第48話 蠢く者
【それはなかなか大変な事になりましたね】
【ああ全くだ・・・】
【シリウス】の演習を聞いてすぐに【新二】は【ダース】を連れて森に入り、少しでも下見をして不測の事態が起きない様に調査を始めた。
「俺だって毎日森に入っているが。日によっても、天気によっても、時間によっても森の顔は著しく変わる。つい昨日まで縄張りの主だった奴が突然姿を消したり、こちらでは見かけなかった魔物が突然現れるようになったりする事だって珍しくない」
「僕は森に入るようになってまだ一週間ですが、そんなに変わるものなのですか?」
「さぁ~な、わからない。ただ前にも話したと思うが、この森には多くの【獣】や【魔獣】、【野草】、【魔草】が幅広く分布している。それは村にとって大きな収益になると同時に災害の懸念にもなる。
怪我人が多く出た時に上質な薬草が取れる事で助かった事もあれば、【地竜】が村を襲って怪我人が多く出た事だってある。ハイリスク、ハイリターンって奴だな」
【新二】はその後も【ダース】を連れて森の中を調査し、眉一つ動かさずに襲い掛かってくる巨大昆虫を【千時】で切り裂いていった。
「ここら辺はやけに虫がおおいなぁ・・・」
「・・・そう・・・ですね・・・」
【ダース】は気色悪い昆虫が【新二】によって体液をばらまきながら切り裂かれて行く光景を見続けた為か、今にも吐きそうな程顔色が悪い。
「虫の残骸にやられたか?。まぁ始めは俺もグロッキーになってたが、次期に慣れるさ」
「そうでしょうか・・・オゲェエエ!!」
【ダース】が木陰で吐くのを視線を反らして見ぬふりをし、【新二】頭の中で現在地の確認をする。
「(【ファイゼ】村から北西に15キロと言った所かな?、ここら辺は北の【石灰岩】と東の【鉄鋼石】の採掘場からも離れてるから、あまり来なかったからなぁ・・・)」
【新二】が思考をしている間にも巨大昆虫が襲い掛かって来ており、【新二】は振り返らずに背後の巨大蛾を真っ二つにする。
「すみません・・・お待たせしました・・・」
竹筒の水筒の水で口を濯いで来た【ダース】が、こちらに向かって来る。
【ギャオオオ!!】
【ダース】はいつの間にか地面に転がっていた巨大蛾の死骸を踏んで跳び跳ねる。しかし【新二】は【ダース】の驚きにも慣れたと、何もなかったかのように森の奥へ踏み進む。
蔓や草が生い茂る獣道を【千時】で切り広げながら突き進み、日も大分傾いて来た為【新二】が【ファイゼ】村へ戻ろうと【ダース】に声を掛けようとした時だった。
「【ダース】、そろそろ帰ろうか・・・?!」
「うぇ?!」
【新二】は【ダース】を担ぎ上げ、両足を魔力で活性化させ、巨木の枝の上に飛び上がる。
「【ダース】静かに・・・」
それは一見何の変哲もない赤と黒のシマシマ模様の蟻だった。強いて言うなら体長が5センチもある巨大な蟻。しかし【新二】はこの一匹の蟻に対して元【四等兵士】だった【ザック】以上の危機感を感じ、【ダース】を瞬時に担いで巨木の上へ避難する事を選択したのだ。
【【【【ブーーーン!!】】】】
【ツイてないな・・・】
【新二】と【ダース】が飛び乗った枝の向かい側には大型トラック並みの大きさで、スズメバチの蜂巣のようなものがあり、体長1メートル程の巨大蜂が次々巣穴から出てくる。
【わぁあああ!!】
「悪いが生け贄となってくれ!!」
【ダース】が叫ぶ中、冷静に【新二】は【千時】を具現化させ、深緑の斬擊が巨大蜂の巣の付け根を切り裂く。蜂の巣は地面に落下し、壊れた蜂の巣の中から正六角形の巣部屋が崩れ落ち、幼虫達が蠢く。
「気持ち悪りぃ・・・」
【ダース】が顔を歪ませながらも、巨大蜂は【新二】と【ダース】に襲い掛かってくる。しかし【新二】は四方八方から襲い掛かって来る巨大蜂も【魔力感知】で全て見切り、危なげ無く羽を深緑の斬擊で切り裂き、地面にに叩き落とす。
【カチカチカチカチカチ!!】
その音は何か硬い物を打ち付け鳴らしたような音。
【カチカチカチカチカチ!!】
【カチカチカチカチカチ!!】
【カチカチカチカチカチ!!】
その音は一秒ごとに増えていき、やがて赤黒い大波となって巨大蜂を蜂の巣のごと押し流す。
「警鐘の正体はこう言うことか・・・」
【シーアント】
赤と黒のシマシマ模様が特徴で、体長5センチ程に成長する蟻。目は退化してほとんど見えないが、変わりに触覚が発達しており。獲物の匂いを感知して捜索する。
一匹ではただの大きな蟻だが、歯をカチカチ鳴らす事で仲間を呼び、集団で狩りを行う。
※時に赤黒い波の様になって襲い掛かって来る事が報告されている。
【対処法】
【シーアント】は匂いを頼りに獲物を探す為、強い臭いの物を投げて気をそらせるか、焚き火の煙によって撃退出来る。
【んな訳ねぇーだろが!!】
パタン!!
【新二】は図鑑を行きよく閉じ、椅子に倒れるように座る。
【ファイゼ】村の【駐在所】に戻った【新二】と【ダース】は、建物の二階の左端にあるスカスカの本棚が並ぶ【図書の間】で【メール】に取り寄せてもらった生物図鑑を開き、森で出会ったあの蟻の情報を見ていたのだった。
「確かに焚き火であの蠢く波が撃退出来るとは思えませんね・・・」
「だろ?!どっからどう見たってあんなの普通じゃない・・・【
「まぁ、未知の部分が多い森らしいですから。もしかしたらあるかもしれませんね・・・」
【ダース】は雑草を加工して作られた質がそこそこ悪い紙に、遭遇した【シーアント】の事をまとめると生物図鑑の【シーアント】のページに挟み込む。
「もし誰かが【シーアント】を調べた時に今日見た事参考にしてもえればと思って」
「成る程ね、図鑑の知識だけで彼奴らに挑むのは自殺行為だからな」
その夜、【空の間】にて【シーアント】についての報告を聞いた【ロモッコ】は、森で【シーアント】を発見した場合、手を出さずに速やかに村へ避難し、報告する事が決まった。
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