第51話 価値観の違い
「なんとか間に合ったわね」
「そうだな」
「まさかこの年になって本部の兵士様一向をお出迎える事になろうとは、人生長生きするものだねぇ」
【ロモッコ】と【ケインズ】、【ロゼッテ】は【第五兵士団】所属の【訓練兵】を出迎える為に村の南門に立っていた。
【訓練兵】の宿舎は新たに建設していた傭兵の宿舎を急遽改装して間に合わせ、料理人も【ベイル】町の大衆食堂から出張依頼と言う形で出向いてもらった。
当然自身の宿舎を取られた傭兵達や食堂の常連客さん。一部の移民者から不満のクレームが寄せられたが、【ロモッコ】が【第五兵士団】の名前を出すと。うっかりヤクザに喧嘩を吹っ掛けたチンピラのようにペコペコしながら異論は無いですと引き下がって行った。
「今回の事で色んな人達に我慢をしてもらったけど。今回の【演習】がきっと村にとって大きな利益になると私は信じてるわ」
「ああ、俺もだ」
やがて砂塵を上げながら砂利道を疾走する6頭立ての馬車が村に近づいてくる。その馬車が掲げる旗は帝国の黒剣に蔦科の植物が絡んだ紋章。それに五と言う文字が刻まれた【黒鉄帝国第五兵士団】の旗である。
馬が嘶き、馬車の扉が開くと【第五兵士団】七等兵士【データ・シリウス】が先に降り、後に続いて袖に緑の刺繍が施された黒に赤の兵士服を着る【訓練兵】が降りてくる。
「【ファイゼ】村へようこそ【第五兵士団】所属の【訓練兵】様。ワシは【ファイゼ】村の村長をしておる【ロゼッタ】じゃ」
「私は【ファイゼ】村の管理を任されております【ロモッコ】四等兵士です、お見知りおきを」
自身らと年がそう変わらない【ロモッコ】の【四等兵士】と言う言葉を聞き、【訓練兵】達が小馬鹿にするような笑いを上げる。【ケインズ】は眉を潜め、若干苛立つが、ここで問題を起こせば徹夜で頑張ってきた【ロモッコ】の全てを台無しにしてしまうと思い。怒りを飲み込んで名乗る。
「俺はーー」
「ド田舎の下級兵士の名前などどうでもいい!!さっさと中へ案内しろよ下級兵士」
【ケインズ】の前に現れたのは見るからにヤンチャそうな茶髪の少年。【ケインズ】は怒りを拳を強く握りしめることでどうにかこらえ、張り付けた笑顔で【訓練兵】を案内しようとする。
「【ラグーン・ジルコニア】!!お前はいつまたい何回言えば分かるんだ!!相手を誰でも敬えとは言わないが、最低限の礼儀を払わなければいつか痛い目を見るぞ!!」
「はいはい【シリウス】教官」
【ジルコニア】は後方の【訓練兵】の元へ行き何かを大げさに演じて【訓練兵】達を笑わせている。
「すまない【ケインズ】殿、アイツは帝都の貴族の家柄でね、自分より格下の相手には何をしても力でねじ伏せれると言う傲りがあるのだ。私も何度も注意しているのだが、生憎家柄と実力は本物でね。手を焼かせてしまうかもしれない」
【シリウス】の言葉を聞いた【ケインズ】は演習初日にしてこんなグズ達と一月も過ごさなければならないのかと胃がキリキリと痛む思いをした。
【ロゼッタ】【ロモッコ】【ケインズ】についで【シリウス】七等兵士が続き、【ジルコニア】が何かを話して【訓練兵】達を笑わせながら歩き、最後に緑色の髪の少年と栗色の髪の少女が続く。
宿舎に向かって一向が歩く道中、仕事を中断させられて若干不機嫌な【サイモン】にしっかり歓迎しなさいと脇腹に肘打ちをする【メール】。不自然な引き釣った笑顔で並ぶ傭兵と張り付けた笑顔の【カール】他にも形だけでも歓迎をアピールするために集まった村人達に見送られながら宿舎に一向はたどり着く。
「随分ボロっちい建物だなぁ!!」
【【【【あ゛あ゛あ゛??】】】】
【ケインズ】を含め、見送っていた傭兵達が【ジルコニア】の発言に思わず声が出る。
「【ジルコニア】!!それは用意してくれた方々に余りにも失礼な言葉だぞ!!発言を撤回しなさい!!」
【シリウス】は【ジルコニア】に発言を撤回するように求めるが【ジルコニア】は態度を改めず、イタズラ子のようにそっぽを向く。
【お前と言う奴は!!】
【シリウス】が怒りで拳を震わせるとその拳を【ロモッコ】が優しく握る。
「【シリウス】様、私達の村に置いては一番でも、帝都の貴族様にとってはボロ屋に感じる事はおかしい事ではありません」
「だろ!!」
ここぞとばかりに声を出した【ジルコニア】に【ケインズ】は思わず殴りかかろうとするが背後にいた村人の男性に取り押さえられる。
「では中へお入り下さい」
張り付け笑顔で【ロモッコ】は宿舎の中へ案内する。
宿舎は元々傭兵達やこれから増えるであろう移民者の仮宿の為作られていた事もあり、4人部屋が一階と二階で合計20部屋もある大きな建物だ。
食堂は建物の裏に分けて建設されており、傭兵あるあるの酒飲みドンチャン騒ぎが宿舎に直接聞こえて来ないよう心使いがされている。
「せっまい部屋だなぁ」
今回の【訓練兵】は全員で10名、本来2段ベッド2つの4人部屋を一人部屋として利用するのだが、貴族の【ジルコニア】にとってはそれでも狭く感じたのだ。
「申し訳ございません、ですが今の村にとってはこれが出来る精一杯の事ですのでどうかご理解下さい」
【ロモッコ】が頭を深く下げると【ジルコニア】は優越感に浸る。
「仕方ねぇからこれで我慢してやるよ!!」
【ジルコニア】は【ロモッコ】を閉め出すようにの目の前でドアをバタン!!と閉めた。
「うん!!美味しい!!」
「確かにこれはうまい。流石【ベイル】町で大衆食堂を営業するだけの事はある」
【シリウス】が食堂で【訓練兵】に明日からの演習について話しをしている中、【ロモッコ】と【ケインズ】は【ベイル】町から今回呼んだ【タブラス】食堂の【タブラス】【イオン】夫婦の料理を試食し、舌鼓を打っていた。
「そう言ってもらえるとワッチらも来たかいがあったってもんやな」
「そうですね、料理人にとって一番の報酬は【旨い】と言わせる事ですから」
「くれぐれも村の人達余り迷惑をかけるんじゃないぞ!!特に【ジルコニア】お前な!!」
「はいはい」
【シリウス】は深いため息を付き、頭痛がするのか額にてを当てる。そして一応一通りの打ち合わせが終わったので【タブラス】夫妻に料理の準備が出来たのかを確認すると完璧とサムズアップした【タブラス】の前を両手の御盆に多くの皿を乗せた【イオン】婦人が通り、手際よく【御者】と【シリウス】含めた12名分の料理を並べていく。
「今日は熟成させた【グルフバイソン】の肉と今朝【ファイゼ】村で取れた新鮮な野菜をつかったビーフシチューよ」
「ではありがたく頂きます」
【シリウス】は料理の前で何かを小さく呟き、お祈りのような物をしてからビーフシチューを口にする。
その後も黙々と食べる【シリウス】にならって【訓練兵】も互いを見合せながら口にする。
【不味い!!】
パリーン!!
その一言のあと、【タブラス】が洗っていた試食の皿をすべらかして落とし、流し台で真っ二つに割った。
「【ジルコニア】お前って奴は!!」
【シリウス】が顔を真っ赤にして怒るが、【ジルコニア】は飄々としている。
「だって事実じゃないか!!、餌から拘って育ててない肉、新鮮さしか取り柄のない野菜。今まで俺が食べてきた物に比べれば不味いのは当たり前じゃないか。それに料理人なら不味いと言われたほうがより努力するものだろう」
「ねぇ、あなた大丈夫・・・」
心配する【イオン】の言葉を無視して【タブラス】は目頭を押さえながら厨房を去ろうとする。
「おい!!聞こえたか糞コック!!お前の料理は不味いんだよ!!一から出直してー」
「うるさいよ【ジルコニア】」
それは緑色の髪の少年の一言だった。
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