第15話 力試し

【バウンズ】兵士長は【新二】の出方を見ていた。


「(さて、どう出てくるか・・・)」


【バウンズ】兵士長は【新二】の姿から戦闘スタイルを予測する。【新二】は武器らしい武器を携帯していない。よって魔法か、武術、もしくは暗器の類いになる事が予測できる。しかし魔法系統なら増幅装置でもある杖を大小なり携帯するものなのでその線は薄くなる。そして暗器系なら集団戦闘は避けるべき基本なので魔物の群れと戦った【新二】にその線も薄くなった。


「(やはり体術と見るべきか、クックック・・・)」


【バウンズ】兵士長は【新二】との戦闘を楽しみにしている自分に笑いが込み上げてくる。


「(ここ最近事務仕事ばかりだったからな、ストレス解消に血が騒ぎやがる)」


【バウンズ】兵士長は【新二】がどう動くのかが楽しみで楽しみでしかがたなかった。


「(やっぱり【バウンズ】兵士長ニヤけてるよなぁ・・・俺を試したくてどうしようもないって感じだ)」


【新二】はゆっくり深呼吸すると右手を横に付きだし名を呼ぶ。


「【千時】」


【新二】の右手に紫色の光が集まり、一枚の扇が現れる。


「驚いたな、その年で【心器】を具現化させたのか・・・」


【バウンズ】兵士長の驚く顔に、【新二】はた淡々と言う。


「コイツは【千時】、俺の大事な相棒さ」


【新二】は魔力で身体を活性化させ【バウンズ】兵士長の顔に拳を入れる。


「いい拳だ、魔力の消費と活性化具合の比率もいい。だが・・・」


【バウンズ】兵士長は片手で【新二】の拳を止めると、【新二】の腕を反対の手で掴み。一本背負いで【新二】を地面に叩きつける。


「グッ・・・」


【新二】は背中から地面に叩きつけられ、痛みで顔をしかめる。


「【地竜】の硬い鱗を剥がすには力が足りないな・・・」


【新二】は後転しながら蹴りを【バウンズ】兵士長の胸に撃ち込むが、兵士長はピクリとも動かない。


「これで少しは安心してくれたかな?さっきも言ったがで掛かってきなさい。この程度の力では私に通用しない」


【バウンズ】兵士長の瞳には先程の楽しげな雰囲気はなく、何処か刃物のような鋭さすら【新二】は感じた。


「それは失礼しました。では胸をお借りする気持ちで全力で行かせていただきます」


【新二】は【バウンズ】兵士長から距離を取ると消耗を気にせず全力で魔力を吸収し、身体を限界まで活性化させる。

 【新二】から溢れる魔力で訓練場の砂が【新二】を中心に砂埃の波紋を広げる。

 

【行きます】


【新二】が呟くと【バウンズ】兵士長は背後に剣を構え一瞬で周り込んだ【新二】の斬擊を止める。


「(これが【マエダ】の本気か・・・まぁ予想通りの力だな・・・)」


ギリギリと火花を散らす扇と剣。【新二】が剣を上に跳ね上げ、均衡が崩れると【千時】を上に跳ね上げた斬像をなぞるように緑色の斬擊が放たれる。【バウンズ】兵士長は崩れた体制のままエビ反りになり、斬擊を紙一重で回避し、【新二】に斬り込む。

 【新二】は【バウンズ】兵士長の剣を【千時】で止め、止める為に振った軌道で斬擊を飛ばし。一振りで2回の斬擊を作り出す。 


「(飛ぶ斬擊を利用した一振りで2回斬る【追撃】を習得済みか・・・少し厄介だな)」


【バウンズ】兵士長は【新二】の斬擊を匠な足裁きと剣のいなしで攻略し、訓練場に【新二】の斬擊による亀裂が増える一方、【バウンズ】兵士長は無傷だった。

 

「せい!!」


【新二】は【千時】を横に振るい突風を巻き起こす。【バウンズ】兵士長は【新二】のお越した突風を剣で切り裂き、左右に別れた風が訓練場の壁に到達し、砂埃が立ち上がる。


「この程度か君の実力は?」


【新二】は肩で息を切らしながら、額の汗を袖で拭う。


「(駄目だ・・・全然捕らえられない・・・)」


【バウンズ】兵士長は【新二】の攻撃を全て受け流すか、紙一重で回避し。【新二】は直接的なダメージを【バウンズ】兵士長に与えられないでいた。


「(あれだけ動き回っているのに【バウンズ】兵士長は呼吸の乱れすらない。このままじゃ駄目だ・・・)」


【新二】は呼吸を整え、【千時】を高く掲げる。


「(斬擊も突風も効かないのなら、逃げ場が無い範囲を斬擊で切り続けるしかない!!)


【ハァァァァア!!】


【新二】は雄叫びを上げながら【千時】を一心不乱に振り続ける。

 

「(ここまでだな)」


【バウンズ】兵士長は【新二】の乱れ撃ちに打つ手がなくなったと判断し、さっさと【新二】を倒して幕引きを計ろうとする。


「(なにッ?!さっきよりも斬擊が重くなっているだと!!)」


【新二】が一心不乱に放つ斬擊はまるで燃え上がる炎のように一撃ごとに威力が増していき、【バウンズ】兵士長も次第にいなせなくなっていく。


「(こんなのありえん。体力がつきかけた者の重さではないぞ!!)」


訓練場の強固な壁には結界でコーティングされているにも関わらずいくつもの斬擊が刻み込まれ、さらに亀裂もどんどん大きくなっていく。


「(そうか【マエダ】君、きみは追い詰められれれば追い詰められるほど力を発揮する【窮鼠きゅうす】だったんだ!!)」


【バウンズ】兵士長の身体に幾つもの切り傷が刻まれ、血が訓練場に滴り落ちる。


「まさか、【新兵】に使うことになろうとはな・・・」


【バウンズ】兵士長の口元が自嘲気味に少し開く。


「【雷波らっぱ】ッ!!」


【バウンズ】兵士長の身体から雷の波状紋が広がり、【新二】の斬擊を簡単に砕きながら進む、波紋は瞬く間に【新二】にたどり着き、幾つもの雷を落として消えた。


「グカァ・・・カカカ・・・」


身体を雷に貫かれた【新二】は口から煙をだして、前のめりに倒れる。


「すまん・・・手加減してたら危なかったんだ・・・悪いな」


【バウンズ】兵士長が医療兵を呼ぶ中、【新二】の視界は暗転した。

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