第42話 観測者

夜中の【ベイル】町郊外。幾つもの雷と竜巻が衝突する。周囲は瓦礫が散乱し、至るところに雷火による火燃え立ち、戦地のような風景が広がっていた。


【ハァアアア!!】


【新二】が【千時】を振るい、深緑色の小さな竜巻の連擊が【バウンズ】兵士長に向けて放たれる。


【【雷火閃光らいかせんこう】!!】


【バウンズ】兵士長の身体が一瞬で黄色い閃光となり、【新二】の小さな竜巻の全て切り裂き、【新二】の身体を左肩から右の脇腹にかけて切り裂く。


【コポッ・・・!!】


「私も色々背負ってるんだ・・・子供には負けない」


【新二】は口から血を流し、前のめりに倒れ、【バウンズ】兵士長は剣を鞘に納める。


「【アルテナ】!!【マエダ】を拘束し【治癒薬】を使ってやれ!!。此処で殺すのは惜しい人材だ・・・」


【アルテナ】は部下とともに【サイモン】【メール】【カール】に魔法を封じる手錠を掛けて連れて来ると。懐から小瓶を取り出して【新二】に近づく。


「隊長の【雷火閃光】、久しぶりに見ましたね。もうそこまで成長したのですか彼は・・・」


「ああ・・・、まだ《例の5人》には及ばないが。やはりかなりの逸材なのは間違いない・・・」


【アルテナ】副兵士長と【バウンズ】兵士長の会話を数百メール先から様子見する人影があった。


「【団長】・・・彼、負けたね」


「そうね【セスタ】・・・」


「たかがごときに負ける程の人材なら、私達の探す【剣】には成り得ません。他を当たりましょう・・・」


【グラウス】は倒れる少年を早々に見限りを付け、馬車に戻ろうとする。


【もう少し様子を見ましょう】


【アルフレイン】団長の言葉に【グラウス】と【セスタ】は疑問を浮かべ、【グラウス】は冷たい声色で話す。


「お言葉ですが、既に彼は虫の息。このまま【治癒薬】を投与されて連行されるだけでしょう・・・」


「そうね、だけど私の勘が言ってるのよ・・・、【彼の力はこの程度ではない】と・・・」


【アルフレイン】団長は腕を組、地面に倒れる少年を見つめる。


「(【兵士長】レベルに負けるような実力でこの私が悪寒を覚える事などあり得ない・・・。必ず何かがある)」


淡い紫色の空、見渡す限り一面に広がる水面みなも。【新二】は見覚えのある景色に少し安心するとあわてて身体を触り、傷を確認する。


【俺は確かに切られたはずなのに・・・】


【新二】が身体を見下ろしながら小さく呟くと、頭上から聞き馴れた声が聞こえて来る。


【ええ、確かに切られました・・・だけどそれは《身体》であって《心》ではありません。なので無傷なのは当然でしょうこの世界では・・・】


「【千時】・・・」


そこには見慣れた風車の大小二輪の花が描かれた【千時】が浮かんでいた。


【さて、【新二】《君》貴方はどうしたい?】


「【どうしたい?】って?」


【今【新二】君の前に幾つもの道があるわ】


【千時】の頭上に地面に血を広げて倒れている【新二】と疲労を見せる【バウンズ】兵士長。何か小瓶を懐から取り出す【アルテナ】副兵士長の姿が映像として写しだされた。


【このまま放置されれば私も【新二】君も死ぬわ。しかしあの【アルテナ】と言う人が【新二君】に【治癒薬】を掛けようとしているから大丈夫そうね・・・】


「そうか・・・」


【新二】はまだ死なない事に深く息を吐き出すと【千時】が【新二】の頭をひっぱたく。


【イッテ!!何すんだよ!!】


【敵に負けた上に情けを掛けられようとしてるのよ!!それで【ファイゼ】村の人達に顔向け出来るの!!】


「んな事言ったってどうすりゃ良いんだよ!!俺は今死に掛けている上に身動きも取れないんだぞ・・・って・・・」


【新二】の脳裏に【千時】が前に言ったあの言葉が思い浮かぶ。


【命が危なくなったらすぐに私を呼びなさい。具現化しなければ貴方を守れないので】


「(何故今あの言葉を思い出した?あれは【千時】を砕かれて具現化出来ないと《思い込んでいた》時の・・・?!)」


【新二】が何かに気付いた表情をすると無機質な扇が笑った様に感じる。


「おいおい・・・もし俺が今考えている事が出来るのなら、【千時】・・・お前は何者なんだ?」


【フフフ・・・私は【前田新二】が《想像し、作り出し。成長する》【心器】【千時】。以上のそれ以外でもありません」


【新二】は【千時】に手を伸ばして触れると、紫色の光が【新二】を包み込み。意識は地面に倒れる身体へ戻る。


【治せ【千時】・・・】


【新二】を包み込む淡い紫色の魔力。【新二】に歩いて近づいていた【アルテナ】副兵士長は反射的に後ろに飛び退き、【バウンズ】兵士長は剣を鞘から再び抜いた。


「【アルテナ】・・・私はどうやら【窮鼠】持ちを甘く見ていたらしい・・・」


「そうですね、【窮地】を乗り越えた場合の【窮鼠】は想像すらしてませんでしたね」


【新二】はゆっくり立ち上がり、淡い紫色の魔力が【新二】の身体に刻まれた斬擊の深い切り傷を再生させ、さらに床に広がる血も時を巻き戻すかのように【新二】の体内へ戻っていく。


「あれ程深い傷を【治癒薬】無しで再生させた?!」


【アルテナ】が驚愕の声を上げ、【新二】の身体を焦がしていた【ザック】の焦げ跡まで再生させると【新二】は深呼吸をして【バウンズ】兵士長に視線を合わせた。


「【アルテナ】気引き締めろ!!。私の勘が警鐘を鳴らしている」


【新二】は深く深呼吸すると【バウンズ】兵士長と【アルテナ】副兵士長。更にその向こうに見える手錠を掛けて捕らえられた【サイモン】【メール】【カール】に視線を流し、改めて状況を確認する。


「【バウンズ】兵士長、一つ提案があります」


「なんだね【マエダ】君」


「互いの仲間をここから退避させた上で話をしましょう」


「貴方何をいって・・・」


「いいだろう・・・」


【アルテナ】副兵士長の言葉を遮り、【バウンズ】兵士長は言う。


「ありがとうございます」


「【兵士長】・・・」


【アルテナ】副兵士長が心配そうに【バウンズ】兵士長を見るが、【バウンズ】兵士長は冷や汗をかきながら片手で【アルテナ】副兵士長と部下に退避を命じる。


「必ず帰って来てください!!」


「分かってる、心配するな・・・」


「・・・・」


【アルテナ】は不安そうな顔をしながらも部下と【サイモン】達を連れて去り、【新二】はまるでこちらが悪者のように聞こえた会話に眉を潜め、改めて【ファイゼ】村を焼かれた怒りが溢れ出てくる。


「【バウンズ】兵士長」


「なんだね?」


「今の俺は物凄く怒っているんです。【ナリカネ】に村を焼かれ、大事な人を傷付けられた・・・」


「・・・・」


話し出した【新二】の言葉に【バウンズ】兵士長は黙って耳を傾ける。


「俺は【ナリカネ】の最高戦力である【ザック】を仲間を守る為に殺しました。【ナリカネ】本人も一度叩きの目さなければ気が済まなかったのでぶっ潰しました、だけど【バウンズ】兵士長と戦う理由は仲間に平手打ちをしようとしているからです」


「・・・・」


【もう戦うのは止めましょう・・・これ以上の戦いはお互いの仲間同士が恨み会う結果になりかねない・・・】


それは懇願にも似た声色で【新二】の表情は悲しそうな顔だった。

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