第9話 卒業試験の行方
衝撃波を撃つ拳と蹴り。下手にガードすれば衝撃波でダメージを負いかねない状況。
【新二】は辛うじて拳と足の軌道をずらし、直撃を受けない立ち回りに専念する。一方【ブラウン】教官は口元の緩みが徐々に笑顔に変わって行き、打撃の切れ、速さ、重さが上がり。【新二】にも徐々に見えない速さへ到達しつつある。
「(しまっ・・・)」
軌道をずらせなかった蹴りが【新二】の顎を捉え、【新二】の視界は真っ暗になった。
【随分と手を焼いていますね】
何処までも続く鏡面のような水面に淡い紫の空、【千時】と初めて出会ったあの空間に【新二】は居た。
空に次々【ブラウン】教官との戦いの場面が映されては消えていき、やがて記憶の最後にある蹴りを食らったシーンで映像が消えると。目の前に【千時】が浮かんでいた。
【あの教官は強い。貴方より力も、技も、経験も・・・】
【千時】の言葉が【新二】の胸に重く突き刺さる。
【今の貴方では勝つ事など無理でしょう】
「それで俺はどうすればいいんだ?」
【逃げれば良いじゃないですか。この試験は明日の夜明けまで逃げれば勝ちなのですから】
【千時】の言葉に【新二】は小難しい顔ををして黙り込む。
【【ブラウン】教官に勝ちたいと思っているのですよね。このまま逃げて卒業試験を合格するなんてカッコ悪いと・・・】
【新二】は不満そうな顔になるが【千時】の言葉は続く。
【まるで小学生がワガママ言ってるようで、カッコ悪いですよ。私の使い手として情けない】
【新二】の眉毛がピクリと動く。
「だったら【千時】ならどうするだ」
【新二】に問に【千時】は【フフフッ】と笑い、淡い紫の空に蹴り飛ばされて気を失っている【新二】が映った。
【私ならこうします】
気が付くと【新二】の目前に地面が迫り、【新二】は咄嗟に受け身を取ろうとする、しかし身体が【新二】の意識に反して【千時】を振った。
暴風が地面と【新二】の間に吹き荒れ、【新二】は地面に激突する事なく無事に着地する。
【ブラウン】教官は突然魔力をかき集め、吸収しだした【新二】の【心器】に眼を細め。現役時代幾度と味わった得体の知れない恐怖に嫌な汗が流れる。
「(今の数瞬でなにが起きた?奴はまだここまで【心器】を扱えていなかったはず・・・)」
【千時】を通して【新二】の体内に魔力が流れ込み、戦闘で負ったダメージを回復させていく。
【【新二】、この感覚を覚え、自力で使えるようになりさい。回りにある魔力を関知し、集め、吸収し、細胞を活性化させ、傷を治す】
【新二】の体内に【千時】から得体の知れない何かが流れ、身体のあちこちが風呂に入った時のように疲れが取れ、痛みも退いていく。
【身体の治癒も終わりましたので戦闘にはいります】
「えっ?ちょっとまって!!」
【千時】の声が聞こえると【新二】の身体は【ブラウン】教官に向かって全速力で走る。
【【新二】、私の形は【刃物】と【扇】を掛け合わせて創造されました。よってその力もそれらの特性を受け継いでいます】
【千時】は【ブラウン】教官とまだ距離があるにも関わらず自身を【新二】に振るわせ、緑色の斬擊が幾つも【ブラウン】教官に飛んでいく。
【ブラウン】教官は拳と足で【千時】の斬擊を砕き、目前に迫った【新二】に拳を打ち込む。
【ここです】
【千時】は【新二】の後ろに自身を振るわせ、突風を起こし、【新二】の身体を加速させる。
【新二】の蹴りが【ブラウン】教官の予測を越える速さで教官の腹に到達し、今日初めて【ブラウン】教官に重い一撃が入った。
【まだです】
【千時】は突風による加速、急転換、斬擊と飛ぶ斬擊による近、中距離関係無しの攻撃に。魔力吸収による自然治癒で【ブラウン】教官を追い詰めていく。
「(これ程までに成長したか・・・)」
【ブラウン】教官はあまりの嬉しさに口元が緩み。全力の蹴り上げで【千時】の斬擊を消し飛ばし、流れを一気に止める。
【スーーーフゥーーーー!!】
【ブラウン】教官が深呼吸し右の拳に力を溜める。
【【新二】、あの一撃を撃ち破れば貴方の勝ち。力の全てを私に込めなさい!!】
【ウオオオオオオ!!】
【新二】は【千時】を両手で持ち、叫びながら【ブラウン】教官に斬りかかる。
「【進撃】」
【ブラウン】教官の静かな呟きが【新二】の耳に入ると、螺旋状に風を纏った拳が全力の【新二】の斬擊を打ち抜く。螺旋状に風を纏った拳はそのまま【新二】の身体を貫通し、衝撃波は遠くの山まで飛んでいき、土煙の柱を立ち上らせる。
【新二】は被弾した衝撃に飛ばされ、地面を削りながら転がり、【千時】を通して魔力がダメージを回復させるが、回復が追い付かず【新二】の意識を朦朧とさせる。
【お疲れ様、貴方はよく頑張ったわ。今回は少し相手が悪かったわね・・・】
【千時】の優しい声が聞こえたと思うと【新二】の身体が突風で吹き上げられ。【新二】の意識は暗転した。
【ブラウン】教官は突風で遠くに飛んでいく【新二】を見送り、自らの右手を見て苦笑する。
「ワシも年老いたな、入隊して一月の訓練兵に拳を斬られるとは・・・」
【ブラウン】教官の拳は中指の付け根から手首にかけて切られており。赤い血が地面に血溜まりを作る。
「否、奴がそれ程までに成長した証ということかのう・・・」
【ブラウン】教官は【新二】が飛ばされていった方角を見ながら微笑み、追わない事を決めた。
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