後日談その一 娘の愛情表現が龍みたいな件について
「パパ、しねー」
信じられないことに、娘は『おはよう』の代わりに『死ね』を挨拶の言葉にしている。母親に対しては普通なのに、どうして俺にだけ愛情表現が歪んでいるのか分からない。
「フレア。『おはよう』って言えるか?」
朝のことだ。寝ていた俺のおなかに乗ってきた彼女を抱き上げながら、ふと言葉を教えてみようと試みる。
しかし娘はきょとんとした顔でこう言った。
「しねっ」
「そんなに殺意のない『死ね』を言えるのはお前くらいだよ」
なんだろう。もう聞き慣れたせいかもしれないけど、フレアの『死ね』からは愛情すら感じてしまうから厄介なものである。
「がぶー」
「こら、噛むな。お父さんのお肉はそんなに美味しくないだろ。食べるならお母さんのおっぱいにしておけ」
「……ママ、ちっちゃいよ?」
「ごめん、そういえば食べるところなかったな」
なんであいつは貧乳なんだ。娘のためにも巨乳に生まれてくれば良かったのに。
「パパ、しぬ?」
「死なないけど」
「えへへ~。そっかー」
正直に言おう。俺はフレアのことがよく分からない。話が通じないわけではないんだが、少しずれてるというか、脈絡がないことが多いのだ。
とはいえ、娘としての愛情はある。父性、あるいは親心と呼べる何かが俺にも備わっているのか、フレアのことは死んでも守りたいと思っている。
だけど、この子の出生も不可解だし、なんなら人格もよく分からないので、不思議な感覚はあった。
「……やっぱりお前は、炎龍の生まれ変わりとか何かなのか?」
ふと、勇者王に言われた言葉を思い出す。
あの人はフレアを見て『俺と女勇者と炎龍の魔力が入り混じっている』と言った。つまり、俺が殺した炎龍が、何らかの力で女勇者の子供になったのではないかと推測している。
突拍子のない事態だが、魔法のあるこの世界において処女受胎は前例がないわけじゃないらしい。
「もしかしてお前は、炎龍なのか?」
調べてみたところ、龍の愛情表現は甘噛みすることらしい。
あと、フレアが俺に死ね死ねうるさいのは、炎龍を俺が殺しちゃったせいじゃないかと考えている。つまり俺は恨まれていると言うわけだ。
だからこそ、もしかしたらフレアが炎龍の生まれ変わりなんじゃないかと考えたわけだが。
「うるさい。しねー」
フレアは難しいことなんて分からないと言わんばかりに、俺のほっぺたをかぷりと噛んできた。
唾液がべちょーっとついたけど、まぁそれが不快というわけじゃない。むしろ可愛く思ってしまって、細かいことはどうでも良くなってきた。
「まぁ、なんでもいいや。お前が俺の娘であることに変わりはないからな」
事実なんてどうでもいいか。
とにかく、フレアが俺と女勇者の娘になってくれたことは、とても喜ばしいことなのだから。
このことを、神様に感謝するとしよう――
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