第13話 魔獣災害の後始末
【ファイゼ】村より下流にある【ベイル】町では、その日歴史上類を見ない大事件が起こっていた。
「本当に川が真っ赤だ・・・」
人混みを分けて前にでて来た少年が呟く。
「皆さん落ち着いてください、現在兵士が原因の調査のために遡上しております。落ち着いて家に帰り、調査報告をお待ちください」
兵士が人混みの後方でメガホンを持ち、繰り返し調査中との報告を唱える中、町人は暗雲立ち込める川の上流に不安を抱えるのだった。
「(一体どれだけ切ったのだろう・・・100を越えた当たりから記憶に残っていない)」
草原に転がる数百の魔物の屍。草花はどれも血に染まり真っ赤な絨毯が広がっている。
【新二】は疲労から自ら動くのを辞め、襲ってくる魔物を半自動のように切り裂く。【新二】の【兵士服】は幾度も返り血を浴びて赤から黒へ変色し、また赤く染まる事を繰り返し、禍々しい雰囲気を放っている。
「(流石にそろそろ限界か・・・)」
【千時】を通し、集めた魔力で身体の治癒と活性化による身体能力の上昇。その負荷は【新二】の精神と肉体の疲労を加速させ、意識が朦朧とし始める。
「(まだ敵は残ってる・・・もう少しだけ・・・)」
「動くな!!」
【新二】に弓と杖を構え、抜刀した兵士が警戒しながら近付いてくる。
「(助かったのか?・・・)すみません、後をお願いいたします」
【新二】は兵士達に向かって微笑むと、その場に崩れ落ちた。
黄土色の髪の30代の男性【ラインバック】は状況が読めなかった。【ベイル】町で突然起きた川が真っ赤に染まる大事件、急遽非番だった【ラインバック】含める兵士達も召集され。原因を突き止める為に川を遡上する事となった。
町から出て川を遡上する事数時間、血の臭いがどんどん増していき、草花にもチラホラ血のような赤い斑点が現れ始めた。そこから更に数十分。草花は完全に血に染まり、所々いた魔物の死骸が見渡す限り転がっているようになる。
「オイオイ【ベルオン】に【ザンチョウ】、【ゼルフオオカミ】に【ハンマーベイル】野獣の死骸でホームパーティーしてやがる」
【ラインバック】の同期で黒髪だが若白髪の多い男性、【シルクハット】が少しでも残虐な光景を和らげようと冗談混じりで表現する。
「なんだアレは?!」
白い巨大鳥の魔物【ザンチョウ】と青みが強い黒色狼【ゼルフオオカミ】が一つの人影に向かって襲い掛かり。その両者の首が一撃で切断され、骸となる。
真っ赤な草原、倒れ重なった獣の屍。常人ではとても真似出来ない戦闘。
ふとその時、人影の視線が自分達に向けられる。
【動くな!!】
気が付けは【ラインバック】叫び、全員戦闘体制に入っていた。これ程魔獣を一人で相手にし、川を真っ赤に染めるほど斬り倒した人物。ベテラン兵士と言えど無傷で逃げられる保証は無い。
だが、人影は我々を認識すると急に異様な雰囲気が静まり。少年が一言【すみません、後はよろしくお願いいたします】と言ってその場に崩れ落ちた。
「【ラインバック】どうする?」
【シルクハット】が聞いてくる。
「とりあえず確認しよう、もし敵なら殺し。見方なら【ベイル】に連れ帰る」
【ラインバック】達は少年に近付くとその目を疑った。
「あり得ない、これ程の戦闘力がありながら【新兵】など!!」
少年は血で変色しならがも帝国の【兵士服】であり。勲章も階級を表す星のバッチもついていない事から【新兵】なのは間違いなかった。
「【ルシェル】この顔に見覚えはあるか?」
【ラインバック】は弓使いで20代の銀髪女兵士に少年の顔を確認させる。
「少なくとも今年【ベイル】に派遣された【新兵】でないのは確かだわ。教育係りとして世話してたから間違いない」
「だとすれば一体どこの・・・」
「なぁ・・・【ラインバック】」
「なんだ【シルクハット】」
「確かこの辺に昔村が無かったか?」
「村か?」
「【ファイゼ】村・・・」
一番年長で白髪の魔法使い【デボン】が村の名前を言う。
「一昔前に捨てられた村じゃ、今は駐在する兵士もおらんかったはずだが・・・」
【デボン】は少年の顔を見るが、あり得ないと首を振るう。
「まあ、万一と言う事もある。近い内に確認すると良かろう」
【デボン】は杖を地面に打ち付けると、杖先から衝撃波が放たれ【ラインバック】達を襲って来た魔獣が一斉に吹き飛ばされる。
「ありがとうございます【デボン】さん」
【シルクハット】がお礼を言うと【デボン】は薄く笑い、【ラインバック】は少年を担ぎ上げ。一団は【ベイル】町へ引き返したのだった。
「ここは・・・」
【新二】が目を覚ますとベージュのカーテンに木製のベッド。小さいが綺麗に掃除された部屋の中だった。
【兵士服が?!】
【新二】は黒い【兵士服】から【患者着】に変わっており。身体を触って確かめるが、【新二】の身体の何処にも大きな怪我は見られなかった。
「気がついたか【新兵】、俺は【マットン】【ベイル】町で医療兵をしている。単刀直入に聞こう。君は誰で、何故あの場所で戦っていた?」
【新二】はオレンジ色髪男性、【マットン】の質問に少し頭の中で答えを整理するとゆっくり話し始める。
「俺・・・いや、私は【前田新二】、最近【ラマス】訓練学校を卒業して【ファイゼ】村に派遣された【新兵】です。その・・・【ファイゼ】村は過去に幾つもあった魔獣の影響でボロボロで、その復旧作業中に【地竜】の襲撃がー」
【【地竜】だと?!】
【マットン】が大声で反応し、【新二】は一瞬驚いて身体がピクリと反応する。
「あっ・・・はい、何とか【地竜】を村から誘いだして倒したのですが・・・」
「君が【地竜】を・・・本当に?」
「は、はい。それで【地竜】の血を嗅ぎ付けた獣物達に襲われて斬殺を続けるとそいつらの血を嗅ぎ付けた獣物がまた現れるの繰り返しでー」
「それで【ラインバック】が着いた時に気を失ったと・・・」
「はい・・・」
【マットン】は【新二】の話を聞き、当然【新二】のような【新兵】が出来る内用では無い事に信じられずにいた。だが、【新二】の話を信じざるおえない証拠も入ってきた。
トントントン!!
「入れ」
20代半ばの兵士が入ってくると【マットン】の耳に近づき小声で報告をする。
「【マットン】さん、【デボン】さんより報告です。彼の発見された付近の草むらで、首が切られた【地竜】の死骸が発見されました。それとやはり彼はつい先日【ファイゼ】村に派遣された【新兵】で間違いないそうです。名前の確認も取れました」
「と言う事はあの魔物の群れを本当に彼が一人で・・・」
【マットン】の鋭い視線が【新二】を刺すが、【新二】はキョトンと頭をかしげている。
「あの~~助けてもらって有難いのですが、【ファイゼ】村が心配なのでそろそろ戻りたいのですがよろしいでしょうか?」
【マットン】は腕を組、少し思考を巡らせるとゆっくり言葉をだす。
「その判断は俺の独断では出来ないから、ちょっとここの【兵士長】にあってくれないかな?」
「はい、分かりました!!」
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