第六十二話 裁判のお時間です!

 一応、俺と女勇者はまだ罪を犯したことになっていない。

 まだその『容疑』の段階なので、裁判で無実が認められたら無事に釈放されるだろう。


「裁判の時間だ。ついてこい」


 逮捕された翌日。

 看守に連れられて、俺と女勇者は一緒に裁判所に向かった。


「ねぇ、あたしと一緒っておかしくない? 普通、こういう裁判って、一人ずつやるんじゃないの?」


「俺は詳しく分からんけど……なんか、色々とおかしいような気がするなぁ」


 だいたい、逮捕された翌日にすぐ裁判なんてするか?

 逮捕されたことないので普通どういう流れで裁判するのかは分からないが、女勇者と一緒にされていることといい、なんかおかしな気がした。


 ……まぁいい。とにかく、無実を証明しよう。

 そして田舎の実家に帰って、平凡な日々を楽しもう。

 願わくば、俺だけ釈放されて、女勇者だけ逮捕されることを祈ろう。


(あ、そうだ、罪は全部女勇者になすりつければ良いのでは?)


 妙案を思いついた!。

 今回の商売は全て女勇者の主導で行われたものである。俺はただ壺を作って売っていただけだ。大して悪いことはしていないので、何か言われた全部女勇者のせいにすることにした。


「うぅ、こんなことになるなんて……ごめんねぇ」


 幸い、女勇者は珍しく意気消沈していた。俺に罪悪感があるみたいなので、彼女の気持ちを晴らすためにも、贖罪ということで罪をかぶってもらおうかな。


 そんなことを考えながら歩いていると、すぐに裁判所に到着した。


「入れ。弁護人は既に控えている……後は裁判長に指示に従え」


 看守の指示に従って、裁判所に入る。

 中に入ると、既に人は揃っていた。


 一番高いところにいる年寄りの爺さんが裁判長かな?

 部屋の中央には壇があり、左側には眼鏡をかけたこれといって特徴のない平凡な男がいた。こっちは恐らく、俺の弁護人か。


 国が用意してくれた弁護士だと思う。法律に詳しくない俺たちの無実を晴らすために、力になってくれるだろう……でも、普通は打ち合わせとかすると思うのだが、いきなり裁判なんて大丈夫なのかなぁ? まぁ、無実になるならなんでもいいんだけど。


 そして反対側には、検察として騎士様が座っていた。俺を逮捕して牢屋に連れてきた人である。

 彼は淡々と資料を整理していた。頼むから、女勇者だけ有罪にしてくれますように。


 それから、背後には裁判の傍聴人が数人いた。


(やれやれ、裁判を鑑賞なんて趣味が悪い……って、母ちゃん!?)


 その中には見知った顔があった。俺の母親であるクソババアが怖い顔をして俺を睨んでいる。

 そういえば店舗や商業権など、全てクソババアに用意してもらったっけ。だから、俺が詐欺罪で捕まったと情報が流れるのも早かったのだろう。


 おっかない……あきらかに怒っていたので、クソババアは極力見ないことにした。喋りかけたら鉄拳制裁されそうだし。


 前を向くと、ちょうど裁判長らしき爺さんが裁判開始の合図を口にした。


「そろそろ審理を開始しようかのう。被告人は前へ出るのじゃ」


 促されたので、俺と女勇者は一緒に壇に昇った。


「これより被告人の審理を行うのじゃが、そなたらには黙秘権がある。答えたくない質問には答えなくて良いが、良心に従って誠実に答えるように」


 そして、裁判が始まった。


「名前を言ってくだされ」


「「黙秘権を行使します」」


 開口一番、聞かれたくないことを冒頭に聞くなよ。

 思わず、女勇者と声を揃えちゃったじゃないか。


「……何故じゃ?」


 まさか初っ端から黙秘権が行使されるとは思っていなかったのだろう。裁判長は困惑していた。

 いや、だって……


「「こいつに名前を知られるのが嫌です」」


 俺と女勇者はまたしても口をそろえて言う。

 裁判だろうがなんだろうが、とにかく俺たちはお互いに名前を名乗りたくないのだ。

 別に深い理由はないのだが、なんとなく意地になっているのかもしれない。


 まぁ、名前は身分を明かすためにも必要なので、黙秘権の対象にはならないだろう。

 一回断ったが、再度聞かれたら俺たちも渋々名乗ったと思う。


「そうか。ならば良い、このまま進めさせてもらおうかのう」


 しかし予想外にも裁判長は名前を聞き返してこなかった。

 まるで、こちらの名前や身分などどうでもいいと言わんばかりである。


(……やっぱり、何かおかしい気がする)


 言葉にできない違和感を覚えながらも、裁判が始まる。

 なんか、嫌な予感がした――

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