第76話 一月たてば浦島太郎

「さぁーて、行くかぁ!!」


【きゅーー!!】


出口となる滝には【シュー】ちゃんと【ラオス】が見送りに来てくれた。【新二】はこの後【オズ】に乗って【新二】と【オズ】が戦ったあの場所まで運んでもらう予定だ、それは今となって分かった生後数年の地竜ですら【ファイゼ】村の人々は【災獣】として恐れていたのに、ドラゴンの中でもトップクラスに強い【オズ】が現れたらとんでもない騒ぎになることが目に見えて分かっているからだ。

 【新二】は最後まで可愛らしく鳴く【シュー】ちゃんに向かって手を振り、【シュー】ちゃんの言葉を理解出来る【ラオス】は【シュー】ちゃんが鳴く度に顔が引き釣っていく。

 そして【オズ】が翼を羽ばたかせて滝を落ちる様に飛び、充分なスピードに乗ってから一気に上昇して【オズ】と出会った場所に向かって飛ぶ。

 海を越え、草原を越え、森に入り【オズ】の炎で焼けた場所にたどり着く。


「此処で我とも別れだな【マエダ】殿」


「ああ、短い間だったが世話になったな【オズ】さん」


「そなたの右腕だが・・・そのー」


「その件ならもう充分さ!!、俺はあの時よりもっと強くなった。それで貸し借り無しさ・・・」


「すまぬ・・・」


【新二】はドラゴン化している【オズ】の拳に自分の左手の拳を合わせる。


「また会おうぜ【オズ】さん」


「人間の生涯は短い、だが【マエダ】殿と言う強き人間がいた事は我の心にしかと刻んだ。再び会える幸運を共に祈ろう」


【オズ】は赤黒い巨体で振り返り、【新二】に背中を見せる。


「これは【マエダ】殿に言おうか迷っておつまたのだがな、突然【シュー】ちゃん殿が現れても良い様に伝えておく。【シュー】ちゃん殿は【マエダ】殿のと別れ際に早く大人になって【マエダ】殿の卵を産み、一緒に暖めたい。と言っていた」


【はぁああああ?!】


そう言うと【オズ】は【新二】に同情するような視線を送ってから大空へ羽ばたいて行った。


【なに!?あのバカ【マエダ】君が帰ってきた!!】


【ファイゼ】村【駐在所】、【寝ずの間】で書類に判子を押していた【ロモッコ】は、一月前に突然「森の更に奥を調査する旅に出る」と宣って出ていった【新二】の帰還に嬉しさ半分、怒り半分を思いながら彼がいると言う村の北門に向かった。


「久しぶりだな【ロモッコ】さん!!」


「貴方誰よ!!」


「いってぇええ!!」


【ロモッコ】に突然頭を殴られた【新二】は地面た折れ込み、頭を押さえて転がる。


「所で【ロモッコ】彼は違うのですか?」


門を警備していた兵士に【ロモッコ】は訪ねられ、首を振る。


「山賊のような格好をしてるけどこの声と魔力は【マエダ】君本人だわ」


「【ロモッコ】さんいきなり酷いじゃないですか!!」


「酷いのはどっちよ、行きなり森の更に奥を調査しに行くと言って出ていったきり。一月も帰って来ないなんて、沢山心配したんだからね!!」


「それはその・・・ごめん・・・」


「まあいいわ、とりあえず貴方が無事なら説明は後で聞くわ。今すぐその山賊のような格好から【兵士服】に着替えなさい。皆も貴方の帰りを待っているわ」


「はい・・・」


こうして【新二】は一月ぶりの【駐在所】に戻り、【ロモッコ】から新しい【兵士服】を受け取って着替え。【ロモッコ】【ケインズ】【サクマ】【サイモン】【メール】【カール】【ロゼッタ】【ダース】と、その他にいつの間にか増えた兵士達に演説するような形で【空の間】に呼び出された。


「【マエダ】さん腕が・・・」


それは【メール】の声だっただろう。山賊の服から【兵士服】に代わり、明らかに無くなっている右腕に皆の注目が集まる。


「まぁ、気になっていると思うがこの腕はなー」


【新二】はできる限りのまとめてこの一月の出来事を話した。

 森の調査をしていたら赤いドラゴンの亡骸にすりよう黒い子ドラゴンを見つけた。

 その子ドラゴンを狙って幾つものドラゴンが襲い掛かってきて撃退した。

 突然赤黒い立派なドラゴンが現れ、そのドラゴンに右腕を灰にされたが、実はそのドラゴンは子ドラゴンを誘拐した犯人を【新二】と思っていた為に襲い掛かってきた勘違いであった。

 【新二】の右腕の詫びと子ドラゴンを助けたお礼に森と、その向こうの草原、更にその奥の海を越えた所の島にある竜王の国【レムホワール】に招待され、竜王の国でそのドラゴンと稽古していた。

 何日か居候させてもらっていると、子ドラゴンの両親を殺したドラゴンが南西の山脈にアジトがあると言う情報が入り、向かうと【第二兵士団】とドラゴン達の戦闘に遭遇。戦闘の結末だけを見て【新二】達は竜王の国に戻り、【新二】はそろそろ【ファイゼ】村に帰るべきと思って帰ってきた。

 と【新二】が説明すると全員がこの一月で何やってるんだお前と言う呆れた顔になっていた。


「【マエダ】君、貴方が余程のバカって事は分かったわ。だけどそんな突拍子な話し、確実に合ったと裏付ける証拠がなければ本部報告も出来ないわ」


【ロモッコ】は【新二】の話を纏めたメモ用紙を獣の皮で作ったファイルに挟み込み。【新二】と向き合う。


「では次にこの一月で【ファイゼ】村がどう変わったのかを説明するわ」

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