第六十話 壺でぼろもうけした結果
女勇者の手腕は見事だった。
たちまちに壺は完売し、俺は壺を増産するためにたくさん作ることになる。前回はゴーレムのドロップ素材である『宝石』を素材にしていたので、本当に価値のある壺だったのだが……増産したものに限っていえば、その辺の石ころから作っているのでほとんど無価値な壺となっている。
これも彼女の指示だ。
女勇者曰く、
「原価を限りなく抑えましょう。大丈夫、あんたの壺なんて誰も見てないわ。壺の形さえしていればいいのよ。真に価値があるのは、その付加価値……『運気が上がる』ことだもの」
あいつの分析は的確だった。
「金持ちのおっさんはね、お金では買えない商品をほしがるわ。『名声』『権力』『力』『女』……そして『運気』。それらを金で買えるとなれば、飛びつかないわけがないの」
没落しているとはいえ、女勇者は元貴族。
金持ちの思考パターンも把握しているようだ。
彼女は一応、勇者と呼ばれる人間界でも有数の存在である。戦闘のセンスはもちろん、あらゆる分野に才能があるのかもしれない……これで性格がまともだったら、あるいは世に名を残す英雄になっていたのかなぁ。
そんなことを思わせるくらい、女勇者は大活躍していた。
「ぐへへ。お金がどんどん増えていくわ♪」
金庫には札束が増えていった。
それを眺めて女勇者は幸せそうに笑っている。
俺は別にお金に関して執着がないので、あそこまで喜んでいる理由が分からない。
正直、自分で稼いだお金なんて無価値だと思う。親のすねをかじってもらうお小遣いの方がもらって何倍も嬉しかった。
まぁ、これだけ稼げばクソババア(母)も俺のことを認めてくれるだろう。『こんなに頑張って、すごい息子だね! これからもお母さんにお小遣いを払わせてくれ!』って言うだろう。その時は仕方なくお小遣いをもらってニート生活でも送ってやるか。
「なぁ、そろそろ商売ごっこ終わろうぜ? 飽きた」
そういうわけで、女勇者に店をたたもうと提案したのだが。
「ダメよ。今がビジネスチャンスなのよ? ここで撤退なんてありえないわ。むしろ、あたしたちは投資の段階に入ったの。ここを本店に支店を作るわよ。そして『壺商会』を立ち上げて、壺に関する利権を独占するの。いいわね?」
なんだこいつ……金に亡者かよ。
確かに商会を立ち上げるぜ!と息巻いていたけど、実際それが現実味を帯びてくると大して興味が沸かなかった。俺はお金を生活の手段としてしか見れないので、増やすということに魅力を感じないらしい。
「撤退なんて嫌よ! 絶対に嫌! だいたい、あたしたちはいいことをしてるのよ? 実際に壺を買った人は、なんの偶然か知らないけど本当に運気が上がってるわ……たぶん、あたしの幸せな感情が壺に入ってるの。きっとそうに違いないわ」
「えー……めんどくさいなぁ」
しかし女勇者が撤退を嫌がるので、結局は店をたたむことができなかった。
「ま、あたしの幸せ云々は冗談だけけど……やっぱり、あんたが作る壺ってやっぱりどこか変なのよ。形はブサイクだけど、効果がね……たぶん今回作ってる壺は、誇張抜きで運気が上がってるわ。これはもう魔法アイテムよ。実際、これは数千万の価値じゃすまないと思うの」
「え? なんだって? 小声で聞こえなかった」
「……いえ、なんでもないわ。とにかく稼ぐわよ!」
と、いうわけで、俺たちは稼ぎ続けた。
だいたい一カ月くらいだろうか。稼いだ額を把握できないくらいにぼろ儲けした頃合いである。
「失礼。ここは『運気が上がる壺』の販売店で間違いないな?」
作成した壺を棚に並べていると、男性から声を掛けられた。
「はい。そうですけど」
「あなたが店主で間違いないな?」
「……名目上はそうなってますけど」
答えながら振り向くと、そこには――甲冑を着た大柄な男性が数人いた。
(騎士様だ!)
彼らはきっと、王城に勤める騎士に違いない。
王城の防衛などを生業とする戦闘のエキスパートである。初めて間近で見て感動した。
どうしよう? サインでももらっておこうかな? と思っていると、
「よし、詐欺罪の容疑で逮捕する。大人しくしろ」
「え?」
俺は拘束された。
問答無用でロープでグルグルにされた。
壺でぼろもうけした結果――俺は逮捕されてしまったようだ。
な、ななななんでだよ!?
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