第78話 俺たちが築き上げた物

「それじゃあ【マエダ】君、貴方は明日付けで【ファイゼ】村の兵士から外される訳だけど。行き先は決めているのかしら?」


「明日?。てっきり今日だと思っていたよ」


「いくら【兵士長】になって偉くなっても。【ファイゼ】村に就任当初から一緒にやってきた仲間を直ぐに追い出したりはしないわ。それに今日の日が暮れるまでは、この一月で成長した村を貴方に見せたいの」


【ロモッコ】の後ろでは新しく入った兵士達が何かをぶつぶつ言っているが、【ロモッコ】はそんなのお構い無しで笑って言った。


「改めて村を見てるけど以前より見知らぬ建物も人も、兵士も、いっぱい増えたな」


「そうね、人口は今は兵士も含めて756人と言った所かしら?」


「随分細かい人数までしってるんだな」


「だって今数えたから」


「え?!今数えたの?。ここから村の中全体なんて見えないし、建物の中の人なんてわからないでしょ?」


【ロモッコ】は腰に両手を添えて、呆れた表情をする。


「【魔力感知】くらい【マエダ】君もできるでしょ?」


「【魔力感知】って【ロモッコ】さんそんなのいつの間に出来るようになったの?!」


【ロモッコ】が【魔力感知】出来るようになったのは【新二】が旅立つ少し前の事だったらしい。【ロモッコ】は毎日【寝ずの間】で資料や報告書に目を通し、今後の村の方針を考えている中、少しでも村の様子が知りたいと意識を窓の外へ向けるようになってからだった。

 始めはなんとなく人や動物の気配が分かるだけだったらしい。だが日に日にその精度は上がっていき、今では村の中なら何処に誰がいるのか一瞬で分かるらしい。


「戦闘力はダメだけど、村を守る為の感知力なら【第五兵士団】でもそれなりにある方って【剣】の【ウィーク】さんが誉めてくれたわ」


「【ウィーク】・・・」


【新二】は自身を交渉材料にされたあの嫌な記憶が浮かび、顔に出ていたのか【ロモッコ】が笑っている。


「【ウィーク】さんは欲しい物には手段を選ばない人だけど、面倒見も良くて。今では忙しいのに私を孫のように思って、手紙をくれるの」


「そうかい・・・」


その後も【ロモッコ】と二人で村の中をめぐっていく。すっかり一人前の看板を掲げて【獣】、【魔獣】の精肉店を営む【グランツ】【ベゼネッタ】夫妻。の【グラベゼ精肉店】

 明らかに以前より品揃えが良くなった【メール】の【フィフス】商会。

 今では一人でなく、何人かの弟子かお手伝いさんを雇っている【サイモン】の【マイホーム鍛冶屋

 他にも【サクマ】が直接取れた野菜を売りに出している【サクマ青果店】やお茶が好きな【リンド】が考案したのだろう。【リンドの十八茶屋】など、そこには前から知っている友人の店や新たに参入してきた店で人が溢れており。【新二】は静かに涙をながした。


「ねぇ【ロモッコ】さん。俺は今夢見てる見たいでとても幸せだ・・・」


「そう?、ならいっそ此処に住んじゃう?」


それはからかい半分、本音半分の言葉だった。


「いや、だからこそ俺は更にこの村を守りたいと思うよ。例え【第五兵士団】がこの村を見捨てても、俺は必ず助けに来れるように。いや来るように」


「今の現状で【第五兵士団】が【ファイゼ】村を手放すなんて不利益しか無いと思うけど?」


「今はそうでも未来は分からないよ。そうだ!!。俺は帝都に行って【第五】以外の【兵士団】に入り、そこで階級を上げて【第五兵士団】が村を見捨てても助けられる位偉くなるよ!!」


それはとても子供っぽく、馬鹿馬鹿しい夢だった。【ロモッコ】はそんな【新二】を小さく笑いながらも、きっと【新二】なり村を思って出した答えなのだと思い、【新二】にミサンガのような組紐を渡す。


「これは?」


「それは【封印】、【六等兵士】以上の兵士が膨大過ぎる魔力で一般人を威圧してしまわないように自身の魔力に制限をかけるアイテムよ。村に入ってからずっと魔力を押さえて要るでしょ?」


「やっぱりバレてたか・・・」


【新二】はミサンガを器用に片手で左足首に結ぶ。


「いつから気付いてた?」


「村の北門で久しぶりに再会したときからよ」


「ほとんど始めからじゃないか」


「今の【マエダ】君の本気の魔力ってどれくらいなの?」


「ざっと【格付け】で此処から村にいる全ての兵士を簡単に気絶させられるくらいはあるね」


「えっ!!それって魔力だけなら【七】、いいえ。【八等級】はあるってことじゃ!!」


「さぁ残りの場所をさっさと巡って帰ろうぜ!!」


「ちょっと【マエダ】君!!待ちなさい!!」


こうして互いにからかいながらも【ロモッコ】の先導の元、理想的に発展した【ファイゼ】村を巡る案内は終わり。【新二】は【ファイゼ】村の兵士として最後の【夜の間】での眠りに付く。


「寝れないな」


ベッドの上で目を覚ました【新二】はこっそり窓から屋根に登り、満天の星空を眺める。


「これは珍しく先客がいたかな?」


「【ケインズ】さんか」


【ケインズ】は【新二】の隣に迷う事無く座り、お互いに無言の時間が流れる。


「どうだった村の姿は」


「ああ、見えない色んな人の努力を感じたよ」


「本当に村から出ていくのか?」


「ああ、今の俺にとってこの村は優しすぎる」


「居心地は悪くはないんだろ?」


「だからさ、【第五兵士団】を疑う訳じゃないが。もし見捨てた時でも俺が守れるくらい強くなってやろうって思った」


「普通は【第五兵士団】で出世して守ろうとするのでは?」


「なんかあの【剣】の婆さんの下につくのはごめんだ!!」


「ハッハッハ!!【マエダ】君らしい理由だね。普通はどの【兵士団】でも入団出来ればエリート同然。なのにそれを断って出ていくと言いきった【マエダ】君に新しく入った【第五】出身の兵士達は驚いていたよ」


「入団できただけで喜んでるような連中じゃこの先思いやられるねぇ・・・」


「さっきも言ったけど普通は入団出来るだけで凄い事なんだからね?。どちらかと言えば喜ばない【マエダ】君の方が異常さ」


「俺は別にただやりたい事をやって、思った事を言ってるだけだ」


「ほら、これ。おそらく今後必要になるだろう、持っていくといい」


【ケインズ】が渡したそれは各【兵士団】の入団試験の案内だった。


「各【兵士団】は帝都の【訓練学校】から【訓練兵】を直接スカウトする以外にも、こうやって各【兵士団】に所属していないの兵士に募集をかけ、入団試験に合格した者を採用する場合があるんだ。本来【第五兵士団】に所属する俺達には必要無い物だけど、もしかしてと思って取っておいた」


「ありがとう【ケインズ】さん・・・」


「行ってこい【マエダ】君。そして俺達を驚かせてくれよ。俺達が見送った仲間はこんなにも凄い奴だったって自慢させろよな」


【ケインズ】は【新二】の肩に手を回して組、【新二】は左手を同じ様に回して【ケインズ】の肩を軽く叩いた。


「ああ、勿論だ」

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