第75話 帰る時
「なんと!!そんな事が・・・」
事の顛末を聞いた竜王は頭を抱えた。
大事な家族を殺され、本来ならこの手でその裁きを下したいが。不要なトラブルを防ぐ為に【オズ】達に依頼した。結果同時期に進行してきた【帝国兵士】と戦わずに済み、元凶のドラゴンも死んだ。
結果だけで言えば元凶のドラゴンとその一味は全員死亡し、帝国とのトラブルも起きてないから上々と言った所だが、本来けじめをつけるべきドラゴンがその元凶を人間に奪われるという事が正直かなり問題なのだ。
大きくドラゴンの威信を汚したとして。
【グワウグオウ!!】
【グキャキャギャ!!】
【クルクルゥー!!】
さっきから【新二】の【格付け】にビビってたザコドラゴンがなにかを喚き、正直鬱陶しい。
今回の焦点は「雄々しき【帝国兵士】とドラゴンの戦いに【新二】が参戦し。銀色のドラゴンの首を持ち帰った場合に傷付き、守られたドラゴンの威信」と、「トラブル回避と彼らの勇姿を認め、見逃した為に傷付いたドラゴンの威信」の「どちらがよりドラゴンとして相応しかったか?」という、分かりやすく言うと国中のドラゴン達に言い訳する大義名分を決めているのだ。
まあ、もし【新二】達の見逃しがドラゴンとしての威信を一方的に傷付けたと判断されれば、銀色のドラゴンを殺した【帝国兵士】の首を取って来る話しとなり。【帝国】と戦争となるのでそんな本末転倒な事にはならないのだが、どこの国も集団も同じらしく。一定数は反発しないと気がすまないバカが要るのだ。
「そこまで言うのなら逆に問うが、【マエダ】殿に威圧され、臆した程度の実力しかないそなたらが、若手とは言え数百いたドラゴンを殲滅できる【兵士】の主要人物の首をとって来れるのか!!」
【オズ】の言葉に若いドラゴン達は黙り込む。
竜王も護衛も、一部の実力あるドラゴン達も【オズ】が報告してきた事情を考えればそうなるのは仕方なかったと納得してはいたのだが、若いドラゴンは理屈よりも感情を優先しがちなので、始めから抑え込めば勝手に兵士の首を狩に行きそうだったからこうして納得するまで【オズ】に説明させていたのである。
「文句があるのなら我が訓練場で相手をしてやろう。さっさと出て来い!!」
【オズ】の強気な言葉に若いドラゴン達はそれぞれの顔を見ながらお前が行けよと押し付け合ってる。
【もういいわ【オズ】】
ゾゾゾゾゾォオオオオ!!
【ラオス】による【格付け】により若手だけでなく何もしていない中堅処のドラゴンまでの意識が狩り取られ。周囲は一気に静かになった。
「バカに理屈は通じない、始めから【格付け】で意見出来る人を選別すればよかったのよ」
暴論とも言える【ラオス】の言い分。しかし無駄に長引きかけていた会議も【ラオス】の強行で纏まり、気絶したドラゴンは若手、中堅問わずに実力不足として重い訓練メニューが追加されたらしい。
「そう言えばこの島に来てもう一月近くなるんだよなぁ・・・」
「どうした急に」
城で居候している部屋で干し肉をバリバリ【新二】は食べながら人化した【オズ】に向かって言う。
「俺は【オズ】さんと出会って右腕を失い。【オズ】さん【ラオス】さんと訓練して今まで以上の力を手に入れた。そろそろ【ファイゼ】村に帰る頃だと思う」
【きゅーー!!】
【新二】の帰ると言う言葉を聞いてか、【シュー】ちゃんの様子が慌ただしくなり、【新二】の背中に甘えるようにすりつく。
「そうね、うちとしては暇潰しにまだまだ居て欲しいけど。【マエダ】君が帰るべきと思ったのなら、それは帰るべきよ」
【きゅーー!!】
「そうだな、【オズ】の言う通りだ。我々ドラゴンと違って人間の寿命は思っているよりも短い物だ。迷ったら直ぐに行動に出なさい、その方が後悔せんだろう」
【きゅーー!!】
「ありがとう【ラオス】さん【オズ】さん」
先程から【シュー】ちゃんはまるで公園から帰る時にまだ遊具で遊びたい子供のように【新二】にしがみつき、泣きわめいている。
「【シュー】ちゃんにはまだ難しいかも知れないけど、俺にはまだやりたい事が沢山あるんだ」
【新二】は背中にしがみついている【シュー】ちゃんを引き離し、視線の高さを【シュー】ちゃんに合わせる。
「だからいつまでも【シュー】ちゃんと一緒にはいられない」
【きゅーー!!】
「だからさ、一つ約束しよう!!」
【きゅ?】
「【シュー】ちゃんが立派なドラゴンになり、人間である俺達の事を学んだら、俺の相棒として世界中を冒険しよう!!」
「【新二】殿!!流石にそれは【シュー】ちゃん殿が可哀想では?!」
【オズ】の言葉を聞いた【新二】は【オズ】の頭を引き寄せ耳打ちをする。
「【オズ】さん・・・俺だって【シュー】ちなんが可哀想だとは思う。だけど【シュー】ちゃんは竜王の大事なお孫さんだ、このままだとワガママ言って俺に付いて来そうだから、このまま国にいる理由が必要なんだ、分かるだろ?」
「いや、しかし・・・」
「ドラゴンが立派な大人になるのは数百年はかかるんだろ?。大丈夫、それまでには俺の事なんか忘れてるさ」
【新二】は何事も無かったかのように【オズ】から離れ、【シュー】ちゃんの頭を優しく撫でる。
「【シュー】ちゃん。俺との約束だ、立派なドラゴンになるんだぞ!!」
【きゅーー!!】
【シュー】ちゃんはキラキラした両目で【新二】に答え、【新二】は立派に成長した【シュー】ちゃんを見る事が出来ない事に少し残念な表情をした。
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