第五十九話 持ってるだけで幸せになれる壺
その日――俺の店にはたくさんの人だかりができていた。
「いらっしゃいませ、お客様。当店の壺をどうぞごゆっくりご覧になってください」
店内ではメイド服を着た女勇者が愛想よく接客していた。
彼女は先ほどまで店先で客寄せしていたのだが、そのせいか中年のおっさんが多いように感じる。きっと、女勇者の外見に騙されたのだろう。
とはいえ俺が接客するよりはかなり効果があるようだ。
現在、女勇者の思惑通り、店に客を集めることができた。
とはいっても狭い店なので十人程度だが。
少し人口密度が高くなった店内で、女勇者が声を張り上げる。
「皆さま、お越しいただきありがとうございます。当店の壺はいかがでしょうか?」
「うーむ……お嬢ちゃん、君に釣られてやって来てしまったんだけど、この壺はダメだね。素材はいいけど、ブサイクすぎるし、二千万は高い。買えなくもないが、簡単に手を出すことはできないよ」
客のうちの一人がボロクソに俺の壺を評価する。
俺はレジで静かに泣いた。ブサイクって言うなよぉ。
「ええ、確かにブサイクです。文句のつけようがないくらいにブサイクですけど……どうしてこんなにブサイクな壺を店に置いているのか、気になりませんか? いかなる理由で、こんなブサイクな壺に、高い値段がついているのか……知りたくないですか?」
その彼女の言葉に、おっさん共が目の色を変える。
明らかに女勇者の話に食いついていた。流石の話術……でまかせを言わせたら女勇者の右に出る者はいない!
「ほう……? 確かに、言われてみればその通りだ。ここにある壺は全て、商品としての価値を有していない。ブサイクだからね」
だからブサイクって言うな!
そんな、俺の心の叫びは当然のように無視されて、女勇者は言葉を続ける。
彼女は、秘密を囁くように小さな声でこう言った。
「実はですね……この壺は、持ってるだけで『運気』が向上するんです」
その時――店内に激震が奔った。
「「「っ!?」」」
おっさんどもが目を見開く。前のめりになったところで、女勇者がすかさず言葉を挟んだ。
「あの男を見てください! 見すぼらしく、大して特徴もなく、平凡でつまらない男性にしか見えませんよね? しかし、あの男はこの壺を手に入れて人生が変わりました。道を歩けばお金を拾い、ダンジョンへ探索に行けば運よくお宝を見つけ、そして……私と言う、美人で美しく、貞淑な妻を手に入れたのです。しかも子宝にも恵まれました。あんなに、さえない男がですよ? それは全て、壺のおかげなのです」
「「「な、なるほど!」」」
馬鹿にされている気がするのだが、なんでおっさん共は彼女の話に納得したのだろう。
なぁ、俺ってそんなにつまらない男に見えるのかなぁ……あまりの言われように、ちょっと泣いた。
「確かに、あんな男がこんなに可憐な乙女を妊娠させるなど、普通ではありえん!」
「こんな一等地に店を構えることができるなんて、そもそもおかしいと思っていたのだ! 運が良かったのなら、納得もできる」
「すごい……この壺を持っていれば、幸せになれる!!」
おっさん共は目を輝かせる。
この時――女勇者の『勝利』が決定したのだ。
しかし彼女はなおも満足しない。
「お客様方は、今日幸運を手に入れいました。お値段は通常二千万なのですが……特別に、お客様が紹介したご友人が壺をご購入されたら、お二人に500万を還元します。特別サービスですよ♪」
その発言に、おっさん共は歓喜の声をあげた。
「やったー!」
「ありがとう!」
「ぜひ買わせてくれ! 一個……いや、二個頼む!」
「だったら俺は三個だ!」
そうして、在庫の壺は瞬く間に完売した。
「すごい! 女勇者、お前すごいな!!」
「ふふーん。あたしにかかればこんなものよ」
今、この時以上に女勇者を尊敬したことはない。
彼女の手腕に、俺は感嘆の声を上げるのだった。
今日、この日以来、俺の店は大繁盛することになる――
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