第23話 刃物の声

「あーあ、こりゃもうどうにもなんねぇぞコレ」


【ベゼネッタ】のナイフを【サイモン】は奪いとり、刀身、刃先、切っ先を見て余りの酷さに思わず手が動く。


「人様の家に勝手に入って来てなにすんだい!!」


「うっせわ!!刃物の手入れもろくにできねえ素人が!!黙って見てろ!!」


【サイモン】は怒鳴る【ベゼネッタ】に言い返し、鞄から自前の砥石を取り出すと勝手に桶の水を捨て、水瓶から新しく水を汲み、研ぎの準備をする。


「見ろ、刃こぼれがこんなにあって無理に研いでるから刃先のバランスが崩れて変形してやがる」


【サイモン】は研ぎ以前の問題にナイフの刀身が曲がっている事。刃先が波打ってる事を【ベゼネッタ】に指差しして指摘すると、親指を支点にしてナイフの刀身を調整する。


「本来は打ち直しだが、こんなボロじゃ耐えきれないからな」


愚痴を溢しながらも手際よく【サイモン】は刃先を鉄ヤスリで形を整え、荒砥、中砥と研ぎ。【サイモン】の基準では刃物ではなくクズ鉄だが、多少はナイフを弔う事が出来た思い、その場を後にしようとする。


「アンタコレ見てみ!!」


「凄いぞ!!まるでのようだ!!」


【サイモン】の後ろでせっかく弔ったナイフが魔物の端材で試し切りされてて【サイモン】は貧しい村のナイフは安心して眠る事も出来ないのかと憤りを感じる。


「ありがとう、アンタ凄いね。アタイの愛刀も喜んでるよ」


「愛刀?、あんなボロでか?」


【サイモン】は苛立ちを隠さない顔で【ベゼネッタ】を見るが【ベゼネッタ】は笑顔のまま。


「そうさ、この村には鍛治屋もいないし、良質な砥石もない。騙し騙し使ってきたけど、それでもここ最近の解体で限界だったんだよ。だけどこの子はアンタに研いでもらった今が一番生き生きしてるよ、過去数十年一度だってなかったくらいに」


「そうか・・・」


【サイモン】は【グランツ】に向けて手を出し、ナイフを請求すると。【ベゼネッタ】のナイフ同様に弔う。


「アンタ名前は何て言うんだい?」


「【サイモン】鍛治屋・・・のな・・・」


「アタイは【ベゼネッタ】魔物の解体を担当してるよ」


「【グランツ】だ、同じく魔物の解体を担当している。ナイフをありがとう」


【サイモン】はそっぽを向きながら、少し照れ隠しで後頭部を掻く。


「礼は要らねぇ、ナイフが泣いてたからワイが来て慰めた。そんだけやい・・・」


【グランツ】のナイフも研ぎ終え、この場にいる理由が無くなった【サイモン】は【ロモッコ】に改めて「村の鍛治屋を辞退」すると言いに建物から外へ出ようとした時、誰かとぶつかった。


「おっと、ワリィな」


「こちらそこすみません」


互いに軽く謝り、すれ違った瞬間。【サイモン】は黒髪の少年が引きずってきた物に目を疑う。


【テメェそれどうした?!】


【サイモン】の驚く声に少年は少し肩をピクつかせて驚くと一言。


「襲われたから狩ってきた」


と言った。


時は少し遡る。【新二】は狐顔の一部を引きずりながら村の門へとたどり着いた。村の門番である【ジーンズ】さんはいつも訳の分からない魔物も狩ってくる【新二】にも慣れ、苦笑しながら中へ入るように促し。【新二】は軽く会釈しながら門を通ると、とりあえず【グランツ】【ベゼネッタ】夫妻の元へ狐顔を見せに向かったのだった。


「おっと、ワリィな」


「こちらこそすみません(初めて見る人だなぁ)」


【新二】は自身と同い年くらいの赤髪の少年とぶつかった。少年はこの村で初めて会った顔のこともあり、若干気になりながらも部屋の中にいる【グランツ】、【ベゼネッタ】さんの二人を見つけ。引きずってきた狐顔を見せようとした時、少年が声上げた。


【テメェそれをどうした?!】


【新二】の持ってる狐顔に向けて言った少年の一言。【新二】は「【サクマ】に頼まれる→畑を荒らした犯人を追う→襲われた」と簡潔に脳でまとめ、答える。


「襲われたから狩ってきた」


「はぁ?、テメェソイツがどんな奴か知ってんのかい?」


「いや、分からないから魔物の解体をやってくれてる【ベゼネッタ】さん達なら詳しいかと思って来たんだ」


「テメェ、ソイツがどんな魔物か知らずに良く生きてこれたなテメェ!!」


少年は頭を抑えながら大げさに身振りする。


「ソイツは【鉄喰らい】!!。鉄分の豊富な地層に巣くう無機物の【魔法生物】だ!!」


「「「【魔法生物?】」」」


「テメェらの顔、分かってねぇツラだな。いいか、魔物には【有機物生物】と【無機物生物】があってな。【鉄喰らい】は名前の通り、鉄分を多く含む鉄鋼石が良くとれる地域で確認され、鉱脈の手掛かりとなる反面。縄張り意識が強く、【鉄喰らい】に気付かれれば【熟練兵】でも命は無いと言われる危険生物なんだよ。さらにその身体は今まで食べた鉄の量によって変化し、生半可な武器では傷すらつけられねぇ。それをテメェは・・・」


全員の視線が【新二】の持つ【鉄喰らい】へ集まり、綺麗に切断された断面に目をぱちくりさせる。


「この灰色の中でも青みと黒みがあり、若干艶がある。そして角度では銀色にひかる特徴の断面。少なくともコイツは少なくとも何十年年は良質な鉄を喰ってきてる。テメェどうやって倒した?」


少年の視線が鋭くなり、【新二】を射ぬく。


「どうやって・・・って【千時】で切った」


若干戸惑いながらも【新二】は正直に答えた。

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