第12話 襲撃
【【【ドドドドドドト!!】】】
山の方から地鳴りが聞こえ、村の防壁が破壊さる。得体の知れない何かは幾つもの建物を倒壊させながら進み、村人達の悲鳴が聞こえる。
「【災獣】だぁ!!逃げろ!!」
村人達が蜘蛛の子を散らす勢いで散り散りに逃げる。
【ギャオオオオ!!】
口から血とみられる赤い蒸気を漏らしながら、茶色の硬い鱗に覆われた翼の無い地竜が雄叫びをあげる。
【ママァああ!!ママァああ!!】
小さな男の子が瓦礫の下敷きになった母親を引っ張り泣きわめく。
「【キルシュ】ママを置いて逃げさい!!」
【いやだぁああ!!ママァああ!!ママァああ!!】
母親の願いも男の子耳にはと退かず、地竜は舌を出しながら男の子の元へ近付く。
「【キルシュ】お願い!!いい子だからママの言うことを聞いて!!」
「坊や早く逃げなさい!!」
「怪物こっちだ!!」
母親、村人の声にも男の子は従わず、勇敢な男性が瓦礫を地竜に投げて意識を反らそうとするが、地竜は親子に狙いを定め反応しない。
「【キルシュ】逃げてぇえええ!!」
【ママァああ!!】
地竜が大きく口を開けた瞬間、地竜の口に茶色の液体が入った木桶が投げ込まれ。地竜が地面に嘔吐する。
【この地竜は俺が引き付ける、この親子と瓦礫に埋もれた人達をお前らは助けろ!!】
【新二】は刃先がボロボロの短剣を構えると地竜の前足を駆け上がり地竜の右目に短剣を突き刺す。
【ギャラアアア!!】
汚物を食わされ、右目を潰した【新二】に地竜は標的を変え。【新二】めがけて突進する。
【新二】は地竜の突進を紙一重で回避しながら地竜の来た道を遡り、村から地竜を引き離す。
「(俺、確実に死ぬな・・・)」
【新二】の唯一の武器だった短剣は地竜の右目を潰した時に折れて使い物にならなくなった。地竜の体を覆う鱗は見た目からして棍棒どころか生半可な剣すら傷つかない固さを思わせる。
【新二】に出来る事は地竜の気を引き付けて村から誘いだし、何処かで撒いて逃げる事。
だが地竜の速さは想像以上に速く、さらに大木も大岩も突進で破壊しながら進む地竜に【新二】が捕らえられるのも時間の問題だった。
「(でも、殺るしかない!!)」
【新二】は覚悟を決め、地竜の左目に木片を突き刺すべく立ち回る。
前足の爪による斬擊、尻尾の凪ぎ払い。【新二】は集中力を高め、辛うじて回避する。
「しまっ・・・」
地竜が地面を爪で削り上げ、土砂が【新二】を襲う。腰の高さまで土砂に埋まると地竜は尻尾を【新二】の上半身に巻き付けて引き抜き、口を大きく開けて【新二】を口の中へ放り込む。
【小細工に頼るな!!天才どもは小細工程度では倒せんぞ!!】
地竜の口の中へ投げられて行く中、【ブラウン】教官の言葉が脳裏によぎる。
【【死中に活を見いだせ】!!。どんな絶望的の状況でも、生きる事を諦めるな。死線をくぐればくぐる程お前は強くなれる】
【千時】もいない、武器も無い、そんな中で【新二】に出来る事なんて何もない。強いて言うなら食われる時に少しでも足掻いて抵抗する事だけだった。
【ウォオオオオ!!】
【新二】は大きく拳を振りかぶり、地竜の喉に殴りかかる。
「(駄目だ!!こんな拳じゃ抵抗の意味もない!!)」
地竜の喉が目前に迫る中、【千時】の言葉が思い浮かぶ。
【命を捨て、恐怖を捨て、そして死の淵から命を拾いなさい、更なる力と共に】
【千時】の残した言葉、それは【新二】の中に僅かばかりの光明を見せる。
小細工は通用しない・・・地竜を正面から撃ち破る力
生きる事を諦めない・・・新しい力への道標
命を捨てる・・・究極の覚悟
【命が危なくなったらすぐに私を呼びなさい。具現化しなければ貴方を守れないので】
【まだお前は死んじゃいない!!そうだろ!!【千時】ィイイ!!】
【新二】の右手に力強い紫色の光が集まり、地竜の喉を切り裂いて【新二】が突き抜ける。
【遅くなって申し訳ありません。修復にしばし時間がかかっておりまして・・・】
「話は後でいい、今はあの地竜を倒す事が先だ」
【畏まりました(また、強くなられましたね)】
【新二】の手には風車の大小2輪の花が画かれた【千時】があり、以前よりも強く自身と繋がっている感覚があった。
「この感覚・・・、そう言う事か!!」
【グギャアアアア!!】
喉を貫かれた地竜は怒り狂いながら【新二】に突進する。
「魔力で身体を活性化させれば・・・」
【新二】の身体が一瞬で消え、地竜の顔を殴り飛ばし。地竜は横向きに倒れる。
【【新二】?!貴方魔力をー】
「ああ、身体を活性化させる事だけだが【千時】を通して伝わる感覚で分かったんだ」
【新二】は起き上がる地竜に次々拳、蹴りを撃ち込み地竜の硬い鱗が剥がれ始める。
「そろそろ決めるぞ!!」
【新二】が【千時】を掲げ【千時】に緑色の光が集まり輝きを増す。
「耐えてみな」
緑の巨大な斬擊が地竜の首を切り飛ばし、血の雨を降らせる。
「グルルル・・・」
「ガルルル・・・」
「キュアアア!!」
森から血の臭いを嗅ぎ付けたか、狼型の魔物、巨大鳥の魔物が集まってくる。
【新二、どうします?】
「勿論殺るさ、どのみちコイツら殺らないと村の連中が安心して森に入れない。行くぞ【千時】!!」
【畏まりました【新二】君】
狼の魔物の群れを緑色の閃光が駆け巡る。
「きゃきゃん!!」
「きゅん!!」
閃光が通りすぎると魔物の首が次々飛び、血の雨を降らせる。
「まだだ、もっと速く。もっと高く」
大きなライオンのような魔物の頭を踏みつけ高く跳躍すると、巨大鳥に飛び移り、首を跳ねながら巨大鳥の間を駆け巡る。
「チッ・・・」
巨大鳥も学習したのか【新二】に近く事を辞める。しかし、【新二】は遠くの巨大鳥に向かって跳躍し、真後ろに【千時】を振る事で突風を背に加速し、足りない距離を詰める。
「捕らえたぞ」
鋭く笑う【新二】の口元に巨大鳥は怯えるが、次の瞬間。巨大鳥の首はまっ逆さまに地面に落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます