第62話 上手い話には気付けよ
【ウィーク】が【ファイゼ】村に迷惑をかけたお詫び、それは【ファイゼ】村と【第五兵士団】の間で【協力協定】を結ぶ事だった。
【協力協定】と言っても内容はそう難しい事出はなく。
定期的に森を【第五兵士団】の演習場として貸して欲しい。
今【訓練兵】の宿舎として使っている建物を【第五兵士団】専用の宿舎として買い取りたい。
万一【ファイゼ】村に【災害】(魔獣、自然問わず)が起きた場合【第五兵士団】の協力が得られる。
【ファイゼ】村で生産される物資を優先的に【第五兵士団】が買い取れる。
など【ファイゼ】村にとっても利益となる内容だった。
【ロモッコ】と【ケインズ】は何度も書かれた項目に間違いが無いかを確認し、まるで夢心地のようにウキウキしており、他の皆も【第五兵士団】という最上位の存在の庇護下に入る事で村人みんなが幸せになれると信じて疑っていない様子だった。唯一【メール】だけは何か不安そうにしていたが、それを言い出せる雰囲気出はなく、難しそうな顔をしている。
そして【新二】は昔から上手い話は詐欺と言う為、懐疑的に【協定書】を見ていた。
「何かお気にめさない事でもありましたか?」
それは難しい顔をしていた【新二】に対して【ウィーク】が気になっていた事だった。
「いや、この【協定】は【ファイゼ】村の未来にとって有益になる物だと思う。だがこう言う上手い話には何か裏があると思ってしまってね」
「それは【ウィーク】様が君達を騙そうとしていると言う事か!!」
兵士の一人が【新二】に向かって強い口調で言う。
「そう言う訳じゃない。ただ当然この話は美味しいだけじゃなく、なにか危険なリスクもあると思っている」
【新二】の言葉に先程まで受かれていた【ロモッコ】達も静まり返り、【新二】は全員に注目される中必死でこの胸騒ぎの原因を考える。
「(考えろ・・・想像しろ・・・もしこの「協定」を結んだらどうなるかを・・・)」
【新二】は想像する。【協定】を結んだ世界を。
今まで通り【新二】が森の調査をしていると【第五兵士団】の兵士が演習で調査をしており、普段の倍以上の速さで調査が終わり更に危険な魔物の討伐も手伝ってくれる。
しかし演習で魔獣討伐や【魔草】【薬草】の採集があればその範囲にあるものを根こそぎ持って行かれていた。
買い取られた【宿舎】には【第五兵士団】の兵士が代わり代わり泊まるようになり、周囲の商店も繁盛し始めた。
森から【スタンビート】や【変異種】が現れても【第五兵士団体】の協力により今回よりも安全かつ迅速に終結する。
【ファイゼ】村で取れる【石灰岩】【鉄鋼石】【魔草】【薬草】を全て【第五兵士団】が買い取り始め、【ファイゼ】村自体は利益が多いが今までの取引あった【ベイル】町や小さな村への供給分が確保出来なくなり。なんとかして欲しいと頼まれる。
しかし【第五兵士団】へ優先的にという項目がある為どうしようもできず、【ウィーク】に近隣の村に回す分を残して欲しいと頼みに行くが「【協定】を破る気ですか?」と逆に脅され、【第五兵士団】に対する依存度も日に日に上がっていき、やがて【駐在所】にいる皆は【第五兵士団】の兵士に置き代わり、【ファイゼ】村の貿易を担当していた【フィフス】商会は移転を余儀なくされていた。
【【マエダ】君、考えても特に何も出てこないと言う事は。この協定に反対するのは【マエダ】君自身の我儘と言う事で、他の皆を納得させる理由にはなり得ないわ】
【ロモッコ】が各面々に確認をし、【ウィーク】に同意を伝えようとした時だった。
【異論あり】
【新二】のその言葉は【空の間】の雰囲気を一気に変えた。
「【新二】君それはどういう異論があるのかを聞かせて貰えるかしら」
【ロモッコ】の声は【新二】も初めて聞くような程冷たく。【ケインズ】が何か言いたそうにしているのを机の下で【ロモッコ】が押さえて止めているのを【新二】は感じた。
「まず、演習場として貸す場合は毎回範囲を事前に決めてもらい、森の【獣】や【魔獣】。【薬草】、【魔草】の狩猟や採集を取り尽くされ無いように制限する項目が必要です」
【新二】の言葉に【ロモッコ】と【ケインズ】はハッと気付かされ、【第五兵士団】の大きな力の前に目が眩んでいたと思い知らされ。
それを聞いた【ウィーク】の目元が僅かに笑った気がした。
「次に【第五兵士団】に【ファイゼ】村の産物について優先的に買い取れる権利ですが、これは【第五兵士団】に依存しすぎる形となり、例えば今までお世話になった地域に産物を流したい時でも【第五兵士団】がよりこちらに供給を多くしなければ【協定】違反と言ったり」
「何だと!!」
「静粛に、【マエダ】君続けなさい」
「他にも産物の値段を下げなければ買い取りをしないといった風に脅しの道具となりえます。なので優先的にと言う項目を外して下さい!!」
【新二】が【ウィーク】に頭を下げると、誰もが【ウィーク】の言葉に注目し、その言葉を待っている。
「フフフ・・・目先の宝を取らず。未来の伸び代を取るか・・・」
【ウィーク】は【ワイド】以来久しぶりに目の前の【マエダ】という少年を部下に欲しいと思った。
「気に入った!!、【マエダ】君。そなたが私の部下となるなら全てその項目をそう直してもかまわんよ?」
それは【第五兵士団】【剣】【レイナ・ウィーク】直々によるスカウト。
もちろん【ウィーク】はただ【協定】の目的に気付き、【ウィーク】自身に異論する度胸と思考だけでスカウトするほど優しくは無い、【新二】のが無意識的に放出する魔力の質と先程【ワイド】の【格付け】から仲間を守った判断の速さと制御力。さらに此処に来る前に【ワイド】から耳にした【新二】の実力の高さ。
【ウィーク】は【新二】が【第五兵士団】に入れば他の4つの兵団より一方リード出来るという確信があった。
【参ったな・・・そんな風に言われたら断れ無いじゃないか】
【ウィーク】は【新二】の言葉にスカウトの成功を確信する。
【しかし、だからこそ俺は弱みを握るこのやり方には従えない】
【そなたその紋章は?!】
【新二】が机に出した物、それは決して辺境の三等兵士が持っているはずの無い物だった。
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