第六十一話 詐欺罪の容疑で逮捕される主人公とヒロインとかおる?

 今までのあらすじ。

 壺を作って売ってたら逮捕された。


「騎士様? え? 嘘でしょ? 善良なる一般人を逮捕するなんて、どうかしてるよ!?」


 速やかに刑務所に連れ込まれた俺は、檻の中から騎士様に訴える。

 騎士様は半泣きになる俺を冷ややかな目で見ていた。


「あなたには詐欺の容疑があるのだ」


「冤罪だ! ってか、なんで騎士様が俺を逮捕するんだ……騎士って王城の護衛とかがお仕事だったと思うんだけど!?」


「……その、なんだ。我々は王家に忠誠を注いでいるのでな……いかなる命令も無視できないのだ。たとえば、『最近繁盛して調子に乗ってる店があるから、調査して何か不正な疑いがあるなら潰せ』と言われたら、断れないということを理解してほしい」


「酷い! 横暴だ! まっとうに生きてきた一般市民をこんな目に合わせるなんて……強きを挫き、弱気を助ける。そういう騎士道精神はないのか!」


「騎士道で飯は食えん」


 ごもっともで。高潔な精神よりも彼らは日々の生活を大切にしているようだ。

 ただ、半泣きになる俺を哀れに思ってもいるようで、彼はちょっと気まずそうだった。


「まだ犯罪が確定しているわけではない……明日にでも裁判がある。無実はそこで証明してくれ」


「あ、待って! 置いてかないでぇ」


 言うだけ言って、そそくさと歩き去っていく騎士様。

 その背中を俺は見送ることしかできなかった。


(なんで俺が……詐欺罪? いつ、詐欺をしたんだ?)


 身に覚えがない。

 詐欺って嘘をつくってことだよな?

 うーん……俺がやったことと言えば、壺を売っていたくらいだ。


(壺を『運気が上がる』って言って、売ってただけ……って、あ!)


 ふと、思う。

 この『運気が上がる』って、嘘じゃね? ――と。


 そして、それを提案したのは……


(また、女勇者のせいかぁあああああああああ!!)


 あいつだ。あいつのせいだった。

 確かにあいつのおかげで俺の壺は売れた。でも、それは世間一般で言うところの詐欺だったのである。


 今回ばかりは俺も怒っていた。

 だから、ちょっと後に遅れて連行された女勇者に、俺は説教をしようと思っていた。

 彼女も俺の共犯と言うことで逮捕されたのだろう。


「おい、俺に言うことはないのか?」


「…………」


 俺の真向かいの檻に入れられた女勇者。

 彼女は珍しく無言で俺をジッと見つめていた。

 鉄格子ごしに、俺と彼女は向かい合う。


 それから彼女は何を思ったのか、


「ごめんなさい!」


 いきなり頭を下げて謝罪してきた。


 なんていうことだ。女勇者がまっとうなことをしている、だと!?


「お金がほしいあまりに、法律のことを忘れてたみたい……いえ、でも、これだけは言っておくけど、あたしたちは詐欺なんてしてないわ。第三者から見たら疑わしいかもしれないけど、嘘ではないの。だって、壺を買った人はみんな本当に幸せになってるの! それだけは事実だから、あんたは堂々と胸を張っていいわ」


「……お、おう」


 困った。怒ろうと思っていたのに、こうも申し訳なさそうな態度を取られては、どういう風に接したらいいか分からなかった。


「逮捕されたことは、単純にあたしのミスよ。まさか王族に目を付けられるなんて思ってなかった……あいつらの『出る杭はとりあえず打っておこう精神』を忘れてたわ……うぅ、本当にごめんね?」


 へこへこと謝る女勇者。

 その姿を見て、思わず鳥肌が立った。


「お前は誰だ? 女勇者の皮を被った別人だろ? 俺の知ってる女勇者はな、ここで謝るような可愛い奴じゃないんだ……ここで逆ギレする、頭の悪いメスを具現化したような女が、女勇者なんだぞ?」


「あんたはあたしのことを何だと思ってるのよ! 悪いことしたらきちんと『ごめんなさい』できるわよ!」


 マジかよ……女勇者が『ごめんなさい』できるなんて、今まで知らなかった。


「とにかく! あんたは今回、悪いことしてないわ。あたしも、正直なところ、詐欺なんてしてないと胸を張れる」


「張る胸あったのか?」


「……裁判で無実を訴えましょう? 大丈夫、あたしたちは普通に商売してただけだもの」


 いつものように茶化したが、女勇者は落ち込んでいるのか罵倒を返してこない。

 うーん、なんか調子が出なかった……こんなになるまで女勇者は責任を感じているらしい。


 そういうところを見ていると、なんだか憎むに憎みきれなかった――

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