第22話 兵士と鍛治屋

【千時】がより深い緑の光を纏い。深緑の閃光が次々飛びかかって来た狐顔を切り裂き、5体の残骸がその場に転がる。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


【新二】の額から冷や汗がどばっと溢れだし、頬を伝って地面に落ちる。


【やれば出来ましたね、【新二】


「かなりりギリギリだったけどな、グッ・・・」


緊張が途切れて左足の痛みが再びやってくる。


【速いこと治さないと、厄介ですね。応急処置を言うので指示に従いなさい。まずは折れた骨を真っ直ぐ力ずくで戻しなさい」


「まじで?」


【まじです。早くやりなさい】


「はい・・・」


【千時】の声は【新二】に他の選択肢を与えない程の威圧があり、【新二】は顔を引き吊りながら折れた左足に触れる。


【加減せずに思いっきりやりなさい、半端な力は痛いだけですよ】


「はい・・・」


【ではカウントしますよ、ゼロ!!】


「グァアアア!!」


地面に置いていた【千時】が勝手に動き、【新二】の手を押して無理やり足を元に戻した。


【はい、戻りましたので折れた箇所に魔力を送り、ゆっくり深呼吸しなさい】


「ひでぇよ【千時】いきなりゼロスタートとか不意打ちじゃないか!!」


【【新二】君のやわな精神じゃ自力で骨を元に戻せないでしょう、どうせカウントが少なくなったらちょっと待ってとか言って時間を無駄にする位なら始めから不意打ちでも治します】


「ぐうううう!!」


【千時】の正論に【新二】は何も言えず、怒ってそっぽを向きながら左足に魔力を集中させ、活性化させる。


「そろそろ行くか」


10分程で打撲した時程の痛みまで軽減した左足を触り、感覚を確かめると【新二】は改めて狐顔の魔物を観察する。


「しかしコイツら生物なのか?」


通常生物は人間に限らず、昆虫でも魚でも血となる体液がある。しかし【新二】が切り倒した狐顔の断面には、血は無い処か骨もない。まるで岩石を切ったような感じに近い。

 【新二】は試しに切った狐顔の半身を持とうと身体を活性化させたが、それでも重く。一度に全て運ぶのは不可能な重さだった。


「仕方ない、少しずつ村へ運ぶか」


【新二】は【千時】に魔力を纏わせ、狐顔の半身を更に半分に切断した。


「今まで何処にいたのよこのバカ!!」


日の出と共に【ベイル】町を出た【ケインズ】と【サイモン】は昼過ぎに【ファイゼ】村へたどり着ついた。【ケインズ】は【ロモッコ】に遅れた詫びと鍛治屋候補の【サイモン】を連れてきたことを報告しに【駐在所】へ向かった所。目の下に隈を作った【ロモッコ】がゾンビのような表情で仁王立ちしていたのだった。


「ごめんなさい!!でも・・・」


「でもじゃありません!!」


「ぐあっ!!」


【ロモッコ】は【ケインズ】の胸ぐらを掴んで引き寄せると、ポロポロと涙を流し。緊張が溶けたのかゆっくり気を失った。


「ワリィな・・・でもちゃんと吉報も持ってきた。ゆっくり休んでくれ」


【ケインズ】は【ロモッコ】をお姫様抱っこして仮眠室に運ぶと、少し気まずそうに【サイモン】を見る。


「今のがここのボスか?」


「まぁ、そんな所かな。彼女は【ロモッコ】【ファイゼ】村の復興、安全管理、他の町村との貿易などを一手に任されてる人だよ。俺はその補佐だ」


「へぇー、エロい事するならワイの知らないところでやれよい」


「ヤんねぇよ!!」


【ケインズ】は顔を真っ赤にして怒鳴るが【サイモン】はどこ吹く風と飄々している。


「それでワイのマイホームはどや?」


「マイホーム?」


「鍛治屋のホームは鍛治場やろアホ!!」


【サイモン】の言葉に【ケインズ】は難しい顔をし、視線を天井、壁、窓、床等に反らすと頭を下げた。


「ごめんなさい!!この村に【鍛治場】は無いんだ」


「なぁにぃー!?、ワイに鍛治だけでなく【マイホーム】も作れっちゅか?」


「ごめん・・・」


「まったくとんでもない貧乏くじ引いたのう」


【サイモン】は呆れて深いため息をついたが、勝手に親元を離れてきた手前、何もせずノコノコ帰ってきたらあのクソ親父の事。鍛治場にすら入れずに半年掃除の見習いからスタートもあり得る。【サイモン】は渋々【マイホーム】を作る場所の下見に【ケインズ】と村を回った。


「ここなら最低限は整ってそうかな」


【サイモン】がそう言った場所は村の外壁より30メートル離れた草地だった。


「なぁ【サイモン】さん、ここは村じゃねぇぞ?」


「村ん中にねぇからしゃあなく外に作るんやないか。てか、あんな村ん中作れっか!!」


【サイモン】は突然大声を出して槌を地面に投げつけて突き立てる。


「鍛治ってのは火だけでなく、水も、空気も魔力も使う。【ベイル】町の【マイホーム】は壁にも炉にも【耐火】【耐衝】の結界を張って万一の事故にもそなえとったんや。だがここではそんなもんああせん。無いもんはしゃあないから村の外に作るんや」


【サイモン】はざっくり地面に建物と炉の位置を描く。


「【ホーム】は今日から作る。レンガとセメント、地面を掘る道具貸せや!!」


【サイモン】は【ケインズ】に片手を出して請求するが【ケインズ】は材料の代わり頭を下げた。


「ごめんなさい!!この村にはまだレンガもセメントも無いんです」


「はぁあああ!?話にならんやけドアホ!!」


「ちょっと待って【サイモン】さん!!」


【サイモン】は【ケインズ】の静止を振り切り、地面を強く踏みつけながら【ロモッコ】という代表者へ村の鍛治屋を辞退すると伝えに【駐在所】へ向かう。


「(こんなんありえへんやろ普通!!)」


小言をブツブツ言いながら【サイモン】は村の中を早足で歩く。


「見えた、あそこやな!!」


遠くに【駐在所】を確認し、【サイモン】は走り出そうとした時、【サイモン】の耳が耳障りな音を拾い【サイモン】は音の方向へ走り出す。


「どこのアホウやふざけた研ぎ方しとるやっちゃわ!!」


【サイモン】がドアを力強く開けると、【ベゼネッタ】【グランツ】夫妻が魔物の解体を終えてナイフを研いでいた。

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