第50話 村の発展は人の頑張りで成り立つ

【ファイゼ】村【駐在所】【寝ずの間】。ここは【駐在所】一階の右端にあり、【空の間】に次いで二番目に広い部屋である。

 元は【風の間】と言う名前がついていたが、【ファイゼ】村のあらゆる事情を纏める村役場的な部屋であり、連日夜遅くまで明かりが灯っている事から付けられた不名誉な名前の部屋でもある。

 

「【ロモッコ】さん、【メリーブ】のお茶をお持ちしました」


「ありがとう【リンド】さん。そこに置いといて」


【ロモッコ】は畳4面分はある巨大机に、数々の書類を広げながら羽ぺンを使って何かを書いたり、斜線を引いて消したりしながら、不要な書類をグシャグシャにして溢れ変えるゴミ箱に投げ込む。

 そして机の端にそっと置かれた木製のコップを手に取り、【メリーブ】のお茶を一気に飲み干し。一息付く。


「ふぅーー・・・。やっぱり【リンド】さんの作る【メリーブ】のお茶は落ち着くわ」


「ありがとうございます、もう一杯いかがですか?」


「ええ、いただくわ」


【リンド】は空になったコップに【メリーブ】のお茶を瓶から注ぎ、【ロモッコ】は机に頬杖

を付きながらコップに注がれていくお茶の泡を眺める。


「村の管理を任されているとはいえ、余りご無理はなさらないでください・・・今倒れられたら・・・」


「分っているわ・・・そんな事くらい・・・」


【ロモッコ】は注がれたコップを手に取り、一口飲むと無意識にコップを揺らし、中のお茶をくるくる回す。


「だけど【リンド】さんも分かってるでしょ?。また村の皆に危険が及ばないよう連日森に入って調査をする【マエダ】君、村に迷惑かけた分だけ利益を上げて豊かにしようとする、【カール】【メール】兄妹。ボロボロだった農具や刃物を新たに打ち直し、作業環境を改善しようと毎日鉄に向き合う【サイモン】君。より食と薬の安定を目指し、研究する【サクマ】君と【貴女あなた】。他にも【石灰岩】【鉄鋼石】の採掘、運搬をする元傭兵や村の様々な維持、管理、成長の仕事をこなす村人達。他にも探せば幾らでも出てくるわ・・・。

 だからね、今頑張らないといけないの。今頑張らないとこの二カ月で築き上げて来た物が壊れてしまうの・・・。だから私はまた滅び行くだけの村に戻さない為にも頑張らなくちゃいけないのよ・・・」


【ロモッコ】を襲うのは衰退という恐怖。一度傭兵によって【ファイゼ】村は滅びかけ、【ナリカネ】商会と【ベイル】町、【バウンズ】兵士長による支援がなければ今ごろ【ファイゼ】村は廃墟となっていただろう。

 だからこそ、【ロモッコ】は戦力増強の為に、憎いはずの傭兵集団を労働力として受け入れていざと言う時の備えとし。【ナリカネ】商会の従業員も憎しみの感情を押さえて雇用もしたのである。


「さて!!、もうひと頑張りしますか!!」


【ロモッコ】は両手を組み合わせ、裏返し、頭上の上に手を伸ばして肩のストレッチをすると、あと6日後、いや、もうじき深夜0時を回るので5日後に来る【第五兵士団】直属の【訓練兵】が泊まる、宿泊施設の状況、食事の段取り、不要なトラブルを防ぐ為の事前周知作業の進行状況と不足している物資などが纏められた報告書に目を通し始めた。


「また無理して徹夜してたんですか【ロモッコ】さん」


「【マエダ】君?いつもどってたの?」


気がつけば【ロモッコ】は机に伏して眠っており、【新二】が報告書を机に置いた。


「今朝ですよ、例の【シーアント】の群れ対策に攻撃を仕掛け、何とか逃げ切った後も。万一の事を考えて朝まで場所を転々としていたんです」


「そう・・・お疲れさまです」


【ロモッコ】は【新二】の報告書をピラピラめくり内用を確認すると小さなため息をついて報告書に確認済みの印を押した。


「【新二】君の斬擊すら効かない相手とは厄介ね、しかも移動速度でも相手の方が若干早く。火は効果があるけど焚き火程度なら【シーアント】をおびき寄せるだけの餌になりかねないとはね・・・」


【ロモッコ】はこれまでの疲労と森に新たに発見された強敵に頭が痛くなり額を押さえる。


「幸い奴らは北西の森でも奥の方に足を踏み入れなければ遭遇しません。村人達が襲われる事はまずないでしょう。しかし・・・」


「【訓練兵】は遭遇する恐れがあるのね」


「はい・・・」


「何とか演習は北の【石灰岩】採掘場と東の【鉄鋼石】採掘場近辺当たりにして欲しい所ね」


【ロモッコ】と【新二】が話していると。【ケインズ】が優に200枚は越えるだろう書類の束を持って部屋に入室する。


「【ロモッコ】悪いがこの書類にも目を通しといてくれ」


「分かったわ、そこに置いといて」


ドサッと置かれた書類束を見て【新二】は【ケインズ】に問いかける。


「【ケインズ】さん、もう少し【ロモッコ】さんにかかる負担をへらせないかな?」


「悪いが【マエダ】、これでも半分程まで俺の権限で裁き。【ロモッコ】に確認が必要なものだけに選別してるんだよ」


「ごめん・・・」


若干苛立っている【ケインズ】の言葉に【新二】は少し落ち込み、【ロモッコ】は早速置かれた書類に目を通し始める。


「【マエダ】君、気遣いは嬉しいけど今が頑張り処なの。今の【ファイゼ】村は新しい移民やお店、自警団の設立などで日々発展していっているの。この忙しさは近い未来に大きな富と安全となって帰ってくるわ。それまでの辛抱よ・・・」


人は忙しいと時間が立つのを早く感じると言う。【シリウス】七等兵士が言った一週間はま瞬く間に減って行き、【訓練兵】を迎える当日になったのだ。

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