第五十八話 もしかして俺のこと好きなの?

「バカね。あんたは商売のいろはが何も分かってないわ」


 女勇者がやれやれと炎をちらつかせながらぼやく。

 なぁ、なんで日に日に体温が上がってるの? 近くにいるだけで暑いんだけど、お前のお腹の中には何がいるんだよ。怖いよ。


「お前には分かるのか?」


「あんたよりは分かるわよ。子供の頃は学校で優秀だったんだから」


 夜。売れなかった在庫の壺を前にうなだれていると、女勇者がなんか語ってきた。


「売れる商品というのはね『生きる上で必要な物』か『持っててお得だ!』と思える物よ。壺なんて生きる上で必要ないんだから、お客様に『持っててお得だ!』と思わせないとダメだもの」


「……一理ある。一理あるけど、お前の口からまともな言葉が出ていることになんか違和感がある」


「あんたの中のあたしは何なの? いつも狂言ばかり撒き散らすうんことでも思ってるの?」


 まぁ、だいたい当たってる。

 ともあれ、俺の壺が売れないのはおきゃくさまに『持っててお得だ!』と思わせることができないからのようだ。


「じゃあどうすればいいんだ? 壺を作り直すか?」


「……あんたのデザインセンスじゃ、お客様の目を惹くような壺は無理そうね。そこは諦めなさい。素材は良くても、やっぱりあんたのセンスはブサイクだわ」


 容赦のないダメだしに俺はちょっと泣きそうになった。

 薄々気付いていたのだが、俺にはどうもデザインのセンスがないようだ。料理も味は良いが見た目が微妙ってよく言われるんだよなぁ……。


「ま、作り直す必要はないと思うわ。あたしに考えがあるの


「……どんな考えだ?」


 正直なところ、女勇者は俺より頭がいい。舌戦も強いし、ずる賢い。

 簡単に言うと女勇者は汚い人間なので、俺よりも商売向きの性格をしているのだ。


 そんな彼女は、こんなことを提案してきた。


「大切なのは売り文句よ。『この壺にはこんな効果があるんです!』って宣伝して客を集めるの。そうすればきっと、壺は売れるわ」


「……な、なるほど! お前、もしかして天才か!?」


 すごい! 出会ってから初めて女勇者のことを尊敬した!

 さすがである。意地汚い人間は本当に商売に向いている!


「一個当たりの価格、一千万なんだけど、もっと下げた方がいいかな?」


「まぁ、一般人が手を出せる価格ではないけれど……いえ、このままでいきましょう。むしろもっと高価にして、希少性という付加価値を上げましょう。ターゲットは金持ちに限定するわ」


 幸いにして、クソババアから借りた店舗は首都でも富裕層が集まる高級住宅地である。あのクソババア、本当に息子に甘いな……俺が言うのもなんだけど、こんなバカ息子に一等地を貸すなよ。


「あたしも明日から売り子に出るわ。あんたよりは見目麗しいし、きっと商売は上向きよ」


「お、おう。そうか……それは助かるけど、なんでそんなに協力してくれるんだ?」


 今日の女勇者は、なんか気持ち悪かった。

 いつもなら俺が苦悩する姿を見て爆笑しているはずなのに、やけに親身なのである。


 もしかして、本当にこいつは俺のことが好きなのだろうか。

 そう、一瞬は考えかけたのだが。


「ぐへへ。壺が売れたら、儲けは全部あたしのもの……全部売りさばいてみせるわよ」


 彼女の口から洩れた本音の言葉に、俺は自らの勘違いを訂正した。


(やっぱり女勇者はうんこだな)


 彼女に感謝するのはやめておこう。

 とにかく、明日……女勇者に協力してもらって、どれくらい売り上げがあるのか楽しみである――

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