第六十三話 いつから普通の裁判だと錯覚していた?
裁判が進む。
「名前はもう良いとして……生年月日は?」
聞かれたので、俺と女勇者は素直に答えた。
年齢はお互いに隠していないが、今まで聞いて来なかったので、初めてお互いの年齢を知った。
「お前、年下だったのかよ!? 生意気すぎて年上だと思ってた……」
「あんた、年上だったの!? 頼りにならなさ過ぎて年下だと思ってたわ……」
年は近いと思っていたが、彼女は生意気なので年上だと勘違いしていたようだ……実際は二つ年下でびっくりした。
「静粛に。裁判を続けさせてもらおうかのう」
裁判長が木槌を軽くたたきながら、俺たちの私語を中断させる。
「それで、職業は?」
「妊娠中の女勇者。長所は顔」
「お疲れ気味の壺職人。最近の悩みは女勇者」
「……なるほど」
俺たちの解答に裁判長はため息をつく。真面目にやってほしいと言わんばかりだった。
真面目にしているつもりなんだけどなぁ。
「では、検察官。被告人の罪状を説明しなさい」
「はい。被告は『持ってるだけで幸せになれる壺』と明らかに嘘の宣伝で客を集め、不当に多大な利益を得ていました。しかも『他の客を紹介したら値段を安くする』と客を誘惑し、マルチ商法も行っております」
「ほう。今の検察官の言葉に対して、何か違うところはあるかのう?」
「ぜ、全部違うわよ! 『持ってるだけで幸せになれる壺』は嘘じゃないものっ……証拠はあるの? あたしが調べた限り、壺を買って不幸になった人間は一人もいないわよ! しかも、マルチですって? 紹介料を割引してただけだわ」
女勇者が反論する。彼女は自信があるのか、堂々と小さな胸を張っていた。
そんな彼女に、騎士様は申し訳なさそうな顔をしていた。
「う、うむ……証拠は、後で提出しよう。王が持っている」
「王様が? それでは仕方ない、今提出することはできないので、とりあえず検察の言葉は真実としておく。異論は認めぬ」
え? 裁判なのに異論は認めないの?
あの爺さん、ちょっとおかしくないか?
俺はこの時点で、既に爺さんが普通じゃないことを察してしまった。
頼む……お願いだから、変なことにはならないでくれ!
「何それ、卑怯よ! それでもあんたは騎士のつもり? 騎士様はいつから王族の犬になったわけ? 生きてて恥ずかしくないの? 罪なき民衆を陥れるなんて、騎士も落ちたものね……見損なったわ」
蔑みの言葉にも騎士様は反論しなかった。彼は明らかに気後れしているようで、うなだれていた。
「……女勇者殿には、返す言葉もない。しかしこれも仕事……明日の食い扶持のためと、理解していただくことを祈っている。検察からは、以上だ」
おいおい、裁判と関係ないじゃん。
これは俺が罪に問われる心配はないでしょ……ふ、普通の裁判なら、検察側の発言を裁判長が一蹴すると思うのだが。
「仕事なら仕方ないのじゃ。世の中と言うのはな、正しいことだけが全てではない……むしろこの世界は間違っておる。その中で正しく在るなど、無理じゃ。若者よ、胸を張れ。そなたは悪くない」
爺さんは露骨に検察の肩を持っていた。
なんだか雲行きが怪しかった……
「被告人、罪を認めるか? そこの、可憐で麗らかな乙女から答えるがよい」
可憐で麗らかな乙女って誰だよ(笑)
女勇者は粗野で下品なメスイヌだと思う。しかし女勇者は自分のことを可憐で麗らかな乙女と思っているようで、質問を受けてすぐに口を開いた。
「認めないわ。あたしたちは何も悪いことしてないもの」
「なるほど。次に、弁護人……意見はあるか?」
「はい。彼女は無罪です。こんなにか弱い乙女が罪を犯すなど、ありえません……もし有罪にするなら、裁判長。あなたの汚職がいくつも露見することになると思います」
おい、弁護人。脅迫するなよ……裁判長が青ざめてるじゃん。
ってか、論理はどこにいった。弁護人なら法律で物事を語れよ。感情論しかねぇよ。
「ひっ……や、やめてくれぇ。生い先短い老人なのじゃ、見逃してくれ……彼女は無罪としよう。検察官、異論はないな?」
「はい。彼女は無罪でいいです」
ともあれ、女勇者の罪は晴れたようだ。
ふざけた裁判だが、とにかく無実になれればそれでいい。
もちろん、女勇者の次は俺が無罪になるだろう。
そう、思っていたのに……。
「では、次に……そこの、平凡で退屈でつまらぬ顔をした少年に問おう。そなたは罪を認めるか?」
「いや、認めないけど」
「なるほど。しかしそなたは有罪じゃ」
「は?」
今こいつ、なんて言った?
俺のこと、有罪って言わなかった?
ちょっと待て、女勇者が無罪で俺が有罪なわけなだろ!?
いや、落ちつけ、俺……そのあたりは弁護人がしっかり反論してくれるはず……頼むぞ!
「弁護人、意見は?」
「ありません」
「おいぃいいいいいいい!!」
まさかの裏切りに俺は声を荒げた。
どうしてこうなった!?
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