第11話 ファイゼ到着
金髪に【千時】を砕かれて一週間、【新二】はひたすら【ファイゼ】村に向かって突き進む。道中すれ違う通行人は【新二】を見て怯え、蔑み、ヒソヒソと噂話をしていたが、【新二】にとってはどうでもいい事だった。
【ここが【ファイゼ】村か・・・」
廃墟のようにボロボロな門、仮設感溢れる建物、静かすぎる村。【新二】は警戒しながら村に入り兵士の【駐在所】を探す。
「ここだよな?」
木製の看板に辛うじて【ファイゼ村駐在所】の文字が読めるボロボロの建物前に立ち、【新二】は3回ノックすると、軋むガタガタのドアを開けた。
「失礼します。この度【ファイゼ】村に派遣されてきた【前田新二】ですが・・・」
【駐在所】には誰一人兵士がおらず、【新二】はどうしようかと迷った時だった。
【【【ドドドドドド!!!】】】
細かい地響きと地揺れが起こり、ボロボロの駐在所が軋んで埃が降る。
「なんの音だ?」
地揺れが収まり、周囲を見渡すと爆発音と土煙が北の方角から聞こえ、見える。
【新二】は土煙の見えた方角に向かって走ると村の冊が壊され、大きなサイのような魔物が建物を破壊して暴れまわっていた。
「着任早々襲撃かよ!!」
【新二】はへし折れた木片を片手にサイの魔物に向かって走る。
【ブオオオオ!!】
魔物のが唸り声を上げ、頭に2本生えた角を【新二】向けて突進する。
【新二】は集中力を高めて認識速度を早め、擦れ違い様に魔物の片眼に木片を突き刺した。
【ブモオオオオ!!】
魔物が悲鳴を上げて地団駄すると、振動で周りのボロい建物が倒壊する。
「やはり致命傷にはならないか」
【新二】は更に木片を拾い魔物の反対側の目に突き刺して完全に視界を奪うと、壊れた建物の瓦礫にあった大きな木槌を持って魔物の目に刺さった木片を更に深く打ち込む。
【グモオオオオ!!】
魔物が断末魔の叫びを上げ、サイの魔物は横倒しになり、息絶えた。
「あの【トンサイ】を殺ったのか・・・」
【新二】の後方から人の声が聞こえると村人らしき人が次々姿を表した。
「俺・・・じゃない。私は【ファイゼ】村に派遣された【新兵】の【前田新二】、兵士の駐在所に行った所無人だったのですがどちらにいらっしゃるかご存知ありませんか?」
村人達はザワザワし出し、やがて最年長とみられる老婆が【新二】の前に出てきた。
「この【ファイゼ】村に帝国の兵士様は数年前からいらっしゃらないのです」
「え?」
「この地に村が出来てから早50年、ワシらは開拓に勤しんできた。開拓当初、この地は数多くの種類の植物と動物が数多く分布しており、帝国にとって利益になると判断されたからじゃ。
じゃが・・・同時にこの地には数多くの魔物が生息しており。度々村が襲われ、多くの村人と兵士が犠牲となった。始めは帝国も兵士様を数多く派遣してくださりこの村を庇護してくださっておったが、兵士様の犠牲は増える一方じゃった。やが帝国は兵士様の派遣を渋るようになり、数年前亡くなった兵士様を最後にこの村に兵士様は来ることは無かったのじゃ・・・」
思ってたよりもかなり酷い状況に【新二】は言葉が出ない。
「若い兵士様、悪いことわ言わん。この村より去るが良い、お主がいくら強かろうとも、幾度も村を襲う【災獣】には敵わぬ・・・」
「【災獣】には敵わぬ」、その一言が【新二】の胸の中に響き、【千時】を砕いた金髪の顔が思い浮かぶ。
【敵わぬか・・・上等じゃないか】
【新二】の言葉に老婆を含め村人がざわめく。
「お主話を聞いておったのか?、過去この地におった兵士様は皆怪我や魔物によって亡くなるか、大怪我を負い村を去るかの2択だったのじゃぞ!!」
「生憎俺は強くなってブチのめしたい奴が要るんだ、その為には多くの【死線】をくぐる必要がある。それに俺がいなくなったら誰がこの村を守るんだよ」
老婆は意外な【新二】の言葉に意表を突かれ言葉が詰まる。
「俺の名前は【前田新二】【
【新二】が手を差し出すと、老婆は何かを諦め、小さなため息を付くが何処かホッとしたような表情で【新二】の手を取る。
「【ロゼッテ】だ、肩書きはないが、皆の相談役となっておる」
こうして【新二】の【ファイゼ】村での新しい生活が始まった。
【ファイゼ】村での生活は過酷だ、食料となる物は森の獣と山菜、それから川で取れた魚がメインとなるが、どれも魔物と遭遇する可能性のある命掛けの仕事だ。田畑ほぼないと言っていい。作っても魔物に踏み荒らされるし、食われるからだそうだ。
俺の仕事は村の防衛と村人の護衛。正直【千時】無しで不安要素しかない。村の武器は年数による劣化や以前に破損した物ばかりで使い物にならない。鍛冶屋も数年前に魔物に襲われて亡くなり、まさに崖っぷちと言う訳だった。
「全く、やりずらいぜ・・・」
森で木を切り、村の防壁を補強しようと森にきた【新二】は斧の音で寄ってきた鋭い牙のウサギを棍棒で仕留め、深いため息を吐いた。
「(せめて【千時】がいてくれたら・・・)」
【新二】は頭を横に揺さぶり、集中すると度々襲ってくるウサギを始末しながら木を切り倒す。
「これで1本かぁ、先は長いな」
夕暮れまでに4本の木と20匹の牙ウサギを仕留めた【新二】は村人達の協力を得て村の中へ運び込む。
「兵士様今日もお疲れ様です」
「ありがとう【リンド】」
ロゼッテの孫娘で緑色の髪の少女。【リンド】が【新二】に年期の入ったごわごわな濡れたタオルを差し出し、【新二】は有りがたく受け取って顔を拭く。
「流石【兵士】様ですね、私達では難しい森の木を切ってくるなんて」
「確かに切る音であのウサギが襲ってくるのはしんどいな、でもついでに食料の確保もできたなら上出来じゃないかな?」
「フフフッ・・・それは牙ウサギに負けないほど強い兵士様だから言える言葉ですよ?」
「強いなんて勿体ない、俺より強い奴なんかまだまだ多く要る。だから俺はもっと頑張らなくてはならないんだ」
【新二】はタオルを【リンド】に返し、サイの魔物の解体現場に向かう。
「こんにちは【レグルス】さん」
「おう、【兵士】の兄ちゃんか」
小川の近くでサイの魔物を解体していた茶髪の青年。【レグルス】は小川で血を洗うと首にかけたタオルで汗と手を拭いた。
「随分と苦戦してるみたいですね」
「そうだな、やっぱりコイツの皮膚が硬いのと、村に切れる刃物が無いのが大きいな」
「やっぱりそこに行きますか・・・」
この村には何もかもが足りない。例えば村の防衛を高めるために冊を作ろうとなれば木が足りない、森に木を切りに行くと魔物や動物が襲ってくるので武器や人がいる。武器を求めれば他所の村や町にいる鍛冶屋に行くしかなく、金も物々交換できる品もない。人手もこんな危険な地には来たがらない。
今は【新二】がどうにか頑張って村の防衛機能だけでも取り戻したいと考え、牙ウサギに襲われながらも木を伐採している最中である。
「村の防衛と武器は早めに何とかしたい所なのですが・・・ごめんなさい」
「なに、【兵士】の兄ちゃんが謝る事はないさ、もともと行き先がなく。村と共に消えるだけだった俺達が、【兵士】の兄ちゃんのお陰で少しずつ生きる希望を持ち始めている。【兵士】の兄ちゃんはドンと構えておればいい」
【レグルス】の笑顔に【新二】は少し気持ちが軽くなった。
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