第3話 訓練兵は辛いよ

訓練が始まり2日目、早朝グラウンドに【新二】達は集められ。既に2割が夜逃げしたらしいと言う噂が聞こえて来た。しかし突然声が止まり、張り詰めた緊張感が場を支配すると【ブラウン】教官が現れた。


「皆揃っているな、何名かは既に脱落したが訓練の手を緩める気は無いし影響はない。逃げれば所詮それまでの器よ」


【ブラウン】教官は後ろ手を組ながら整列する訓練兵の前を歩き、立ち止まる。


【では今日の訓練を始める。付いてこい】


【ブラウン】教官につれられてたどり着いた場所は、横幅30メートルほどの川で対岸は高さ20メートルほどの崖となっている場所だった。


「今日の訓練は川を泳ぎ崖を登り切る事。出来なければ拳骨。以上、始め!!」


かなりの無茶ぶり。だが【新二】はあの物凄く痛い拳骨を思い出し、渋々川へ向かっていった。


【そこまで!!】


空が赤く染まる頃、【訓練兵】達は全員川岸にうち上がり息を切らしていた。


「今日も崖を登りきった者は無し、全員拳骨だ!!」


逃げる力の無い【訓練兵】にも容赦無く拳骨を食らわせ、気絶させる【ブラウン】教官は正しく鬼であり。【新二】が抵抗する間も無く意識を刈り取られた。


訓練3日目


あちこちが傷と筋肉痛で痛い中、また早朝にグラウンドに集合させられている。今日集まった【訓練兵】は明らかに昨日より人数が減っており、また夜逃げした人がいるのだった。


【今日は戦闘訓練を行うワシの身体に拳を当てられたら合格だ。以上、始め!!】


【【【【ウォオオオオ!!】】】】


一昨日、昨日、と無慈悲に拳骨を食らわされた恨みを晴らすように【訓練兵】達は【ブラウン】教官に襲いかかるが、【ブラウン】教官は赤子の手を捻るが如く次ぎカウンターで拳骨を食らわせ。僅か数秒で【ブラウン】教官の回りは【訓練兵】の絨毯が出来る。


「ワシに向かって来ないのならこちらから行くぞ」


集団で向かって行っても一撃も入れられずに拳骨を食らい。全員で逃げても初日のように、たちまち拳骨を食らわせられる。どうあがいても拳骨を食らう理不尽。【新二】は諦めて大降りの拳を【ブラウン】教官に振るい、呆気なく拳骨の餌食となった。


「今日もワシの身体に拳を当てられたら者は無し、全員拳骨だ!!」


既にボロボロな【訓練兵】に本日何回目かもわからない拳骨が振るわれ、【新二】の意識は暗転した。


訓練4日目


早朝グラウンド、もう誰も喋っていない。人数も数百人いた【訓練兵】のうち、半分が夜逃げしている、そして今日も鬼がやってくる。


「今日は瞑想訓練だ。今から裏山で各自木葉を取ってこい。そしてグラウンドに座禅を組頭の上に木葉を乗せろ。木葉を落とした者は拳骨、以上だ!!」


「「「「はい!!」」」」


グラウンドに座禅を組瞑想する新二、夏のような日差しが身体を焼き、吹き出す汗が頬を伝い地面に染みを作る。

 カラカラに乾ききる喉。すでに何名かは熱中症のような症状で倒れ、【ブラウン】教官から拳骨を食らい。頭からバケツの水をひっくり返され、無理やり瞑想させられている。


「(ヤバイ・・・このままだと死ぬ・・・)」


【新二】も他の訓練兵と同様に倒れ、【ブラウン】教官から拳骨をくらい、バケツの水を掛けられた。


「今日も最後まで瞑想出来た者は無し、全員拳骨だ!!」


【新二】は【ブラウン】教官の言葉を聞き、目を閉じ、何時もの衝撃とともに視界が暗転した。


訓練5日目


早朝グラウンド、とうとう【訓練兵】の人数が三分の一を切る。全員の表情は暗く、まるで処刑されるのを待つ囚人のようだ。


「今日の訓練は岩転がしだ。川岸に転がる大岩に赤いマークを付けておいた、一人一つ転がして川を渡り、対岸に移動させたら合格だ以上、始め!!」


川岸に移動した訓練兵達は少しでも軽い岩を取ろうとさがすが全部明らかに一人では動かせない大岩であり項垂れながら適当に空いている岩を選び押し始めた。


「そこまで!!誰も1センチすら動かせないとは情けない。全員拳骨だ!!」


【新二】は糸の切れた人形のように座り込み。【ブラウン】教官はそんな【新二】に容赦無く拳骨を食らわせ、【新二】の視界は暗転した。


訓練6日目


早朝グラウンド、何時もの事のように人数は昨日より減っている。これは今日知った事なのだが居なくなるのは夜逃げだけでは無いらしい。 

 【訓練兵】の中には夜逃げする体力も無い者もいるので、そう言った人は【脱落申請】を事務所の担当者に渡せば脱落出来るらしい。だが当然ペナルティがあり二度と帝国の兵士になる事は出来ないらしいが・・・。


「今日の訓練は土竜もぐらだ、グラウンドの隅に空き地がある。そこを素手で掘り一人深さ10メートル以上の穴を掘れ以上、始め!!」


「「「「はい・・・」」」」


道具も無しで【新二】は穴を掘る。地面は海岸の砂浜のように柔らかいはずもなく、住宅跡地の瓦礫やコンクリートの欠片が押し固められた地面のように、石の破片や木の根があり、爪から血を流しながらも【新二】は地面掘る。途中何度も心が折れかけるが掘るのを辞めれば【ブラウン】教官の拳骨が飛んでくるので辞められない。

 日中全て使って【新二】が得たのは、見るのも無惨な両手と10センチも満たない小さな穴だった。


「今日も掘れた者は無し、全員拳骨だ!!」


【アアウウッ・・・】


【新二】は今の理不尽な環境に思わず涙が溢れる、突然鏡の中に引き込まれたと思いきやそこは戦場で殺されかけ、孤児院に行こうとしたら何故か帝国の兵士に志願していることになってる。

 中二の男の涙で【ブラウン】教官の拳骨が止まる訳はない。理不尽とこの世界での孤独に涙が止まらない。そして皮肉にも涙を止めたのは【ブラウン】教官の拳骨による強制的な視界の暗転だった。

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