第五十七話 壺職人として自信だけはありました(泣)

『は? 壺を売る? 店舗を貸してほしい? 私の助けは要らないんじゃなかったのか? ったく、仕方ねぇな……息子に土下座されてる瞬間ほど虚しい時間はねぇよ。ほら、足掻け。商業ギルドにも私が申請しておいてやる……てめぇも稼ぐ苦労を知るといい』


 俺の手にかかれば店舗や商業許可を確保することなど容易だった。

 俺の土下座があまりにも美しかったのだろう。クソババアはため息をつきながら言うことを聞いてくれた。ゴリゴリの肉体派だがなんだかんだ息子に甘い人なのである。


 そういうわけで、やってきた首都『キングレイン』。

 王城のそびえたつこの地は人間界で一番の都会として有名である。

 辺境の田舎出身の俺にとっては慣れない場所だ。正直なところ、俺は田舎の方が暮らしやすいと思っているが、女性に限っては都会っ子がいいと思っている。


 何せ可愛い。都会の女の子は明るい髪色が特徴的で、垢抜けた子が多い。田舎の女の子は黒髪で純朴な子の方が多く、俺の好みとちょっと外れているのだ。


「久しぶりに戻ってきたな~。ねぇ、あっちのケーキ屋さんにも寄りましょう?」


「嫌だ。もうお腹いっぱい」


「は? なんで断るの? 行くのは確定してるのに?」


「じゃあ聞くなよ」


 ……まぁ、女勇者のように外見はダイヤモンドでも、中身にうんこが詰まってる『はずれ』が都会っ子にいるのが残念だが。


 女勇者が満足するまでスイーツ店舗巡りに付き合わされた後、ようやく俺はクソババアから借りた店舗に到着した。


「ねぇ、聞いて! すごいわ、お腹の中にいる赤ちゃんがあたしの栄養を吸ってるから、ケーキがいっぱい食べれるの!」


「そうか。良かったな。奥で好きなだけ食べていいから、俺の邪魔をするな」


「うん! 分かった!」


 なんか喜んでる女勇者はいつもより機嫌が良さそうである。

 珍しく素直に言うことを聞いて、店の奥にある居住スペースに引っ込んだ。


 さて、ようやく集中できるな。


(女勇者にちょっかい出されない内に壺を作っておこう)


 彼女にあげるはずだった宝石を取り出し、魔法をかける。

 すると、一瞬で数十の壺ができあがった。


(質量とか明らかに増えてるんだけど、魔法って便利だなぁ)


 小さい宝石一つが立派な壺になるのは不思議である。

 これで商売の準備は整った。


(壺職人として、俺の壺がどれだけの人に購入されるのか……楽しみだな)


 正直、自信はある。

 俺は壺のためだけに人生を捧げた男なのだ。


 むしろ売れない理由が見つからない。

 きっと俺の壺はかなり売れるだろう。話題が話題を呼び、やがてはクソババアのウェポン商会が無視できないような大規模店舗になるに違いない。その頃には自分で商会を立ち上げてクソババアの商売を邪魔してやろうと思っている。


 そして、俺は壺職人として世界的に有名になるだろう。それくらい俺の壺は素晴らしい。その自負がある。そんな俺を見たら、女勇者もきっと「こんなに素敵な男の人にあたしなんてもったいないわ! 一人で寂しく生きるから、幸せになってね」と言ってどこかに行ってくれるはずだ。


 今日から、俺の人生は激変する。

 壺のおかげで、俺の人生はバラ色になる!!






 そして、一週間後。







「プークスクス! ねぇ、売上聞いてもいい? 壺職人さん、今まで売れた壺の数をあたしに教えてくれますかぁ~?」


 女勇者は盛大に笑っていた。

 俺を見て嘲笑っていた。


「……ろ、です」


「え? なんだって? もっとハッキリ言いなさいよ~」


「ゼロ、です」


「プギャー(笑) ゼロ!? アハハハハ! あの壺職人さんの壺が売れないとか、そんなわけないじゃないのよ~。面白い冗談ね、本当は何個ですかぁ~?」


「……ぜ、ゼロだよ! 何が悪いんだ!!」


「全部よ! 全部悪いわよ! あんた、商売のセンスないんじゃない? 戦闘のセンスはあるのに、それ以外は何もできないのね(笑)」


 そう。俺の壺は売れず、クソババアを見返すことはできず、女勇者を出て行かせることもできていなかった。


 じ、自信はあったのに!


「くそぉ……」


 商売は俺が思ったよりも遥かに難しかった――

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