第70話 青い破壊者

あれから更に一週間が立った。【オズ】との稽古もだいぶ慣れ、今ではたまに重い一撃を【オズ】に食らわし、ダウンを奪える程になった。

 勿論その倍以上の数を【オズ】によって【新二】はダウンさせられているのだが。


「【正炎】・・・」


【正炎】の炎は赤から蒼色に変わり、【オズ】の炎にも焼かれずに対抗出来る炎へと変化した。


【グオオオ!!】


ドラゴン化した【オズ】の本気のブレス。それは訓練場の大半を余波で焼き尽くす程の火力があり、一段階進化した【正炎】の蒼い炎ですらまともに受ければ焼かれ兼ねない熱さだった。


「流石【オズ】の炎だ、この熱さが【火山を喰らった】と言われる所以か!!」


【新二】は左手の【正炎】にどんどん魔力を流し込み、更に蒼く燃え上がらせる。

 それに比例して【新二】を囲むように回り続ける蒼い炎もより激しく燃え上がり、【オズ】のブレスを何とか耐えしのいだ。


【とうとう我の本気のブレスですら焼けなくなったか・・・】


人化した【オズ】が溶岩のように赤く焼ける地面を歩きながら蒼い炎の渦に近付いてくる。


「焼かれないようにするのが稽古だったんだからそれは俺にとっては嬉しい事だが?」


「一応我はブレスの炎の強さ所以の【二つ名】であってな、それを防がれては我はただのドラゴンになってしまう」


「俺にとってはそんなただのドラゴンでも黒い風を纏わなければ【千時】を折られる腕力に驚きだよ、【正炎】に至っては蒼い炎を纏っても折られる」


「だが【マエダ】殿の蒼い炎は我でも火傷するくらいには熱いから迂闊には殴れぬ」


「はははっ、そうでないと俺が困るよ」


【新二】は乾いた声で笑い。【オズ】はハッと我に帰る。


「しかし今日は少しやり過ぎてしまったな、訓練場の半分は先程の戦いで溶岩に変わってしまった。冷えて固まるまでは使えぬ」


「そうだな」


【新二】と【オズ】は【新二】が蒼い炎で防御していた以外の範囲が見事に赤く焼け。所々では液状化している光景に半分やっちまったと言うため息をついたのだった。


「グワッ!!」


「お疲れ様~」


【新二】は城の門番に軽く手を上げて素通りする。


「【新二】殿も随分我らに馴染みましたな」


「馴染んだと言うよりは国の【新兵】達の驕りを叩き直す為に、俺が【新兵】達をボコボコにしたあの一件以来。俺を認めてくれたからじゃないかな?」


「ハッハッハ!!そりゃそうだ。ドラゴンは良くも悪くも力こそ全ての世界。弱小と見下していた人間にボコボコされれば嫌でも認めざるおえないからな」


今日は国に【オズ】も認める【破壊の申し子】と呼ばれるドラゴンが戻って来たらしく。今竜王に報告をしているらしい、その報告が終わり次第そのドラゴンと面会する予定だ。


ざわざわ・・・


【新二】はそのドラゴンを見て直ぐに感じた、始めて出会ったのが戦場でなくて良かったと。


竜王に報告を終え、竜王の紹介で【オズ】と【新二】が謁見の間に入ると。そこにはドラゴン化した【オズ】よりもう一回り大きな青いドラゴンが【新二】を見下ろしていた。


【グオゥ!!】


青いドラゴンは僅かに唸ると【新二】の身体を粉々にするような威圧が掛けられる。


【グワッ!?(ラオス殿行きなり何を?!)】


「(これはドラゴンの【格付け】か?!)」


【オズ】は青いドラゴンに驚きの声を出し、【新二】は咄嗟に自身の【格付け】でドラゴンの威圧に対抗する。

 謁見の間には青いドラゴンと【新二】の魔力が衝突し、空気がバチバチと破裂する。

だがそんな威圧の仕合も思わぬ形で終わる事となった。


【きゆうううう!!】


【新二】の後ろでテチテチと歩きながらついて来ていた【シュー】ちゃんが青いドラゴンと【新二】の魔力が衝突し合う空間を何事も無かった様に走り抜け、ジャンプして青いドラゴンの頬に拳をめり込ませたのだ。


【ギャフン?!】


青いドラゴンは情けない悲鳴を上げて体勢を崩し、こうして青いドラゴンと【新二】の初対面は終わったのだ。


「いやーあの【シュー】ちゃん様が懐いた人間ってどんだけ強いんだろうと試したら、思ってたより強くてワクワクしちゃった。うちは【ラオス】別名【破壊の申し子】とも言われているよ!!」


「俺は【マエダ】【黒鉄帝国】の【三等兵士】だ」


「ほうほう、南の山脈を越えた当たりで西の国と下らない戦争を何百年ってやってるアホ国家出身なんだね!!」


「(事実だけに、なにも言えねぇ!!)」


「まあうちにとっては別に南の山脈を越えて進行してこないし、うちらが出向かなければ襲って来ないから別にどうでもいいけど、うちとしては君に興味があるんだよねぇ」


【ラオス】の視線が鋭くなり、【新二】の警戒心が上がる。


「君【オズ】と一緒に稽古しているんだって?、うちも混ぜてよ。うちは強い男って好きなんだ」


【オズ】は口元をペロリと舌を出して舐める。


【キューキュー!!】


その姿を見た【シュー】ちゃんは【ラオス】の足にパンチを繰り出し、体格差何百倍とある【ラオス】の身体を一瞬とはいえ宙に浮かせた!!


「いったぁーい!!【シュー】ちゃん様酷くない!!え?!、私のーーのーーーを取るなって【シュー】ちゃん様本気ですか!!。ほら見て下さい竜王陛下の魂が抜けかけてますよ!!、あれはつい最近まで赤ちゃんだった孫が気が付いたら彼氏がいて結婚するって言ってきたおじいちゃんの心境くらい抜けてますよぉー!!」


その後も【シュー】ちゃんと【ラオス】のじゃれあいのような攻防は続き、ひとしきり暴れて疲れたのか【シュー】ちゃんは【新二】の背中に飛び乗ると息を立てて眠りだした。


「(まだご両親を失くして一月も立たないのにすっかり元気になって・・・これも君の力なのかな?)」


【ラオス】は【新二】の背中でねむる【シュー】ちゃんに優しい視線を送り、こそっと明日訓練場で稽古しようと伝えると謁見の間から出ていった。



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