第25話 灰鉄

「ハァアアア!!これでラストだぁああ!!」


【お疲れ様、少しは慣れましたか?】


【鉄喰らい】を極限まで活性化させた身体で次々運び、途中身体強化の訓練も兼ねて【鉄喰らい】の身体をほとんど分割せずに運び、最後は割れた【鉄喰らい】を1体纏めて村に運び入れたのだった。


「慣れたも何もフラフラだよ・・・」


【新二】は流れる汗を首に掛けたタオルで拭い。「疲れた」「やりたくない」と小言を言いながらも森の調査の為に門に向けて歩いた。


「全くわからん」


森についた【新二】は【鉄喰らい】のような魔物の痕跡がないか森の調査をしていた。


【まだ【新二】君には早かったようですね】


【千時】が【新二】に教えようとしているのは【魔力感知】だ。相手が【鉄喰らい】のように地中にようが、【ジュモクダマシ】のように森の木に擬態していようが、【ザンチョウ】のように空にいようが魔力を発する物なら何でも感知出来き、戦闘、捜索、に置いても万能という便利な技術だ。


「俺はイマイチ相手の魔力ってのが分からん。自分と【千時】の魔力なら身体を通る感覚で分かるんだけどなぁ」


【私も一発で出来るようになると期待はしていません。今はまだ比較的村に近い範囲を探索していますが、そのうち遠くの方まで行けば【擬態】や【鉄喰らい】のような視界外から攻撃してくる敵も増えてくるでしょう。それらに備えて今から訓練しておくのは悪い事ではありません】


「分かってはいるけど、分からねぇもんは分からねぇんだよな」


【新二】は時々襲いかかってくる。赤、紫色の巨大ムカデや潜伏しているオレンジ色の陸蟹など反射的に【千時】で切り伏せながら調査を続けていく。


「残すはここだな」


【新二】は【鉄喰らい】が住み着いていた、切り立った岩肌が聳え立つ川岸にたどり着くと他の個体がいないか慎重に確認し、ゆっくり砂利の川岸に足を踏み出した。


ジャリ!!


「・・・・・出てこないか」


【鉄喰らい】が出てこなかったことに少し安堵し、改めて周囲を確認するが川岸には砂利を吹き出す山もなく、流れる水の音だけが聞こえる静かな空間だった。

 【新二】は川岸に砂利の音を響かせながら歩く。


「この前倒したのが此処に巣喰っていた全部の個体か?」


【新二】は警戒しながらも切り立つ岩肌に向かって歩き、灰色の岩肌に所々赤茶色の水跡が残る崖に手を触れる。


「学校の錆びた鉄棒の臭いがする。恐らくこの崖全部に鉄分が多く含まれているのか?」


高さ30メートルは優にある崖、所々にヒビが入っており、小さな小石が風によってカラカラと崖を下ってくる。


「これは!!」


【新二】の視線の先には二本の大きな傷跡が幾つも崖につけられており、周囲に大きな岩がいくつも転がっていた。


「【鉄喰らい】はこの崖を爪で削り石を喰っていたんだな」


【新二】はその後も周囲を探索し、【鉄喰らい】の生き残りがいないか確認すると拳より二回り大きな灰色の石を拾って【ファイゼ】村へ帰還した。


「おお!!こいつはなかなかの良質な【鉄鋼石】じゃねぇか!!」


【駐在所】に戻り、今日の仕事を終えた【サイモン】に【新二】は例の石を見せると予想通りの【鉄鋼石】と言う答えが出てきた。


「まぁ、折角だ【鉄鋼石】の良し悪しの見方でも説明してやんよ」


【サイモン】は【新二】に向かって笑い、目の前で【鉄鋼石】をボールのようにくるくると回したり、お手玉のように投げて手遊びをする。


「鉄には大きく分けて3つの階級がある。下から【白鉄しろがね】<【灰鉄はいがね】<【黒鉄くろがね】となり。ワイたらが基本鉄と言うのは【灰鉄】の事だ【灰鉄】は帝国のほぼ全域で取れるが【黒鉄】はごく一部でしか取れねぇ。帝都【ハイドラ】はその一つでこの【黒鉄帝国】の名前の由来にもなったとされている。【ロモッコ】譲、【鉄鋼石】は武器の基本材料になるが貴族どもの財源にもなりうる。良からぬ揉め事が起きる前に伏せといた方がエエぞ?」


「それは私に虚偽の報告をしろってことですか【サイモン】さん!!」


【ロモッコ】は机を強く叩き立ち上がる。


「ああそうだ、【鉄鋼石】取れるとなりゃ帝国貴族や商会が黙っちゃいねぇ。場合によっては帝都への報告を潰し、この村を占領して【鉄鋼石】を独占しようと企むアホもでるだろうよい!!」


「それは帝国兵士に私欲に溺れる者がいると言うことですか!!」


【ロモッコ】は【サイモン】に激しい剣幕で捲し立てるが【サイモン】は飄々とし、少し複雑そうな瞳みで天井を見上げた。


「これはワイの師匠の話や、まぁ師匠と言ってもあのクソ親父ではないがねぇ・・・」


昔師匠は【灰鉄】を【黒鉄】と遜色ないレベルまで鍛え上げる技術を独自に作り出した。 

 それは何でも強度だけでなく、見た目、色、質感までも【黒鉄】に似せる画期的な技術だった。師匠はこの技術が帝国全土に普及すれば今より更に良質な武器が数多く制作でき、隣国との永き戦いも終止符が打てると考え、地域で有力な【貴族】と【兵士長】に技術を教えた。

 だが、【貴族】と【兵士長】はその技術を自身で独占し多くの利益を得ようと師匠を監禁し無理矢理武器を作らせた。

  ワイが最後に師匠を見た時は【灰鉄】を【黒鉄】に変えるという虚偽の報告をし、詐欺を働いた罪人として処刑さる姿だったよ。


「悪い事は言わねぇ、今の【ファイゼ】村を守ってくれる後ろ楯はねぇんだ。最悪の場合村人全員をこの村に監禁し、炭鉱夫として強制労働力させる事もあり得る。力をつけるまで待ってくれ・・・頼む・・・」


頭を下げる【サイモン】に【ロモッコ】は何も言い返せず。ため息をつきながら席に座る。


「はぁ・・・しばらくは調査中って事にするわ・・・。だけどいつまでも隠しておけないわこんな物・・・」


「ワイも分かっていりゃあ、ちゃんと考えはある」


「それでその考え方とは何だ?」


【ケインズ】が【サイモン】に質問すると【サイモン】は【新二】の顔を見て笑う。


「【マエダ】の旦那が【ロモッコ】譲を【兵士長】にすればいい」


「旦那?」


「「はぁああああ?!」」


夜の村に【新二】は突然の旦那呼びにキョトンとし【ロモッコ】と【ケインズ】の声が村に響き渡った。

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