日々元の姿に戻ろうとしている。
【ワイド】【シリウス】【レモネーゼ】とは【ウィーク】との一件もあり【新二】を避けるような感じだったが、【ワイド】と【シリウス】は同じ死線をくぐった仲間であり、和解するのにそんなに時間はかからなかった。【レモネーゼ】は上の揉め事より【ワイド】の気持ちを優先していたようで【新二】が【ワイド】と和解すると自然に声を掛けて来るようになり、意外にも組織の意向より個人の考えを優先する人だと【新二】は感じた。
「なぁ、本当に【第五兵士団】に来ないのか【マエダ】?」
「何度も言ってるだろう【ワイド】、俺はこの村を気に入ってるんだ、よっぽど居ずらくならない限りこの村を離れる気にはならないよ」
【ワイド】と和解した後、【新二】と【ワイド】は互いにさん付けするのを辞めた。理由はお互いに実力を認めた者同士で友達になったからだ。
なら【ロモッコ】達は友達では無いのか?と問われればそれは違う。彼女達は友達と言うより、共に村を支えていく仕事仲間だからだ。
【ワイド】と【新二】はそんな他愛もない会話を続けながら村の北西にあるあの【変異種】と戦った焼け野原に来る。
「今日で【ワイド】ともお別れかぁ・・・」
「そうだね・・・一ヶ月ってこんなにも早く立つ物なんだと改めて思うよ」
「じゃあ時間が無いし、早速始めようか」
「うん!!」
【新二】と【ワイド】、両者が対峙し、無数の風が吹き抜ける。
【演習】最終日に二人がやろうとしているのは互いに全力の模擬試合。審判は「青春だねぇー」と二人を優しく見守っている【シリウス】と「男子はバカだねぇー」と見下している【レモネーゼ】だ。
「ではただ今より【マエダ】君と【ワイド】君の模擬試合を始める。ルールはどちらかが敗北を認めるか、戦闘不能になるか、審判である私が止めに入ったら終了とする。では始め!!」
勢いよく【シリウス】の腕が振り下ろされ、それを合図に両者の戦いが始まった。
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